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22 姉妹の絆


「待って、今、なんて言った?」


 慌てて戻るとイザベルが閉めようとした扉をつかみアレクが訊いた。


「リゲイン草があんなに高くならなければこんなことにはならなかったと言ったのよ」


 イザベルが怪訝な顔をして言った。


「リゲイン草があればいいのか」


「ええ。今、サラの命をつないでいるのはリゲイン草だから」


「じゃあ、イザベルはリゲイン草を買うために娼館で働くつもりだったのか」


 イザベルが頷いた。


「もう一度部屋に入れてくれ」


「いったいどうしたの?」


 アレクは部屋に上がると、【食料庫】からリゲイン草を取り出した。暗黒の森で死にかけてから、リゲイン草は見かけると摘んでストックしておいたのだ。幸い、これまで使う必要は一度もなく【食料庫】にはかなりの量が貯まっていた。


「これ」


 アレクはリゲイン草をイザベルに突き出した。


「使ってよ」


「まさか、それは……」


「リゲイン草だ」


 ほころびかけたイザベルの顔が急に固まった。


「ねぇ、アレク、冗談はよして」


「どうして」


「リゲイン草は深い森の奥でしか採れないの。薬草採取と言ってもDランク以上の冒険者のクエストよ。それに最近は森に魔物が出るということでますます採れなくなっているのよ。そんな貴重なものをどうしてあなたが持っているのよ」


「それは……」


「こういうことをしてくれた人はあなたが初めてじゃないの。善意の人もいれば、騙す気だった人もいたわ。でも私は騙されない。これはリゲロでしょ」


「リゲロだって?!」


「そうよ。リゲイン草とそっくりの見た目、臭い、味だけど、激しい下剤でしかない。それにリゲロはどこでも採れるわ」


「本物のリゲイン草だよ」


 アレクは草の端をちぎると飲み込んだ。


「ほら、なんとも無いだろう」


「そんなこと、まさか」


 イザベルも草の端を噛んだ。


「体が内側からポカポカして来る」


「だろう。本物だよ」


 イザベルはアレクからリゲイン草をひったくるようにして受け取ると台所に行き、葉をすりつぶした。そして半液状になったリゲイン草をサラの口に垂らした。サラの横につき、少しずつ小さなスプーンで飲ませて行く。


「これ全部使ってもいいの?」


「まだたくさんある」


 アレクは【食料庫】からリゲイン草の束を出すとテーブルの上に置いた。


 イザベルは目を丸くした。


 しばらくするとサラが目を開いた。


「姉さん」


「サラ、気がついたのね」


「うん。意識はあったのだけど、舌や口が動かなかったの。でもだいぶよくなったわ」


「リゲイン草のおかげね。一度にこんなにたくさん飲ませることができたのは初めてだから」


「ごめんなさい。姉さん。私のせいで」


 サラが泣き出した。


「私なんか死んでもいいから、私の薬のために娼館なんかで働かないで」


「やっぱり聞いていたのね」


「うん」


「大丈夫。アレクのおかげで、リゲイン草が手に入ったから」


「でもリゲイン草は一時的なものにしかすぎない。バラデロでしか治らないんでしょ。命を保つために高いリゲイン草を飲み続けるわけにはいかないわ。今日までしてもらっただけで十分だから、もう私にリゲイン草を与えないで」


「そんな……」


「とりあえず、しばらくは僕のリゲイン草でなんとかなります。そうしている間にバラデロ草をどうにかして手に入れます」


「アレクにこれ以上、迷惑はかけられないわ」


「バラデロ草を得ることができるかどうかは分かりませんが、なんとかしてみます」


 アレクはそう言うと、立ち上がった。


「どこに行くの?」


「今日はもう遅いので宿に帰って寝ます。明日はバラデロ草を探しにゆきます」


 イザベルが玄関まで送ってくれた。


 そしてアレクに抱きついて胸に顔を埋めた。


「ありがとう。本当にありがとう」


「僕がなんとかするから心配しないで」


 そう言ってアレクは部屋を出た。


(リゲインが採れなくなったのは魔物が森に出てきたせいもあるかもしれないけど、僕が森で採りすぎたせいかもしれない。だとしたら僕にも責任がある。なんとしてもサラを助けなくては)


 月明かりの深夜の道を歩きながらアレクはそう考えた。



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