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59 アレクの反撃



 アレクは業火でアナービーとゴブリンを焼き払ってやろうと思った。


「アレクお兄ちゃん……」


 か細い声が聞こえた。


 リミの声だった。


 リミは5歳だが心臓に持病があった。そのリミが真っ白な顔をして呼吸を苦しそうにしていた。


(まずい。恐怖と緊張で身体に負担がかかっているんだ)


 リミはアレクの出す業火が理解できないだろう。突然、魔物が燃え上がったらさらに恐怖が増すばかりだ。もし心臓発作などを起こしたら取り返しがつかない。


(アナービーの始末はいつでもできる。まずは子供たちに助けが来たと安心させないと)


 アレクは子供たちにせがまれていつも読み聞かせていた本のことを思い出した。


 70年前の魔物との大戦で活躍した魔法使いの弟子の少年の話だ。


 派手な詠唱のパフォーマンスをして魔法を繰り出し、悪い魔物たちを成敗する物語が子供たちは大好きだった。


(少し恥ずかしいが、あれを真似てやってみるか)


 アレクは子供たちの方に歩いて行った。


「みんな、実は黙っていたけど、僕は本当は料理人じゃなくて、王都の大魔道士様の弟子なんだ」


 子供たちがキョトンとした顔をした。


「今から、悪い奴らを大魔道士様から教わった魔法でやっつけるからね」


 そう言うとアレクは本にあったように派手なパフォーマンスで詠唱を唱えた。


 くるくると身体を回転させて、手のふりもつけた。


「いでよ地獄の業火、ファイラガラ―」


 適当な文句だった。


 アレクは子供を捕まえている男の1人に、小さい火の玉を軽くぶつけた。


「うあああああ」


 火の玉を食らった男が悲鳴を上げた。


「アレク、お兄ちゃんすごい」


 子供たちが目を丸くした。


 リミを見た。少し元気になったようだった。


(うん。この調子だ。だけど、火炎攻撃や氷の矢の攻撃では子供たちに当たる恐れがある。何十人もの敵を包丁で1人ずつ相手をしていたら子供たちを人質に取られるかもしれない)


 アレクは次の一手をどうするか考えた。


(そうだ。【耕うん】を使ってみよう!)


 アレクは子供たちを安心させるために派手なパフォーマンスをまた始めた。


「母なる大地よ。精霊の神よ。今、我に力を貸し与えたまえ。アイトロピクス、カムアルーナ、アースクエィク」


 実にテキトウな詠唱だった。


「やつの詠唱を止めろ」


 共和国軍の軍服を着た男が剣を向けてきた。


 アレクは風のスキルを使い自分の周りに小さい台風のような竜巻を生じさせた。


 アレクはその円の中心にいるので無風である。


「うああああああああ」


 共和国軍兵士が竜巻に吹き飛ばされた。


「地よ、悪人たちを飲み込め」


 アレクはパフォーマンスをしながら敵をカウントしていた。とりあえず子供たちのそばにいる黒い服の賊と敵対している共和国の軍人をマークした。


 その足元の地面を液状化させた。


「「「「「「うがああああ!」」」」」」


 一瞬で何十人もの敵が大地に飲み込まれて沈んで行った。

 

 首だけだしている状態になった。


 その状態で土地を固めた。


「「「「おぎゃあああああ!!!!」」」」


 地中で圧迫されて悲鳴をあげた。


 アレクは子供たちが巻き沿いになっていないか確認した。


 大丈夫だった。


 子供たちを囲んでいた悪い奴らだけが全員地中に埋まっていた。


「奴が次の詠唱を唱えて完成させるまえに殺れ。近接攻撃は防御魔法かなにかを張っているいるようだから、こちらも魔法攻撃と弓で対抗しろ」


 リーダーらしき男が叫んだ。


 子供たちから離れたところにいる連中はまだ地中には埋まっていないのでアレクを攻撃しようとしていた。


 アレクは子供たちを見た。


 大好きな物語そのままのアレクのパフォーマンスにさっきまでの恐怖の表情は消え、目を輝かせていた。


「リミ! 大丈夫か。胸が苦しくないか」


「うん。もう大丈夫よ」


「ミントさん、リミたちのことを頼む」


(もうそろそろいいか)


 アレクは敵の方を向いた。


 そのまま新しく覚えた氷の刃を飛ばした。


 半円月の薄い氷の刃が弓兵の腕を切断した。


 魔道士に向けて氷の矢を30本ほど一度に射出した。


「ぐああああああ」


「それで詠唱がどうしたって?」


「もう詠唱を完成させていたのか」


「お前は誰だ」


「ドルーガだ。シンジゲートの支部長だったが、今は魔王様の右腕だ。おかしな魔法を使うが、所詮、人間の技、魔王様に勝てるわけがない」


 ドルーガはボウガンを取り出し矢を放った。


 アレクは【耕うん】を用いて一瞬で厚い土の壁を出現させた。


 その壁に矢が刺さった。


 アレクは壁を飛び越えた。


「そんな遅い矢は避けてもいいのだけど、後ろの子供に当たるといけないからな」


「き、きさま、いったい何者だ?」


「究極の料理人アレクだ」


 アレクは半円月の氷の刃を連射してドルーガをバラバラにした。


「さて、残ったのはお前たちか」


 巨大なゴブリンとアナービーにアレクは向き合った。


「ゴブオ、あいつを殺れ」


「オオオ!!!」


 ゴブリンは雄叫びをあげて、ハルバードを構えた。


「アレク君、そいつは危険だ」


 血まみれになっているプラトーが叫んだ。


「平気です。というより、こいつは弱いですよ」


 アレクは振り向いてそう答えた。


「危ない!!」


 プラトーが叫び、子供たちから悲鳴があがった。


 アレクは振り向きもせず、紙一重でハルバードの突きをかわしていた。

 

 ハルバートの柄をつかんだ。


 そのまま引いた。


 ゴブリンが馬鹿力で自分の方に引いた。


 その力を利用してハルバートを押し出した。


 ゴブリンは自分の力もあいまって後ろに尻もちをつき、ハルバートを落とした。


「こいつは、力任せに攻撃しているだけで、バカで能無しだ」


「バカというな。バカというやつの方がバカなんだぞ」


 ゴブリンが緑色の顔を紫色にして怒って言った。


「まるで子供だな。やはりバカにつける薬はないか」


「この野郎」


 ゴブリンが右拳を大振りして殴ってきた。


「ハァッ」


 アレクは飛び込み、カウンターで急所の金的を手刀で打った。


「あぎゃああああああ」


 すかさず右膝の関節を横から踏み抜くような蹴りで壊した。武術の試合では禁じ手である。これをやられた相手は一生足を引きずって歩くことになる。


「うああああ」


 あまりの痛みにしゃがみ込むゴブリンの頭を連続で蹴った。


「セイ、セイ、セイ、ハイヤー」


 ゴブリンの頭をボコボコにした。


「ヤアア――」


 最後に思いっきり勢いを込めた回し蹴りで顎を撃ち抜いた。


 ゴブリンが倒れた。


「まさか……。信じられない。自分の身長の2倍もある巨大なゴブリンを素手で倒しちまったよ」


 プラトーが驚きの声を上げた。


「ダメージが回復してまた襲ってくると厄介だから、とどめをさしますね。ミントさん、子供たちには向こうを見させて下さい。少し残酷なシーンがありますから」


 ミントが子供たちを横に向かせたのを確認してからアレクは包丁を取り出した。


 ゴブリンがそれを見てあとずさりをした。


「な、なにをする気だ」


「お前を料理してやる」


「そんな料理包丁で何ができる」


【屠殺】【解体】


 アレクはスキルを発動させた。


 またたく間にゴブリンが肉塊と化してゆく。


「このままじゃ汚いから清掃するか」


 アレクは手をかざした。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 火炎放射で肉塊を灰にした。


 そして、【耕うん】で地中に埋めた。


 ゴブリンは跡形もなく消滅した。


「少しは肥料にでもなったかな」


 アレクはアナービーの方を向いた。


「次はお前の番だ」





【作者からのお願い】


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