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ハズレスキル【究極の料理人】を引き公爵家を追放されたが、それは最強スキルだった。  作者: サエキ タケヒコ
第1章 出立(王国と帝国)
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3 魔物


 アレクは風の中にいた。


 強風に飛ばされそうになったが、しっかりと足を踏ん張った。


(嵐がくるな)


 風が運んでくる匂いに嵐の予兆を感じた。森の獣たちもそれを感知したのか、アレクが索敵を使うと、安全な場所を求めて動き回っているのが分かった。


(いた)


 索敵のウィンドウの中で動き回る光の点の中に鹿の群れを発見した。


 アレクは風下から近づく。


 鹿は迫る危険に気が付かないでいる。


 ナイフを一閃させれば首を斬れるくらいに近づいたところで、鹿の群れが異変に気付き、一斉に駆け出した。


 鹿は強風に逆らって駆け出した。その方向に彼らにとって安全な場所があるからだ。


「風よいでよ」


 アレクは掌を後ろにして風を出し、その力で加速して向かい風に対抗した。


 一方鹿の群れは頭を低くし、必死になり強風に逆らい逃げようとしていた。そんな余裕のない鹿たちの間を舞うようにしてアレクは動いた。


 ナイフを横に払うようにして鹿の首を切ると、鮮血がほとばしった。しばらく駆けてから鹿は倒れた。


 アレクはそれを【食料庫】に収納した。


 食料庫は新たに発現したスキルの一つだ。


 森で狩りをしていたら、ファンファーレのような音がして、「【食料庫】を獲得しました」という声が聞こえて、使えるようになったものだ。なんでもそこに放り込んでおけば貯蔵することができる魔法の収納袋のようなものだった。


 獲物を全部食料庫に入れると森の奥にある小屋に戻った。


 外は嵐だったが、中で鹿を全部解体し、血抜きをし、捌いた。


 【解体】というスキルで手際よく処理できた。


 狩った獲物の角や皮、肉は里の村で換金していた。


 特に肉は日持ちするように燻製にした。その燻製肉が絶品という評判を生み、里の村ではいい値段で買い取ってくれていた。


 アレクはそのお金で、塩などの調味料や生活物資を買っていた。 


 アレクは今の生活が結構気に入っていた。


 それにアレクの料理人としてのスキルが発動したので、自分で調理した食材はいつも最高の塩加減と焼き加減になっていた。美味しいものには不自由しなかった。


 アレクは、貴族の生活より今の自由気ままな生活の方を楽しいと思うようになっていた。


 むしろ追放されたからこそ、今のような生活ができると感謝すらしていた。


 追放されたことに対する恨みや悲哀などはとっくに無くなっていた。





 ある日の夜のことだ。


 嫌な気配を感じて目が覚めた。


(この胸騒ぎはなんだろう)


 アレクは寝床から身を起こすと、とりあえず索敵を発動させた。


 半透明のウィンドウに赤黒い血痕のような点が2つ点滅していた。


 その赤黒い点はアレクの方に向けて急速に接近していた。その赤黒い点はこれまで遭遇した森の獣とは明らかに違っていた。


(こんな夜中にいったい何なんだ。まずは鑑定をしてみるか)


 アレクは「鑑定」とつぶやいた。だが、半透明のウィンドには鑑定は表示されなかった。これまでは森の獣ならウィンドウで鑑定できた。しかし、この赤黒い点にはそれができない。


(これは尋常ではない何かだ)


 アレクの直感がそう告げた。


(まさか、魔物?)


 暗黒の森には魔物が出ると言われていた。


 森の奥には魔界と人間界とをつないでいるゲートがあり、70年前の魔物との大戦では、この森から多くの魔物たちが現れた。


 しかし、人間の連合軍が魔物に勝利してゲートを封印してから魔物はでなくなった。


 アレクはこの暗黒の森に一人でもう何ヶ月も暮らしていたが、魔物に遭遇した経験は一度もなかった。現代ではもう魔物はこの森にいないと思っていた。


 だが、近づいてくる赤黒い不気味な血痕のような点は人間でも動物でもない何かのようだ。


 アレクは気配を殺して、小屋を出ると近くの木の上に登り身を隠した。


 その何者かが視界に入った。


 究極の料理人のスキルが発動してから、狩りモードに入ると、遠くでも、暗いところでも、獲物を見ることができた。


 アレクは接近してくるものを見た。


(なんだ!)


 それは、化け物だった。半人半獣の体で手足が7本あった。体は左右非対称で、頭には角が生えていて、目が赤く輝いていた。


(あれが、魔物なのか)


 小屋の前でその2体の魔物が立ち止まった。


「人間の臭いがする」


 驚くべきことに魔物は人間と同じ言葉を話した。アレクは耳をすませた。ハンターイヤーは通常の人間の何倍もの聴力で遠くの音を聞くことができるからだ。


 2体の魔物は小屋の中に入っていく。


「おかしい。どこにもいないぞ」


「だが、寝床が温かい。さっきまでいたはずだ」


「だとしたら、どこに行った」


「逃げたのか?」


「逃げる? 俺達を感知したというのか?」


「それはありえない」


「当然だ。人間は光がないと見ることができない。耳や鼻もたいしたことはない。こんな漆黒の闇夜に、音を立てず、風下から近づいてきた俺達を事前に察知することなどできるはずがない」


「そうだ」


「なら、別の理由で出かけたのか」


「ああ、それしか考えられない」


「まだ近くにいるのか」


 魔物たちが小屋から出てきた。そしてアレクが隠れいる木の方を向いた。


 アレクは心臓の鼓動が聞こえないかとハラハラした。


「どうだ。いるか?」


「いや、人間の気配を感じることができない」


「どこに消えた」


「まあ、いい。今回の目的は偵察だ。あわよくば人間を捕まえて、その生き血を主様に献上できればと欲張ったが、それは今回の目的ではない」


「そうだな」


「だが、主様の復活のためには大量の人間の生き血が必要だ」


「ああ。だが、その計画を実行するための下見だ。今日のところは深追いはしないでおこう」


 2体の魔物はアレクの小屋から移動し始めた。


 アレクは鑑定を発動した。


 今度は結果が表示された。


 おそらく直接目視するのと、遠くから半透明のウィンドウ上での点滅している点とでは、鑑定を及ぼす力の程度が違うのだろうと思った。


 アレクは表示された内容を見て凍りついた。


 魔物たちはAランクの冒険者や王国騎士団の騎士でも手こずるような攻撃力と防御力を有していた。剣技や魔法のスキルに該当する能力もあるようだった。


(こんな化け物とは戦えない)


 それが野獣のたぐいであれば、アレクはどんな獰猛な野獣でも一人で対処できる自信があった。


 だが、魔物は想定外だ。そもそも魔物は人間が食す対象ではないので、料理人スキルでは到底対抗できないはずだ。


 アレクが鑑定スキルを発動させた気配を感じたのか魔物は立ち止まると、アレクが隠れている木の幹を見上げた。


「どうした」


「木の上から何か気配を感じないか」


 魔物たちが目を凝らすようにして、アレクの方を見た。


 すると、すぐ後ろの木からフクロウが羽ばたいた。


「なんだ、フクロウか」


 そう言うと魔物たちはそのまま進んで行った。


 アレクは魔物が完全に視界から消えると、ため息をついた。


(危なく見つかるところだった。でもあんなのが徘徊しているのなら、もう森にはいられない)


 アレクは索敵を発動させた。


 とりあえず付近にはあの2体以外に魔物はいなかった。


 アレクは魔物が向かった方向とは逆の方角へ歩き出した。


(ここにいては危険だ)


 魔物たちが向かったのは父の領地がある方角だった。


 アレクはそれとは逆の方向のサーマル帝国領に向かって歩き始めた。


(あの小屋は魔物に見つかった。それに魔物は人間を捕獲してその生き血を飲む話をしていた。もうあの小屋に戻って、前のように暮らすことはできない)


 アレクは真っ暗な森を突き進んだ。


 索敵やハンターアイのスキルを使えるアレクにとっては暗闇は何でもなかった。


 それよりもさっき見た魔物の恐ろしさに震えが止まらなかった。


 一刻も早くこの森から抜け出たかった。


 アレクは足を早めた。


 



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