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モンスター襲来

 クロエと別行動をしていた第13騎士団副団長ジョンサムの前にも、数体の狼型のモンスターが現れ、ジョンサムを威嚇していた。


 ジョンサムの背後には数人の騎士。彼らは、予想だにしない事態に緊張と戸惑いを露にしながらも、各々武器を手に怪物たちと対峙した。


「ちぃっ……面倒くせえな、団長がいないときに……」


 しかし、ジョンサムは慌てる様子なく、苛立たし気に剣を抜き、1人前に出た。

 背後の騎士が緊張しながらジョンサムに声を掛ける。


「ふ、副団長、気を付けてください。乙級モンスター、ハウンド・ウルフです」


 この世界におけるモンスターの階級の上から3つ目――乙級。並の騎士が数人で1体を相手にできる強さのモンスターである。その乙級モンスターが数体現れたのだ。それもあって、騎士たちは強く緊張していた。


 しかし、ジョンサムは騎士たちの言葉に耳を貸さず、数歩ハウンド・ウルフに歩み寄り、ハウンド・ウルフが一斉に飛び掛かると同時に、脚を踏み切った。

 と、次の瞬間、ジョンサムはハウンド・ウルフの1体を斬り捨て、さらに素早い動きで、2体、3体……と倒し、振り向き様に炎の渦を放って、最後の1体を倒した。


「おお……」

「さすが、副団長だ」


 騎士たちはジョンサムの強さに感動の声を上げる。

 乙級モンスターをたった1人で、瞬く間に無傷で倒してのけた。それほど、並の騎士と副団長の間には大きな実力差があった。


 と、突然、ジョンサムが走り出した。


「見つけたぁぁっ!」


 そう言いながらジョンサムはひとっ飛びに2階建ての建物の屋根に飛び上がりつつ、剣を振り降ろした。

 剣は空振り、屋根を大きく破壊する。

 飛び散る破片の先に見えるのは、驚いた顔を向ける黒髪金眼の青年――オレスであった。


「これは、手前の仕業か!」


 ジョンサムはそう言って再びオレスに斬りかかる。オレスはジョンサムの剣をかわすと、隣の建物の屋根に飛び移り、面倒くさそうに頭を掻いた。


「残念だが、俺じゃない」


 オレスは悲鳴と破壊音と煙が立ち昇るベルディの街を見回した。


「ガネッサ、予定と違うだろ……何を考えている……」


 オレスは眉間に皺を寄せて呟いた。


「何言ってやがる、手前以外に誰がやるってんだ。手前とつるんでいた眼鏡小僧が消えたのも、手前の仕業だろうが!」

「何……!」


 オレスは思わずジョンサムを見た。

 アルトが消えた。オレスはこのときまで知らなかった。


「ガネッサの野郎……」


 白いローブの男――ガネッサには釘を刺した。しかし、ガネッサはそれを無視してアルトを襲ったのだ。当然オレスは面白くない。


「さっきからぶつぶつ呟いてばっかりで……言いたいことがあるなら、手前をとっ捕まえてからゆっくり聞いてやる」


 ジョンサムがオレスの立つ屋根に飛び移り、またも剣を向けた。オレスは剣をかわしつつ、ジョンサムに蹴りを入れて距離を取る。


「お前……邪魔だよ」


 オレスから殺気が溢れた。

 さしものジョンサムも一瞬身体が硬直した。しかし、副団長の矜持が、ジョンサムの身体を動かす。


「ふ……ははっ、面白え……元・魔王の力、見せてもらおうじゃねえか」


 ジョンサムは剣を左手に持ち替え、空いた右腕に魔力を溜めた。


獄炎(ごくえん)尽焼波(じんしょうは)!」


 特大の炎の渦がオレスに向かって放たれた。

 乙級モンスターであろうが燃やし尽くすジョンサム最強の魔法。元・魔王といえど、無傷では済むまい。

 が、オレスの力はジョンサムの予想をはるかに超えていた。


「邪魔だと言っただろう!」


 オレスが両手を向けると、巨大な水流が発生し、火炎もろともジョンサムを飲み込み、ジョンサムを地面に激しく叩きつけた。


「副団長!」


 地面に叩きつけられる水流から流れてくる大量の水に、騎士たちは脚を取られないように堪えるのが精いっぱいで、ジョンサムを援護しようにもできない。


 オレスの放った巨大な水流は、少し離れた所にいたクロエにも確認できた。クロエは、数人の騎士と何とかハウンド・ウルフ1体を倒したところであったが、


「クロエ、ハウンド・ウルフ相手ではお前がいても戦力にならん。お前は市民の避難を誘導しろ」


 とほかの騎士に言われたため、とりあえず、巨大な水流の発生した所に向かうことにした。


 役に立たないと言われて、クロエは悔しくないことはなかった。だが、戦力としては、クロエは騎士の中でも低いレベルにあることは自覚していた。このままここにいてもほかの騎士の脚を引っ張りかねない。だからクロエは素直に従った。


 オレスとジョンサムの戦闘の現場にクロエが到着すると、ジョンサムは、雨のように降り注ぐ水しぶきの中で横たわっていた。


「副団長!」


 クロエは直ぐに駆け寄ってジョンサムに呼び掛けたが、ジョンサムは気を失っており、反応はない。腕や脚があらぬ方向に曲がり、全身が骨折しているようだ。


「これは……」


 クロエが周囲の騎士たちを見回すと、騎士たちは怯えながら屋根の上を見ている。

 クロエはハッと上を見た。そして見えたのは、屋根の上から立ち去る黒髪の男。


「魔王……」


 クロエは咄嗟のことに一瞬固まったが、直ぐに意を決する。


「私は奴を追う!」

「お、おい、待て、お前が行ったところで……」

「でも! ここで魔王を放っておけば、もっと悪いことが起こりそうな気がする」


 騎士たちの忠告を振り切って、クロエはオレスを追って走り出した。


 残された騎士たちは逡巡したが、


「落ちこぼれのクロエが行くのに、俺たちが行かないわけにはいかないよな」


 と、数人の騎士がクロエの後を追った。




 ベルディの街から北東に40キロメートルほどの位置に、アユナ湖と呼ばれる大きな湖がある。アユナ湖はベルディの水瓶とも呼ばれ、アユナ湖から流れ出る川はベルディの街の中を通り、海へと続いていた。

 アユナ湖は保養地としても有名で、1年を通して穏やかな気候で、湖畔には宿が点在し、常に観光客でにぎわっていた。


 そんなアユナ湖のほとりに、保養とは縁遠い雰囲気の男がいた。


 雪のように白いローブに身を包んだ男――ガネッサ。


 湖畔の中でも観光客の寄り付かない、山中を通ってしかたどり着けないアユナ湖の東のほとりで、ガネッサはローブの裾を爽やかな冷たさの湖水で濡らしながら、片膝を湖に入れて屈み、右手を湖水に浸していた。


「ガネッサ!」


 背後で声がしたが、ガネッサは振り向かず、その体勢のまま口を開いた。


「オレスですか。思ったよりも早かったですね」

「あんた、どういうつもりだ、街をモンスターに襲わせるなんて……それに、アルトはどうした」

「アルト? アルト……ああ、あの青年ですか」


 そこでガネッサは湖から手を出して、立ち上がりながらオレスを振り向いた。


「私の部下と遊んで……その後は、分かりません」

「……アルトには手を出すなって言ったよな」


 オレスから殺気が漏れる。

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