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ハズレスキル【究極の料理人】を引き公爵家を追放されたが、それは最強スキルだった。  作者: サエキ タケヒコ
第1章 出立(王国と帝国)
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5 シービングキャット(泥棒猫)

                    1


「アナービー様、作戦は順調です」


 一足先に報告のために戻ってきたシービングキャットの頭のオレゴンが言った。


 アナービーは眼を細めた。


(人間の生き血の中でも、新鮮な子供の血は主様の大好物だ)


「何体くらい捕獲できそうか?」


「はい。まず7名のシービングキャットで子供を7体さらってきます。この後再び町に戻り、もう7体をさらう予定です」


「14体か」


 アナービーは満足げにうなづいた。


「それだけあれば、主様もさぞや喜ばれるだろう」


「アナービー様、今回の作戦はもう成功したも同然です。人間の足では我らシービングキャットに追いつくことなど不可能ですから」


 そう言うとオレゴンが豪快に笑った。


 だが、その得意げな猫の笑い顔に、狐の頭を持つアナービーは少し不快感を感じた。


(こいつら泥棒猫の使いみちはそこしかない。さしたる攻撃力も魔力もなく逃げ足だけが早いのが取り柄だ。そんな雑魚を上手く使い、手柄を立てたのは俺の頭がいいからだ。こいつら泥棒猫の功績ではない。作戦終了後に、そのことについて釘をさしておかないとな)


 主様の復活に寄与した手柄を泥棒猫たちと分け合う気など、狐の魔物のアナービーにはなかった。奴らはただの運搬の手段にすぎない。


「おかしいですね」


 隣にいるオレゴンが首をひねった。


「どうした」


「いや、部下たちが子供を捕まえて駆け出すところまで一緒にいました。私は報告のためと、逃走経路の安全性を事前に確認するために先に来ました。子供を抱えていない分、早く走れるからです。そろそろ後続の連中が到着してもいい時間なのに、まだ誰も着いていないというのは不自然です」


「そうだな」


 アナービーは鼻をひくつかせながら前方を凝視した。


 すると、こちらに駆けて来るシービングキャットを見つけた。


「おお、来たぞ」


「あれ? でも1人です。しかも後ろから変なものが追いかけてきています」


 アナービーもその何かを認めた。


 人間のようだった。


(馬鹿な。人間だと? 人間がシービングキャットに追いつけるわけがない)


 アナービーは嫌な予感を覚えた。



                2 


「ジャン!」


 アレクはジャンの悲鳴を聞き、ジャンを抱えて逃げてゆくシービングキャットを追った。


「やめて! お願い」


 すぐ横から女性の悲鳴が聞こえた。


 女性が抱きしめている子供を無理やりシービングキャットが引き剥がして二本の腕で抱えた。


 そして、駆け出そうとした。


「あああ」


 子供を奪われた女性が絶望のうめきを上げた。


 アレクはナイフを抜いた。


 シービングキャットの前に飛び出すと、ナイフを一閃させてシービングキャットの足の腱を正確に切った。


 片足が動かなくなったシービングキャットは、子供を離すと、道の真ん中に倒れた。


 だが、顔を上げるとアレクに向き「貴様!」と、シービングキャットが歯を剥いて叫んだ。


 止めを刺そうかとアレクは思ったが、通りの先で別のシービングキャットが子供をさらっているのを見つけた。そして、ジャンを抱えているシービングキャットはその先を駆けている。


(止めを刺している時間がない。こいつらは足の腱を切られたら駆けることができず、おしまいだ。後始末は町の人に任せてこのまま進もう)


 アレクは次のシービングキャットのもとに向かって駆け出した。


 振り返ると母親が子供を抱きしめ、走れなくなったシービングキャットが逃げようとしているのを冒険者や治安部隊の隊員が剣を抜いて迫っていた。


(よし。とりあえず、シービングキャットの足の腱を切って子どもたちを救おう)


 アレクは次のシービングキャットに迫ると同じように足の腱をナイフで切り、そのまま止まらずにさらに前方にいるシービングキャットに向かった。


 4体の足の腱を切って、動きを止めたが、3体が子供をさらったまま、町の外に出てしまった。さらわれた子供の中にはジャンもいる。


 町を出て周りに何もなくなると、シービングキャットは速度を上げた。その速さについていけなくなった。


 アレクは子供の頃から剣聖である父に跡取りとして鍛えられていた。毎朝走り込んで、同年代の子供の中では一番足が速かった。


 そして、発動した『究極の料理人』スキルに含まれているハンターモードでの【追跡】では、それまでの倍くらいの速さで走ることができた。


 その速度をもってしても、何もない平原で全力で疾走するシービングキャットには追いつくことができなかった。


(まずい。このままでは、振り切られてしまう)


 アレクは森で狩りをする際に強い向かい風が吹いてきた時は自分も風を出して速度をあげたことを思い出した。


(あれをやればもっと速く走れるんじゃないか)


 両手を後ろに引いた。


 掌を後ろに向けた。


 風を念じた。


 すると体がふわりと浮く感じがした。


 風も追跡もマックスでと念じた。


 体が飛ぶ。


 まさにそんな感触だ。


 疾風のごとく体が前に飛んでゆく。


 索敵のウィンドウからも消えかけたシービングキャットの赤い点が近づいてくる。否、アレクが接近しているのだ。


 シービングキャットを目視できた。


 アレクは前方にいた3頭のうちの最後尾の1頭にすぐに追いつくと並走した。


(どうやって子供を助けようか。今両手は風を出している。ナイフに持ち替えたらバランスを失うし、速度も失う)


 シービングキャットは横を並走しているアレクを見て、驚愕の眼を向けた。


 アレクは一つの手を思いついた。


(よし、やってみよう)


 前に出ると、シービングキャットが真後ろに来る位置につけた。そして手から噴出している風をシービングキャットの眼に向けて全開で噴射した。


 シービングキャットは眼を閉じると、足がもつれ、転がるようにして倒れた。


 アレクは、シービングキャットのところに行き子供を救うと、ナイフでシービングキャットの足の腱を切った。


「大丈夫か。怪我は?」


「大丈夫」


 子供は元気そうに返事をした。


「よし、じゃあ、逃げろ」


 そう言い残して残りを追った。


 次の1頭も同じように処理して、無事に子供を助けた。


 残るはジャンをさらったシービングキャット1頭だった。だいぶ先に行ってしまっていたが、アレクは索敵を使えるので見失うことはない。


 すぐにその姿を認めた。


 シービングキャットは足を止めていた。


(なんだ)


 そこには別の魔物たちがいた。


 1体は同じシービングキャットだが、もう1体は二本足で立っていて人間の姿に近いが、首から上は狐の魔物だった。


 アレクはその魔物たちの前に立った。







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