96 襲われた孤児院
「キャー」
リサの悲鳴が外から響いた。
「どうした」
トニオは、孤児院の建物から外に飛び出した。
外は夕暮れ時で、暗くなりかけていた。
だが、その夜の帳の向こうに異形の群れがいることにすぐに気がついた。
「こっちに来るんだ」
化け物たちに睨まれて悲鳴を上げているリサに言った。
後ろから他の子供たちが出てきて絶句するのが分かった。
横からジルが駆けて抜けて、リサを抱き上げた。そして、孤児院の建物に連れ帰ろうとした。
「早く、みんな、聖堂に避難するんだ」
ファーザーが聖堂の扉の横で叫んだ。
「無駄よ」
イザベラが教会の横から出てきた。
「イザベラも早く逃げるんだ」
「逃げる?」
なんだかイザベラの様子がおかしかった。
イザベラはそのまま、魔物の群れの方に歩いて行く。
「イザベラ、危ない」
トニオはイザベラに声をかけた。
だが、イザベラは魔物の群れの中央にいるひときわ大きな獅子の顔をした魔物のところに行った。
「イザベラ、ご苦労であった。子供たちは?」
「はい。あそこに7人全員おります」
「えぇぇぇ」
トニオは口を開けたまま呆然とした。
「イザベラ? どうして」
イザベラは視線をそらした。
「アレクはどうした?」
「それが、姿を消しました」
「まさか、来襲を気がついたのか?」
「それは無いと思います……」
「まあ、よかろう。では始めるとするか。ケプラ、用意はいいか」
「いつでも」
獅子の化け物が近づいて来た。
「今日は聖夜だそうだな」
すると暮れかけた夜空にトニオが今見ている光景が映し出された。
「ここは精霊神の御使いイェーリーの生誕地の町で、今晩はその生誕祭の聖夜だ。これからこの子供たちを、お前たちが魔王と呼んでいる主様に献上する」
獅子の化け物はそこで言葉を切ると、辺りを見回し、もったいぶった仕草をした。
「イェーリーは子供の守護者で、子供の危機には奇蹟を起こすという。だが、世界の人間どもよ。刮目して見よ。この子供らは今夜、なすすべなく主様の食事となる。もし、人間どもが頼る神が存在するならば、助けが来て奇蹟が起きるはずだ」
獅子の化け物があっと言う間に距離を詰めて、トニオをつまんだ。
トニオは手足をバタバタさせて抵抗したが無力だった。
「おおお、神よ、あなたはどこにおられるんですか。可哀想な子供たちを助けてくれないのですか」
芝居がかった口調で獅子の化け物が言った。
その様子は夜空に映し出されたいた。
「そうだ。国は? 皇帝や国王はきっと民を守ってくれるはず。討伐の軍隊はどこにいる?」
またわざとらしい口調であたりを見た。
「何ということだ! 神の助けも、民を守る兵士もいない。お前たちは見捨てられたのだ」
「「「「助けて〜」」」」
孤児院の子供たちが次々と魔物に捕まっていく。
ジルはリサを奪われ、ジル自身も魔物に拘束された。
「では主様の食卓に通じているゲートを開けよう」
魔物の魔道士が詠唱を唱え始めた。
地面に輝く魔法陣が現れた。
その上に光の扉が浮かんできた。
「これで終わりか。見せ場が全くなかったな。期待はずれだ」
獅子の化け物は、芝居がかった口調を止めて低い声でつぶやくように言った。
最初に連れて行かれたのはリサだった。
「嫌ぁ―。助けてー、お願い。イザベラお姉ちゃん」
幼いリサはイザベラが魔王軍のスパイだったことにまだ気が付かずにイザベラに助けを求めた。
イザベラは顔を横に向けた。
光るゲートの中にリサが吸い込まれそうになっていく。
トニオは獅子の化け物につかまっていて助けようとしても無理だった。
トニオは涙を流しながら目を伏せた。
その時、ものすごい断末魔がした。
顔を上げると、リサの前の光の扉と魔法陣が消えていた。
リサはまだ広場にいた。
「なんだ。何が起きた」
見ると転移魔法を唱えていた魔物の魔道士が太い氷の槍のようなもので串刺しになって絶命していた。
「ここで何をしている」
頭上から声が響いてきた。
思わずトニオは上を見た。
人が夜空に浮いていた。
それは、アレクだった。
【作者からのお願い】
作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら
下記の★★★★★評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。
作者の励みとなり、作品作りへのモチベーションに繋がります。




