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49 中央穀倉地帯 ランバルの町



「ワァー」


 アレクは思わず声を出してしまった。


 目の前に広がるのは緑の海だった。腰のあたりまで伸びた青い草がどこまでも続いていた。


 風が吹き抜けると青い草が波を打ち、さわわわわっという音を立てた。


「これは何ですか」


「麦畑に決まっているじゃないか」


 道路脇に座って水を飲んでいた老人が不機嫌そうに返事をした。


「すみません。ここは初めてなんです」


「異国からの旅人か?」


「はい」


「ここは共和国の食料庫とも呼ばれている中央部に位置する穀倉地帯だ。麦が主産物だが、農作物は何でも作っている」


「この眺めは壮観ですね」


「これだけの規模の麦畑はおそらく世界一だろう」


 老人の機嫌が治った。


「仕事を探しに来たのか?」


「ええ、まあ」


「農作業か?」


 老人がアレクを値踏みするように上から下まで見ながら訊いた。


「いえ、自分は料理人なので、料理をする仕事に就きたいです」


 老人の顔に露骨な失望の色が浮かんだ。


「この辺りは畑しか無い。料理店で働きたいのならランバルの町に行くんだな」


「ランバルの町というのは?」


「この穀倉地帯の真ん中にある町だ。ここからだと一日で行ける」


「どの方向ですか」


「あっちだ」


 老人が指を差した。


「ありがとうございました」


 アレクは少し歩き、老人が視界から消えると周辺を【索敵】を使い調べた。誰もいないようだった。


 アレクはスキルを使い体を浮かした。


 そして、他人に見つからないように麦畑の上を地上スレスレで飛んだ。


 海のようにさざ波を打つ麦畑の上を飛ぶのは気持ちが良かった。


 30分もしないうちにアレクはランバルの町の郊外に着いた。


(ここからは目立つから歩いてゆくか)


 アレクは穀倉地帯の真ん中にある町へと足を踏み入れた。



 町に入ると、とりあえず手前にあったレストランに入った。


 広々とした店だった。


「すいません」


「はい。何にいたしますか」


「この店でコックとして働くことはできますか?」


「ちょっとお待ち下さい」


 奥から白い服を着た料理人が出てきた。


「この店で働きたいんだって?」


「はい」


 アレクは料理人ギルドの会員で料理人のスキル持ちだと自己紹介した。


「料理人ギルトの会員で料理人のスキル持ちだと、ムリムリ、ウチはそんなんじゃないから。ウチは定食屋だ。とてもあんたのスキルに見合うような給料なんて払えない」


「給料にはこだわりません」


「ウチは、畑仕事をしている労働者が来る店だ。あんたのようなギルトの会員が作る上品な料理は客の口に合わないんだよ」


「でも……」


「しつこいな、もう帰ってくれ」


 帝国では、料理人ギルドの会員ならどこに行っても雇ってもらえると聞いていたが、どうもここでは勝手が違うようだった。


 試しにもう何軒か回ってみたが、どこも断られた。


(困ったな。まだカナルの町でもらった報酬は残っているけど、宿代くらいは稼ぎたいな)


 アレクはダメもとで、市場の横の屋台のようなキッチンで料理を作り、テントのような場所に机と椅子を置き、食事を出している店に声をかけてみた。


「見てのとおり、ウチは屋台だ。とても料理人など、雇う余裕はないよ」


「そうですか……」


 屋台の店主はアレクから視線を外すと通行人の方を見た。


「おい、プラトー、ちょっと来いや」


 屋台の店主が小柄だがよく鍛え込まれた体をした男に言った。


 男が来ると店主は屋台の奥に行き何かが入った袋を持ってきた。


「これ、余った食材だ。もってゆけ」


「こんなにいいんですか。お代の方は」


「何言っているんだよ。余りものだと言っただろ。金なんか取れるか」


「でも……」


「いいから、いいから」


 プラトーと呼ばれた男はアレクに目を落とした。


「あっ、すいません。お客さんがいるのに邪魔をしてしまって」


「そいつは客じゃないよ」


「知り合いですか」


「違うよ。飛び込みで、ウチで働かせてくれと言ってきた。料理人だそうだが、見てのとおり娘と2人でやっていて、とても料理人を雇う余裕なんてありゃしない。だから断ったところだ」


 プラトーはアレクを見た。


「君は料理人なのかい」


「はい」


「仕事を探しているのか」


「そうです」


 プラトーは少し考える仕草をした。


「給料はどれくらい欲しい」


「自分は旅をしているので、とりあえずその日の宿と食事がなんとかなればいいです」


「じゃあ、寝る場所と食事があればいいということか」


「ええ、まあ最低限、それくらいあれば……」


「よかったら俺の食堂を手伝ってもらえないか」


「えっ?」


 プラトーはくたびれた軍用のブーツにカーキー色のズボン、そして色あせたシャツを着ていた。腕の筋肉は盛り上がり傷跡がたくさんあった。


(どう見ても、レストランのオーナーに見えないな。いったいこの人は何なんだろう)


 アレクは逆にそのアンバランスさに興味を持った。


「いいでしょう。話を聞かせてください」


「じゃあ、俺の食堂に来てほしい」


 アレクはプラトーの後をついて歩き始めた。


 町の中心部のバザールがある広場や店が立ち並ぶストリートを抜けて、プラトーはどんどん先に歩いて行く。


(おかしいな。店はもうすぐなくなるぞ。こんな町外れでレストランをやっているのか)


 ついに店は無くなり、住宅街になった。その向こうには青々とした畑が見えてきた。


(本当に食堂があるのだろうか)


 アレクは騙されてどこかに連れてゆかれようとしているのではないかと疑い始めた。









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