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61 宴と新たな旅立ち


「君がアレク君か」


「はい」


 アレクは偽魔王事件の後、事件の調査ということで大統領府に連れて来られていた。いつものように逃げてもいいのだが、プラトーやミントさんに迷惑がかかってはいけないとのと、彼らともう少し一緒にいたかったので、素直に治安部隊と一緒に大統領府まで来たのだ。


「君のことは調べさせてもらったよ」


 目の前にいるのは捜査官ではなく、アメリア共和国大統領だった。


「君は王国の公爵家の長男に生まれた。そのまま父の跡継ぎとして領主になるはずだった」


 そこで大統領は言葉を切った。


 アレクの反応をうかがっているようだった。


「ええ、そのとおりです」


「子が親の意に沿わず、追放されたり、子が家出をしたりというのは実はそんなに珍しい話ではない。普通ならそこで話は終わる。ところが、君はそこからが変わっている」


「知っているんですね」


「ああ調べた。君は帝国でシービッグキャットから子供たちを取り戻し、スチールケロベロスを焼き殺した。イブレスカ近郊の山の岩壁でミツメ火炎ガラスを倒し、さらにはイブレスカの町を襲ったミツメ火炎ガラスを射落としている」


 アレクは肯定も否定もしなかった。


「カナルの町では町長の娘の披露宴を襲ったフック船長率いる海賊たちを全滅させた。さらにはこれは未確認だが長年人間を襲ってきたはぐれ魔物のマンティスロードが焼け焦げになって見つかっている。これも君の仕業だよね」


 アレクは横を向いた。


「そして、今回の件だ。今回は共和国の兵士たちが大勢、君の力の発動の一部始終を目撃している」


 大統領はアレクの目を見た。


「君はいったい何者なんだい。どこでその力を手に入れたのかね。君の幼少期のことを調べた。15歳までは普通の少年だった。もちろん君の父上から剣術の英才教育は受けて武術の腕は抜きん出ているがね」


「僕は料理人です。それだけです」


「君の力は我が共和国軍の一個師団にも匹敵する。伝説の勇者や魔王並の力だと言ってもいい。ある意味、魔王や武装国家よりも、君1人の方が脅威だとも言える」


「それは、薄々ですが分かっていました」


「だから、これまで魔物を倒した後、逃げるように姿を消していたんだね」


「その通りです」


「どうして今回は素直に出頭したんだね」


「プラトーやミントさんは、ありのままの僕を受け入れてくれました。だから急に消えたら2人に迷惑がかかるのではないかと思ったからです。言っておきますが、あの2人は何の関係もありません」


「それも分かっている」


「僕をどうするつもりですか」


「我が国に正式に迎え入れたい。どのような地位でも報酬でも望みのまま約束しよう」


「それは共和国の兵器になれということですよね」


「そういうつもりでないが、だが否定はしない」


「申し訳ありませんが、お断りします」


「そうか……」


「帰ってもいいですか」


「自由にしたまえ」


「いいんですか? このまま帰しても。言うことをきかないからと身柄を拘束したりしないんですか」


 大統領がハハハハと笑った。


「君を力づくで拘束するなんて無理だよ。そんなことをしたら国が滅ぶ」


「まさか」


「冗談ではなく今の君にはそれくらいの力がある。そのことは肝に命じておいてくれ」


「分かりました」


 アレクはプラトーの子供食堂に戻った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「「「おめでとうございます」」」


 アレクはミントとプラトーのグラスに自分のグラスを合わせた。


 ケンの父の傭兵のジョーもいる。


「これもアレクのおかげよ」


「僕は何もしてませんよ」


 プラトーとミントの婚約祝だった。


 いつも子供たちを子供食堂に預けている親たちも今日だけは休みを取り、お祝いに駆けてつけていた。


「アレクお兄ちゃん! これすごく美味しい」


 ケンがアレクが揚げた鶏の揚げ物をほおばっていた。


「アレクさん、いつもケンのことをありがとうございます。ケンの母です」


 綺麗な女性が頭を下げた。


「ほら、あんたも御礼を言わないと」


「アレク、ありがとう」


 ジョーも頭を下げた。


「俺はケンたちと一緒に暮らすことにした。家内とミントさんの農場で働くことにしたんだ」


 ジョーは頭を上げると言った。


「ほんと、全部アレクのしたことよ」


 ミントが会話に割り込んできた。


「いきなり耕作地の面積が5倍以上になるんだもの。私1人ではもう無理だわ。でもケンのご両親が、手伝ってくれることになったのよ」


 皆幸せそうだった。


 愛する家族と一緒に美味しいものを食べている時は誰もが幸せになれる。


(みんな……。よかった)


 誰かがアレクの上着を引っ張った。


 リミだった。


「アレクお兄ちゃん。ホットケーキ」


「もう無くなったのかい」


「うん」


「じゃあ、追加を焼くからね」


 リミが嬉しそうに笑った。


 宴が終わると、アレクは涼しい風が吹いてきた夕方の畑に1人で行った。


 畑の向こうには広大な大地が続いていた。


(もっと、この広い世界を見て回りたい)


 お別れの挨拶をすると、子供たちに引き止められて、出発がまた延期になると思った。


(何も言わないで、出発するけど、ごめんな)


 アレクはスキルで空中に浮いた。


 そして夕方の風に乗り、まだ見ぬ次の土地に向けて飛んだ。







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