93 獅子王と豚将軍
「次の村の人口はどれぐらいだ?」
獅子王は豚将軍に訊いた。
「偵察に出したミツメ火炎ガラスの報告だと、せいぜい数百といったところですな」
「少ないな」
頭が豚で首から下が逞しい人間のような姿の豚将軍が下を向いた。獅子王の鋭い眼光を避けるためだ。
「子供はいるか?」
「上空からは子供の姿は確認されておりません」
「小賢しい奴らだ」
最近、北部の住民は子供たちを疎開させている。せっかく侵攻してもお目当ての子供がおらず、成果を出せないでいて獅子王は焦っていた。
「そうするとイザベラが押さえている7人の子供は貴重だな」
「そうですね」
「クレアモントの町まではどれくらいだ」
「次の村の先です」
「タイミングは?」
「もちろんバッチリです。明日はイェーリーの生誕の前夜祭で聖夜とされています。生誕祭には奇蹟が起きると人間は信じております」
「そこを蹂躙するわけだな」
「そうです」
「一部始終を魔眼で見て記録して、今後、侵攻する町の空に映し出すことができるのだな」
「そのとおりです」
「人間の心は完全に折れるな」
「はい」
「楽しみだ」
「ただ……」
豚将軍が言葉を濁した。
「なんだ。言ってみろ」
「イザベラの報告の通り、あの町には究極の料理人アレクがいます」
獅子王は不快そうに鼻を鳴らした。
「だからどうした」
「アレクは油断ならない相手だと」
「馬鹿も休み休み言え、あいつはたかが料理人だぞ」
「でも、魔物を何体も倒しております。それにシルビア将軍も」
「あいつが倒したのは弱いはぐれ魔物だ。一番の大物はアナービーらしいが、あれは口先だけの奴でそもそも魔王軍の幹部でいたことがおかしいくらいだ」
「しかし、シルビアを倒しています」
「お前も使い魔のコウモリの報告は聞いたろう。シルビアを倒したのはモーリィだ。坑内という不利な状況で、モーリィの猛攻にあい、覚えたての転移魔法の詠唱を完成させて逃げる余裕もなく、顔面を潰され、翼を引きちぎられて死ぬ寸前だった。アクレは抵抗できないでいるシルビアの首を最後に落としただけだ」
「ですが……」
「わけのわからん料理人のスキルとやらで、弱い昆虫のはぐれ魔物倒す程度のことはできるのかもしれんが、我が軍の前では無力だ。羽虫程度の存在でしかない」
「ははっ」
(まったく豚は豚だな)
人間の世界では豚というのは侮蔑の言葉らしいが、魔物の世界では関係なかった。だから豚将軍という呼び名も尊敬をこめて付けられたものだ。
しかし、心配性で弱気なところは、動物の豚と大差ない。
魔物はすべての生物の頂点にいる高等生物だ。だが、あれこれと心配して不安になる豚将軍は、魔物としては失格だと獅子王は思った。
「それに手は打っている」
「手と言うと?」
「アレクはイザベラに殺らせる」
「イザベラですか」
「ああ。イザベラは上手く潜入して、アレクと顔見知りになった。アレクを油断させて、侵攻したら、真っ先にイザベラがアレクを始末する」
「さすがです。イザベラなら間違いありません」
その言い方が不快だった。
豚将軍は獅子王がぶさまにもイザベラに負けた御前試合を観ていた。
「どういう意味だ?」
「イザベラなら間違いなくアレクを倒せるかと」
獅子王は咆哮した。
強面の魔物も失禁するほどの威迫に満ちていた。
豚将軍の顔が恐怖で歪んだ。
「アレクは弱い。人間であるイザベラもだ。覚えておけ」
「ははっ」
「ワレがイザベラにアレクを討たせるのは、あいつがまだ人間を殺したことが無いからだ。人間を殺さない限りは、ワレはまだあいつを信用できない。それだけだ。いいな」
「御意」
豚将軍はかしこまった。
そうしているうちに、村の入口が見えてきた。
「あれか、その村は」
「そうであります」
「よし、進撃だ」
上空のミツメ火炎ガラスが降下すると、火炎を空中に放射した。
魔物の軍勢が太鼓を鳴らし、村を取り囲んだ。
獅子王は満足気にその様子をみた。
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