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79 帝国北部の町



 アレクは山脈を越えて北の大地に降り立った。


 寒かった。季節はいつの間にか夏から秋になっていたこともあるが、太陽の国でもあるアメリア共和国との国境線にある山脈の裏側の村は季節に関係なく寒々としていた。


 歩いてみると土も痩せていて、草木も少なかった。


(山を一つ越えて、国も変わるだけで、ずいぶんと風土も異なるんだな)


 アレクは帝国北部に来るのは初めてだった。


 帝国の北部を抜けるとノースバニアがあった。ノースバニアは大陸の北の最果てにあり、一年の大半が雪に覆われている雪国であった。


 アレクが着ている服は初夏向けの軽装だった。雪に閉ざされた北国向けの服や靴は持っていなかった。


(この帝国北部内のどこかの町で、寒冷地向けの服装や装備を買って整える必要があるな)


 アレクは低速で飛びながらこれからのことを考えた。


 帝国北部に土地勘は無く、とりあえず北の方に進んだ。


(それにしても寒いな。暖かいコートが欲しいな)


 高度を上げると遠くに町のようなものが見えた。


 アレクはそこを目指すことにした。



 町は思っていたよりも大きかった。商店が立ち並ぶ通りに行くと、まずは宿を取ることにした。


 休まずに飛んで来て疲れたのといくら暖かい服を買ってもこの気温だと野宿は明け方冷え込み厳しそうなので暖かい部屋で休みたかったからだ。


 ところが、宿の看板がかかっている建物に行っても休業していた。唯一営業していた宿は満員ということで断られてしまった。


(どうしよう。泊まるところが無い)


 アレクは生鮮食料品を売っている店に行った。


 宿は、生鮮食料品を店から仕入れて宿泊客に食事を出すだろうから、そこの店主ならこの町の宿の事情に詳しいはずだった。


 店には子供連れの老人の客がいた。


「タマネギとじゃがいもをもらおうかな」


「一袋、1500ギルです」


「1500ギルだと? 一昨日の倍で、以前の4倍じゃないか」


「しょうがないんですよ。魔王軍の侵攻で流通が途絶えて、品物が入ってこないんですから」


「ファーザーどうします?」


 子供が老人を見上げて訊いた。


「しょうがない。では、タマネギを一袋だけもらおうかな」


 老人は大切そうにタマネギが数個入った袋を受け取った。


「すみません、この辺でどこか泊まれる宿はありませんか」


 アレクは、店主に訊いた。


「傘亭にはもう行ったかい?」


「はい。そこで満室だと断られました」


「じゃあ、他に泊まれる宿はない」


「どうしてですか」


「魔王が復活して魔王軍が暴れまくっているからだよ。先日、帝国内に侵攻するや、前線が拡大して、魔王軍が制圧した地域が広がっている。流通は遮断されて、どうしようもない状態だ」


「でも、どうして宿が閉まっているんですか」


「食材が手に入らなくてろくな食事は出せないし、それにこんな戦時下に北部の町で、しかも魔物が侵攻してくるかもしれない場所にわざわざ来て泊まる客などいないからだ」


「魔物がここに侵攻してくるんですか」


「そういう噂だ」


「どうしてこんな辺境の町に魔物が来るんですか」


「詳しく知らんが、周辺を落としてから中心部に攻め込むつもりらしい。それに人間は奴ら魔物の食い物だから、落としやすい辺境の町で食料をまず調達して腹ごしらえしてから、精鋭の軍隊が集結している帝都に向かうつもりらしい。ところで、お前さんは旅人かい」


「はい」


「どこから来た?」


「アメリア共和国からです」


「なら悪いことは言わないから、アメリア共和国に戻るんだな」


「どうしてですか」


「あそこが今一番安全だからだ。険しい山脈に阻まれて魔物が本格的に侵攻していない」


「でも魔物の侵攻がそんなに早いなら、アメリア共和国に戻っても時間の問題で魔物が来るんじゃないですか」


「いや。西の国で勇者が出現したらしい。それに各国とも魔物を倒す切り札をもっているらしい。魔物はまだ周辺の村や町を襲っているだけで、精鋭部隊と正面から戦っていない。だから、アメリア共和国に帰り、勇者が魔王を70年前のように討伐してくれるのを待った方がいいぞ」


 エンサイクロペディアの町で新しい包丁ができるまで待っている間に魔王が復活して魔物たちの攻勢が急速に進んでいたことにアレクは驚いた。


「そこのお若いかた」


 さっきタマネギを一袋しか買えなかった老人が声をかけてきた。


「なんでしょうか」


「旅の方で、泊まるところが無くてお困りなら、私のところで一泊されてはいかがでしょうか」


「宿屋だったんですか」


 老人は首を振った。


「その人は教会のファーザーだよ」


「教会に泊めてもらえるんですか」


「ああ、だが教会ではない。教会に付属している孤児院だ。空いている部屋がある」


「本当にいいんですか」


「もちろんです。困っている旅人の方を助けるのは、精霊神の使いであるイェーリー様の教えです」


「イェーリー?」


「あなたは他国の方なのでご存知ないかも知れませんが、ここ大陸北部では精霊神のメッセージを人間の姿になって我々に伝えてくれるイェーリー様への信仰があついのです」


 アレクは、これもなにかの縁だと思い、申し出を受けることにした。実際のところまだ暖かい服を買っておらず、宿にも泊まれない状態だったので大いに助かった。


(それにイェーリーのことについて色々聞くことができるかもしれない。それにしても、僕がここにいるのは、イェーリーから北に行くように言われたからだと知ったら、びっくりするだろうな)


 アレクはファーザーと子供と、バザールのある町の広場を後にした。


この章からライザとアレクの二人の新たな関わりが始まります。またソフィアの気持ちを知ったアレクに今後変化が現れるのか? まだまだ花嫁は誰になるかは分かりませんよ。


【作者からのお願い】


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