47 約束と誓い
やっと駆けつけてきた治安部隊に執事のアーノルドは逮捕されて連れて行かれた。
「海賊どもはどうなります?」
ロスベルトが治安部隊の隊長に訊いた。
「全員逮捕して牢屋にぶち込みます。これまでの罪状から絞首刑は間違いないでしょう」
「頼みますぞ」
「それにしても、この現場はどういう状況なのですか? 30人近くの海賊が腹痛で動けないでいて、お尋ね者の海賊の幹部のドーガンと黒の暗殺者キルゾと爆弾ピエロ、それにフック船長が、息はあるものの、信じられないほどボロボロにされている。いったい誰がこんなことやったんですか」
ロスベルトは視線をアレクに向けた。
治安部隊の隊長はその視線を追いアレクを見た。
「まさか? 彼ですか?」
「そうです」
「ガードマンに雇った冒険者ですか?」
「いえ、臨時雇いのコックです」
「コックだと!?」
治安部隊の隊長は信じられないという顔でアレクをまじまじと見た。
「君は、本当は何者だ?」
「コックです。ただの料理人のスキル持ちです」
治安部隊の隊員が駆けてきた。
「隊長来て下さい。フック船長の意識が戻りました」
「ちょっと、失礼する。後で詳しく話を聞かせてもらうよ」
一段落着くと、アレクはレイラのところに行った。
「怪我は無いか」
「ええ。アレクは?」
「この通り無事だ」
「これ」
アレクは【食料庫】からジェイクの形見の腕時計を取り出した。
「それは……」
「大切な物なんだろう。海賊から取り上げて、戦闘中に壊れたりしないように大事にしまっておいた」
レイラは震える手で腕時計を受け取った。
「本当にあなた1人で海賊をやっつけてしまったのね……」
「約束は守った。今度は君の番だ」
「そのことで話したいことがあるの。でも今はごった返しているから、後で2人きりで会えない?」
「いいだろう。何時にどこに行けばいい?」
「深夜零時に、お嬢様が結婚式を挙げた屋敷の離れにある聖堂はどう? あそこなら人が来ないから」
「分かった」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レイラは聖堂の控室にいた。
メイド服を脱いでゆく。
下着もラインが透けて見えるので恥部を覆う小さな3角の布切れ以外は全部脱いだ。
そして純白のウエディングドレスに袖を通した。
(まさか、これを着る日がもう一度来るとは思ってもみなかったわ)
レイラはウエディングドレスは一回しか着ないものだから、もったいないから貸し衣装にするつもりだった。だが、ジェイクは貸衣装のウェディングドレスにぴったりのサイズの在庫がないことを知ると、どうしてもオーダメードで作ると言い張った。
「一生に一度の君の美しい花嫁姿をこの目に焼き付けておきたいんだ。ブカブカの貸し衣装なんて論外だよ」
ジェイクは貯金をはたいてオーダーメイドのウェディングドレスをプレゼントしてくれた。
そして、主人のロスベルトにお願いして、お嬢様の結婚式が終わった後、そのまま聖堂を利用させてもらい、2人だけの結婚式を挙げさせてもらう許可を得ていた。
本来だったら、今日、この場にいるのはジェイクだった。
レイラは鏡の前に立ち、自分の姿を見た。
花嫁姿の自分が見返す。
(ジェイク……。すぐに後を追うつもりだったのに、ごめんなさい。でも、あなたの分まで幸せになって生きることにするわ)
白いベールをかぶり聖堂に行くとアレクが待っていた。
レイラの花嫁姿を見て驚いた表情を浮かべた。
「アレク。本当にありがとう。あなたは約束通りジェイクの仇をとってくれたわ」
レイラはアレクのもとに進んだ。
「だから、今度は私があなたとの約束を守る番。この姿は自分で自分の命を絶つようなことはしないという誓いのためよ」
レイラはアレクと向き合った。
顔の前の白いレースのベールをアレクがあげた。
レイラはアレクを見上げた。
「ジェイクの分まで幸せになることをあなたに誓うわ」
レイラは目を閉じた。
「お願い。誓いの印をして……」
アレクの唇がレイラの唇に触れた。
レイラの体から力が抜けてゆく。レイラはアレクの胸に抱かれた。そして、唇をむさぼりあった。
アレクが体を離した。
「話がある」
レイラは頷いた。
「こっちで話そう」
アレクは聖堂の外の東屋にレイラを連れて行った。東屋は月明かりに照らされて夜の庭に浮かぶように建っていた。
アレクが話し始めた。実は公爵家の長男だったこと。スキルが料理人で追放になったことなどこれまでのことを話してくれた。
「強すぎる力を持ってしまった。この力のことが知られると、きっと貴族や王国の覇権争いに巻き込まれるだろう。でも僕は自由に生きてこの広い世界を旅してみたい」
レイラは黙ってアレクの話を聞いていた。
「海賊と戦うために大勢の人の前でスキルを使ってしまった。明日には治安部隊の詰め所に出頭するように言われている。このまま行けば、僕は国家の手駒にされるだろう。だからここを発とうと思う」
「まさか。もうお別れなの……」
アレクは何も言わなかった。
だが、その横顔が彼の決意を示していた。
レイラは泣きかけたが涙を飲み込んだ。
(これでいいのよ。ジェイクを失って間もないのに、アレクとすぐに幸せになるなんて、やっぱり許されないことだったのよ)
「そう。分かったわ」
レイラは精一杯の笑顔をアレクに見せた。
「それで出発はいつなの?」
「今からだ」
アレクが言いにくそうに言った。
「そう……」
レイラは、こぼれ落ちそうになった涙をこらえた。
「安心して。私は1人でも、もう自殺なんてしない。誰よりも幸せになってみせるから……」
「安心したよ」
「ねぇ。ほとぼりがさめたら、またこの町に戻って来てね。ずっと待っているから……」
「ああ」
アレクは立ち上がった。
「レイラ、元気で」
「あなたもね」
アレクは空に舞い上がった。
大きな月がアレクの背後で輝いていた。
アレクが遠くなって行き、まるで月に飲まれてゆくように見えた。
「アレク――!!」
でも、その声はもう届かない。
レイラは膝を突いて泣いた。
顔を上げた時には、アレクの姿はなくただ月が輝いているだけだった。
レイラは屋根の上でアレクと一緒に見た星空の月を思い出した。
(これから月を見るたびに、きっとあなたと一緒に月を見たことを思い出すわ)
レイラは涙を拭いた。
(必ずまた会える日が来ることを信じているから……)
流れ星がまた一つ、夜空に落ちた。
それは乙女が落とした涙のようだった。
本章はこれで終わりです。間奏曲をはさみ、次章は『傭兵と子供食堂』です。傭兵がやっている子供食堂を魔王が襲います。でも、その魔王はニセ魔王です。ぷちザマァ展開もあります。次回アップまでは少々お時間をいただくかもしれません。ここまで読んでいただきありがとうございました。
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