8 現場検証
「ハルト、これをどう思う?」
ライザはジャンが救出された現場に来ていた。
あたりは一面焼け野原になっていた。3頭のスチールケロベロスを焼き尽くしただけでなく、森が一つ焼失するほどの火炎の跡だった。
「魔法……ですかね」
「これだけの火炎魔法を使える者が、この国に、いや、この世界に何人いると思う?」
副隊長のハルトは言葉に詰まった様子でいた。
「10人、いや、もっと少ないかもしれません」
「そうだ。Sランクの冒険者のパーティの魔術師か、最高位の王宮魔道士のレベルでなければこれだけの火炎魔法は使えない。そんなやつは両手で数えられる人数しかいない」
「はい」
「その者のいずれかが、このあたりに来たという情報はあるか」
「いえ」
「それにもう一つ問題がある。スチールケロベロスは70年前の大戦で勇者ですら苦戦した魔物だ。熱には弱いがあらゆる物理攻撃を通さない鋼鉄の毛皮を持っていて敏捷性も高い」
「はい」
「仮に最高位の魔道士がこの現場で最大級の火炎魔法を放ったとして、それだけの巨大な魔法を発動させるための術式を整えて詠唱している間、どうやってスチールケロベロスの攻撃を防いだ?」
「それは……」
「魔法は確かに強大な力だが、発動させるまでに時間がかかる。これほどの火炎を出したのなら数分以上詠唱を唱え、魔法陣を構築しなければならないはずだ。魔法の発動と引き換えに差し出すマジックパワーと呼ばれる術者の生体エネルギーも膨大なものになる。術者が物理的な攻防を繰り広げたり、移動しながらできるものではない」
「そのとおりです」
「だから勇者か剣聖レベルの者が、援護しなければならない」
「剣聖といえば、シービングキャットを止めたのも剣聖レベルの技ですね」
「そうだ。シービングキャットは足の急所の腱を一刀のもとに斬られている。6体すべてだ。剣の達人でないとできない技だ」
「すると、剣聖レベルの剣士と最高位の魔道士が少なくとも今回の件には関与しているということですね」
「だが、その者たちが関与したという痕跡は皆無だ」
「そのう……」
「なんだ、ハルト」
「同じ人物がやったのでしょうか」
「それは絶対にありえない。剣士が少しばかり魔法を使えたり、魔道士が体術を習い、町のチンピラ程度とはやりあえたとしても、こんなレベルの戦いを生身の人間が1人ではできない。たとえそれが伝説の勇者であったとしてもだ」
ライザはきっぱりと言い切った。
(そう。こんなこと絶対にありえない)
70年の時を経て、組織的に編成された魔物が人を襲ったことも、その魔物がこんな風に殺られたのも、世の常識を超える出来事だった。
「では、いった誰がこんなことを」
「こんなことができるのは人間ではない」
「すると」
「巷で噂になっているように魔物の仲間割れかもしれない」
「そうだとしても、これだけの力は……」
「ああ。魔物だとしたら魔王レベルだ」
「奴らが『主様』と呼ぶ70年前に勇者と聖者に永久封印されたと伝えられるあの魔王ですか」
「推測にすぎない。だが、消去法でゆくとそれしかない」
「そんなこと信じられません」
「私だってそんなことを思いたくない。だが、事態を楽観して最悪の事態を想定しないでいるのは、大きな悲劇を自ら招くことになる」
その言葉にハルトはうつむいた。
「では次は何を調査されますか」
「あの男だ」
「あの男?」
「アレクという流者だ。あいつはやはり怪しい。何かを隠している」
「引っ張って来て、また尋問をしますか」
「いや。同じことをしても無駄だ。それよりも、あいつは料理人だと名乗っていた。本当に料理ができるのか確かめて見ようじゃないか」
「でも、やつは料理人のスキル持ちですよ」
「そのスキルがフェイクかもしれない」
「しかしながら、スキルは神聖文字で……」
ライザはその言葉を遮った。
「もし、この件に本当に魔王がからんでいるのなら、神聖文字を偽造してスキルを偽装することだってできるだろう」
「確かにそうですね」
「行くぞ。あのアレクという奴を調べる」
ライザはアレクが泊まっている宿に向かった。
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