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19 イッツ・ショータイム


 暗い店内でイザベルの吐息がアレクの耳にかかかった。


 甘い香りがした。


(どうしよう。何が始まるんだ)


 今すぐ逃げ出したい気持ちと、何かに期待して居続けたいという矛盾した感情の狭間でアレクはフリーズしていた。


 すると音楽が流れてきた。


 前方の舞台に明るく燃えるたいまつをもった女性が4人登場した。そして舞台の四隅のたいまつ立てに持っているたいまつを置いた。4人は舞台に横一列に並ぶと観客に頭を下げた。音楽のテンポが上がり、彼女たちは舞台で踊り始めた。


「これは?」


「ショータイムよ」


 イザベルの横顔を見ると、目を輝かせて舞台を見ていた。舞台に視線を戻すと、踊り子が足を高く上げて体を回転させて踊っていた。


 ショーが終わると店内には再び明かりがつき、各テーブルのキャンドルも点火された。


「どうだった」


「驚きました」


「本当は歌手がもう一人いるんだけど、今は体調を崩しておやすみしているの」


 イザベルの顔が曇った。


「でも、十分に良かったです。こういうのを観るのは初めてです」


「急に店内が暗くなった時は動揺したんじゃない?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべてイザベルが言った。


「少しだけ」


 イザベルは微笑んだ。


「ショータイムはアオ百合名物なの。ショーが目当て来るお客さんも多いのよ」


「実は間違えてここに来てしまったんです」


「間違えた?」


「この店が女の人とお酒を飲みながらショーを観る店だとは知らなかったんです」


「どこに行くつもりだったの?」


「この国の情報を得ることができる店です。この国にはまだ来たばかりなので、いろいろなことを知りたいと思って……」


「それは、禁制品を買える店とか、そういった情報?」


 アレクはとんでもないという風に手を振った。


「ごく普通のことです。この国で暮らして行くのに必要な一般的な知識です」


「それなら、私でも教えてあげられるわよ。私も外国からこの国に来たからあなたの気持ちは、分かるわ」


「いいんですか。ではお願いします」


「知っていると思うけど、この国は王様も貴族もいなくてみんな平等で、しかもとても豊かな国よ。私のように貧しい北国で平民だった者には天国みたいなところなの。自由で、平等で、豊かな生活ができるから」


「王がいないなら、誰が国を治めているんですか」


「みんなが選んだ代表よ」


「どうしてこの国はそんなに豊かなんですか」


「大地と海の恵みが豊富だからよ。この国は大きく分けると沿岸部と平野部と山岳部の3つに分けられるの。沿岸部では魚がたくさん獲れて、平野部は肥沃な土地と温暖な気候なので作物がよく育つの。そして山岳地帯では鉱石や石炭などが豊富に採掘できるの。だから、とても豊かなのよ」


「そんなに豊かで、しかも支配している王侯貴族も皇帝もいないのなら、他国が侵略してきませんか?」


「この国は険しい山脈と海に囲まれていて平坦な道は、この国境の町の先にあるあなたも通ってきた渓谷の谷間の細い道しかないのよ。だから自然の要塞の中にあるようなものなの。それに豊かな経済で得た税収で腕利きの傭兵をたくさん雇い国境付近に配備しているから、他国も容易に攻めることができないの」


「本当に恵まれた土地なんですね」


「そう。だから世界中からこの国に人が移住をしたがっているわ。身分差や貧困に苦しむ人から見たらこの国は神が与えて下さった『約束の地』なの」


 公爵家に生まれ育ったが、そこから追放されて森に追われたアレクにとっては、身分は関係なく、平和で豊かな国というのは魅力的だった。


「お客様、お時間ですが延長されますか」


 ボーイが来るとアレクに言った。


「延長?」


「はい。延長すると別途料金がかかります」


「そろそろゆくよ」


「アレク、今日はありがとう」


「僕こそ、楽しい、有意義な時間が過ごせたよ」


 アレクはボーイの持ってきた紙切れにかかれた金額を見たが、案内所で言われた通りの2割引の金額にイザベルの飲み物代がついているだけだった。思ったよりも高くなく明朗会計だった。


「また来るよ」


 アレクは、その後、イザベルが紹介してくれた宿に泊まった。


 その宿もリーゾナブルだった。


(結構いい町だな。それにまたあの店に行ってイザベルと話をしたいな。まだ訊きたいことはいくらでもある)


 そんなことを思っているうちに眠ってしまった。


 そうしてアレクのアメリア共和国での一日目が終わった。





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