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43 キルゾとの死闘



 アレクは庭に出た。


 思ったとおり海賊たちは地面に倒れて苦しんでいた。


 庭を見渡した。


 フック船長と爆弾ピエロは何事もなかったかのような顔をしていた。


(あいつらは海賊焼きを食べなかったのか)


 手強い相手が残ってしまったと思った。


 すると両手にダガーを握った黒ずくめの服を着た若い男が「やっぱりお前か」と言ってアレクの前に出てきた。


 身のこなしにすきがない。


 アレクはその相手と会話をかわしながら観察した。


「キルゾ、そいつを殺ってしまえ」


 フック船長が命じた。


 だが、その前にキルゾはアレクに向かって飛び出して来ていた。


(キルゾだと。まさかあのキルゾか)


 素早いキルゾの攻撃をアレクは避けながら、キルゾのことを思い出していた。




「アレク、大変な事件が起きた」


 法律や領地の管理を学ぶ時間に父が学習室に入ってきて言った。


「バドン公爵が殺された」


「公爵がですか!」


 バドン公爵は隣の領地の領主だった。野心家で油断ならない公爵は国境の警備やはぐれ魔物の退治はアレクの家に押し付けておきながら、チャンスがあればアレクの家の領地を奪うことを画策していると父は言っていた。やっかいなのは公爵が腕の立つ影の者を使っていることだった。そのことを父は間者を使い突き止めていた。


「公爵の影の者は何をしていたんですか」


「その影の者に殺られたんだ」


「反乱ですか」


「それも違うようだ。犯人はキルゾという成人したばかりの若者1人だ。そしてキルゾは自らの手で自分の家族である影の者一族全員を殺したそうだ」


「どうして、そんなことを」


 暗殺者が、自らの唯一のよりどころの暗殺者一族と依頼主を殺害してどうしようというのだ。いる場所が無くなる。


「分からん。気が狂ったらしい」


「で、キルゾは捕まったんですか」


「それがまだだ。我が領地に逃げ込んできているかもしれないから十分に警戒しろ」


「キルゾは強いんですか」


「公爵の影の者を全員殺している。ということはキルゾが一番だということだ。今のお前では戦えば負けるかもしれない」


「もし、領地にキルゾが現れたらどうしたらいいのですか」


「まずはスキルだ。お前はもうすぐ成人する。スキルが発動すればすべての力がアップする。そうすればこれまで培ってきた剣術の技量で対抗できよう」


「はい」


「成人の儀式でスキルが明らかになるのが楽しみだな」


「はい。父上」


 その後の記憶は苦い思い出だ。




 アレクはキルゾに向けて包丁を持ったまま手をかざした。


(火炎か氷の矢でかたをつけてやる)


 だが、キルゾの動きは速かった。


 撃とうと思った場所からすぐにいなくなる。


 アレクは狙ったが発射できなかった。


(当てるには範囲を広げるしかないな)


 広範囲で狙ってみた。


(だめだ。後ろの人に被害が出る)


 アレクが闘っている場所は披露宴の会場だった。客は人質として縛られ会場を囲むように並べられていた。ちょうど、アレクとキルゾの戦いを囲む円形劇場の観客席のように人質が配置されており、しかも距離が近かった。


 レイラもいる。


(撃てない)


 火炎も氷結の矢も、もとは調理のスキルだ。それを攻撃に応用しているのであり、超高速でピンポイントで敵を倒すことに特化した能力ではない。


 ただマジックパワーもいらず、無尽蔵に強大な力を発揮するので広い場所で魔物をまるごと料理するのには問題ない。


 しかし、こういう狭い場所で、周囲の人を傷つけずに一撃で倒すのには向かない。


 それを見越して、リゲロで海賊たちを戦闘不能状態にしたのだが、一番やっかいな相手が残ってしまった。


「どうしたもう終わりか」


 キルゾがアレクの手首をダガーの切っ先で狙ってきた。


 それを受け返した。


(やはりナイフ使いだな)


 ナイフなどの短剣使いは、いきなり心臓を突いたり、首を落とそうとしたりしない。その代わり、手足の先を狙い、血管をまず傷つけ出血を狙う。


 そうして出血多量で弱ってきたところでとどめを刺す。


 キルゾはヒット・アンド・アウェイを繰り返し攻撃の手を緩めない。


 だが、アレクは闘っていてキルゾが、気が狂って自分の親を殺したようには思えなかった。


 冷静に理にかなった攻撃をしてくる。狂人のそれではない。


 それにもう一つ気になるのは目だ。


 暗い深い色の目をしている。


 狂気ではなく悲しみを宿した目だ。


「どうして依頼主の公爵だけでなく自分の親まで殺した」


 アレクは思わず訊いてしまった。


 キルゾの動きが止まった。


「なぜ知っている?」


「別に驚くことではないはずだ。お前が公爵と自分の親を殺して逃げていることは、どこの町の指名手配書にも書いてある」


「オレが訊いているのは、どうして公爵が依頼主だと知っているのかということだ」


 しまったと思った。つい口が滑ってしまった。


 キルゾが公爵おかかえの暗殺者であることは一般には知られていない。父がスパイをバドン公爵家に送り込み知った機密事項だ。


「まてよ。貴様、船長にさっきアレクとか名乗っていたな。なるほど、そういうことか」


「何納得しているんだよ!」


「お前、追放された隣の領地の公爵家の長男坊だろう」


「だとしたらなんなんだ」


「オレは、両親を殺していない。それに依頼主を裏切ってもいない」


「どういうことだ」


「依頼主がオレと家族を消そうとした。そして叔父を使った」


「じゃあ、両親が殺されたのは……」


「公爵の命令で叔父がしたのだ」


「だから復讐したのか」


「そうだ。もし、あの事件がなければ、いずれお前の命を取りに行っていた。お前の一族を皆殺しにして、バドン公爵が臨時の領主代行として乗り込み、そのままなし崩しに領地を拡大する計画だった」


「なら、どうしてバドン公爵はお前たちを殺した」


「計画が変わったからだ。魔物の復活の噂と、帝国の軍事増強の脅威があるので、帝国と暗黒の森に接している領地は、貴様ら脳筋の剣術一族に任せることにしたのだ。だが、同じ国の公爵家暗殺を企てたことを隠蔽抹消するために、バドン公爵は、暗殺計画を知らない叔父に俺達一族を抹殺するように命じたのだ」


「そんなことがあったのか……」


「バドン公爵の暗殺計画などなくても、幼少より逸材の剣士として名の知れていたお前とは闘ってみたいと思っていた。久しぶりに歯ごたえのある相手に出会えてオレは嬉しい」


(今の自分がキルゾに勝てるのか。自分に発動したスキルは剣術系ではなく『料理人』だ)


「スキだらけだぞ」


 キルゾのダガーの刃先がアレクの左手首の血管を切り裂いた。


(まずい。切られた)


 血が吹き出す。


 キルゾが笑みを浮かべた。


「さあ、どうする。血が抜けて、どんどん体の力が失われてゆくぞ」


(どうしたらいい。そうだ)


 アレクは掌から火を出し、傷口を焼いた。


(痛!)


 手首に火傷が残ったが出血は止まった。


 すかさず、リゲインを口に含んだ。


 火傷の痛みが消えてゆく。


「クッ、なんて奴だ」


 キルゾが驚きと怒りの目でアレクを見た。


 アレクは息を吐いて脱力した。緊張や力みは、力の伝達を途切れさせて動きを固くする。


(僕には『究極の料理人』のスキルがある。自分自身を信じるんだ)


【ハンタースキル】発動を念じた。


(これまでの剣術の鍛錬の成果にスキルによる身体強化が加われば、キルゾにだって対抗できるはずだ。自分の内なる力を信じるんだ)


 アレクは肉切包丁を改めて構え直した。


「いくぞ、スキル【捕殺】発動!!!」


 そう叫ぶとアレクはキルゾに向かった。


 見る者には2人が何をしているのか追えないほどの高速のナイフの攻防を繰り広げた。


(今だ!)


 アレクの包丁の刃がついにキルゾの手の筋肉の腱を捉えた。


 包丁を引いた。


 腱を切った。


「うあああ」


 キルゾがダガーを一本落とした。


「手首の腱を切った。もうダガーは握れない」


 アレクはもう一方の手の腱も切った。


「スキル【解体】!!!!」


 包丁がキルゾの体に入っていく。


 キルゾが倒れた。


 全身の筋肉の腱を切り刻まれて、体はもう動かせない状態だ。


 動かせるのは口だけだ。


「オレの負けだな」


 だが、キルゾの目は絶望していなかった。


「早く止めを刺せ」


「なぜだ」


「なんのことだ」


「なぜ晴れやかな顔をしている」


「戦っていればいつか死ぬのは覚悟してる。だが、オレはこれまで一度も自分の全力を出す機会がなかった。お前とは全力で戦えた。だから悔いはない」


 キルゾの目からは暗い悲しみは消えていた。


「さあ、早くやれ」


「残念だが時間がないようだ」


 アレクは、キルゾが倒されたのを見て爆弾ピエロが爆弾を投げてきたのを見逃さなかった。


 近くにあったテーブルを盾にすると、アレクは横に飛んだ。


 次の敵は爆弾ピエロだった。







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