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82 商店街での買い物



「アレク、おかわり」


 トニオが空いた器をかかげて言った。


「もう、トニー、それくらいにしなさい」


 ジルがたしなめた。


 トニオは唇をへの字にした。


「だって、こんな美味しいもの、次にいつ食べられるかわからないだろう。今、もっと食べておきたいんだ」


「まあ」


 ジルがあきれたように言った。


「まだあるから大丈夫ですよ」


 アレクは笑っておかわりを器に盛った。


 だが、内心はこれからどうしようと思っていた。【食料庫】の肉のストックが尽きかけていたからだ。野菜はまだミントからもらったものが豊富にあった。しかし、肉はアレクが森で狩りをして自分で食べた分の残りを保存していただけなので数日で全部使ってしまったのだ。


 食事が終わるとアレクはジルのもとに行った。


「買い物をしたいんだけど、案内してもらえるかな」


 小さい町だったが商店については、アレクはまだ把握していなかった。それに食料品だけでなく、防寒具やブーツなども揃えたかったので、ジルに案内してもらおうと思ったのだ。


「いいわよ」


 食器の洗い物は他の子供たちに任せて、アレクはジルと商店街に向かった。


 まずは肉屋に行った。


「すみません」


 店頭には商品は並んでおらず、店員もいなかった。


「はい」


 奥から店員が出てきた。


「肉を買いたいんですけど」


 店員はアレクのことをジロジロ見た。


「悪いけど。売り物はほとんどないんだ。ある分は高値になるがいいか」


 どうやらアレクに支払い能力があるのかを値踏みしているようだ。アレクは成人しているが年齢よりも若く見えた。それに冬が訪れようとしている北国にいるにもかかわらず薄着であることから、コートさえ満足に買えない層の人間と見られているようだった。


「いくらですか」


 店員が告げたこぶしくらいの大きさの肉の切身の値段は驚くような高値だった。


「そんな」


 ジルが口を押さえて小さい悲鳴のような声をあげた。


「先週の4倍以上の額だ。こんな値段をつけたくはないんだ。だが、モノが入ってこない以上、この値段でもうちはやってゆけないんだよ」


「どうしてそんなことに」


「決まっているだろう。魔物が外をばっこしているからだよ。魔物を恐れてハンターは森に狩りに入らないし、牧場で飼育している家畜の肉は、街道を通って流通しない。だから、この町には肉の供給がないんだよ」


 有り金をはたけば、肉塊を一つくらいは買える。だが、それでは今後の宿代にも困るし、子供たちもすぐに飢えることになる。


(肉の調達は別に考えないと)


 アレクは何も買わず肉屋を出た。


「ジル、もう一軒付き合ってほしいんだけどいいかな」


「ええ」


「暖かい服やブーツを買える店を教えてほしい」


「いいわよ」


 商店街の奥にある服屋と靴屋に行った。


 しかし、店は閉まっていた。


 店の扉には「商品の在庫が無いため休業します」と書かれた木札がかかっていた。


 どうやらこの町には何日も商品が入ってきていないようだった。


(どうしよう)


「ジル、ここから一番近い大きな町はどこだい?」


「街道を南西に王都に向けて上ったところにあるアイバンの町よ」


「どれくらいの距離だい」


「歩いて2日くらいよ」


「そうか」


 2日程度の距離ならスキルを使って飛べばすぐだ。だが、その町に行っても、商品があるとは限らないし、値段だって安くはないだろう。


「あの肉屋に戻ろう」


「えっ、まさかあの高い肉を買うの?」


「いや。一つ訊きたいことがある」


 アレクたちは肉屋に戻った。


「さっきの人か。あの肉を買う気になったのかい」


「いや。それより、この近くには獲物を狩る森はないのか」


「ある」


「どうしてそこで肉を調達しないんだ」


「腕のあるハンターは魔王軍と戦うために志願したり、徴兵されて町を出た。残っている老人や見習いのハンターたちは町の外で頻繁に見かけるようになった魔物を恐れて、森に入ろうとはしない」


「すると近くに獲物が捕れる森はあるんだな」


「ああ北東の森だ。歩いて数時間だ」


「獲物を狩ったら、肉を買い取ることはできるか」


「もちろん。本当に肉を持ってきたら、いい値段で買い取るよ。だが、悪いことは言わないから、そんな一攫千金を夢見るのは止めなさい。今あの森に子供が入るなんて自殺行為だ。死んだらおしまいだぞ」


「ありがとう」


 アレクは、情報の提供に礼を言い、店を出た。


「まさか、ゆくつもりじゃないわよね」


 ジルが心配そうに訊いた。


 アレクは笑ってみせた。


「心配することないよ。ただ訊いてみただけだよ」


「そう」


 だがジルは納得しておらず、アレクのことを不安そうに見ていた。


(ジルを孤児院まで送ったら、さっそく森に行き狩りをして新鮮な肉をたくさん獲って帰ろう)


 アレクは【食料庫】に目立たないように収納していた新しい短刀のような二本の包丁を使って狩りをすることにワクワクした。


 孤児院に戻るとアレクは、そっと外に出て誰にも見られないように近くの屋敷の裏に隠れた。


 人がいないのを確認すると、空に舞い上がった。


 太陽の方角から北東の方向を割り出した。


(あそこだな)


 その方角に森が見えた。


 アレクは森に向けて風に乗ってひとっ飛びした。



次は狩りと交易のエピソードになります。さらにその次から今回の章でのヒール(魔王軍の四天王の一人である将軍とその補佐の魔女)が出てきます。今回のエピソードは嵐の前の静けさです。



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