18 初めてなの?
「ど、どうも。アレクです」
「もしかして初めて?」
何が初めてと訊いているのかが分からなかった。この店なのか、この国への入国なのか。それとも、もっと深い意味があるのだろうか。
薄暗い店内に目が慣れてくると、いくら世間知らずなアレクでも、ここは情報を提供する店ではなく、美しい女性と楽しい時間を過ごすサービスを提供している店であることに気がついた。
(なんだか、マズいことになったな)
厳しい父親の監督下で、剣術の稽古漬けだったアレクは、恋愛経験はゼロで、女性と付き合ったことはない。幼馴染で家ぐるみの付き合いだった男爵令嬢のソフィアくらいしか親しい女性はいなかった。
(取って食われそうな気がする)
アレクは思わず身震いした。
「寒いの?」
イザベルが身を寄せてきた。豊かな胸がアレクの二の腕に押し付けられた。
「ちょっと、近いですよ」
アレクは慌てて身を引いた。
イザベルは鈴を鳴らすような声で朗らかに笑った。
「そのう……初めてです。成人したのを機会に国を出て、旅をして――今日、この国に着いたばかりなんです」
とりあえず事実を話した。
「そうなの。よかった〜。成人していたのね。うぶな様子なので未成年者かと思ったわ」
「未成年者だとマズイんですか」
「そうね。ここはお酒を出す店だし、女の子が接客もするから、未成年者はお断りなの」
「そうですか……」
「何を飲む? このメニューから2杯までは、セット料金で飲めるわよ」
「お酒ですか」
「ええ」
「お酒以外はありますか?」
「あるけど。冷やしたお茶になるけど……、それでもいい?」
「はい。それでお願いします」
「私も何か飲んでいい?」
「はい」
「ありがとう! 気前がいいのね」
「はい?!」
(気前がいいって、彼女の飲み物は別料金なのか?)
イザベルはテーブルの上にあったキャンドルを手に取ると高く上にかざした。
「何をしているんですか」
「オーダーするためにボーイを呼ぶ時は、こうやってキャンドルをかざすのよ。店内は騒がしいから声が通りににくいし、オーダーで声を張り上げると店の雰囲気を壊すでしょ」
すぐにボーイが飛んできた。
「お茶と、私にエールを」
「お客様、エールは別料金になりますがよろしいですか」
イザベルが横で目をキラキラさせているのに『だめ』とか、『幾ら?』とは訊けなかった。
アレクは黙って頷いた。
すぐに飲み物が運ばれてきた。
「乾杯!」
イザベルが陽気に言った。
「乾杯」
アレクも唱和した。
店内の様子を観察すると客は酒を飲みながら楽しそうに女性と話をしているだけで、いかがわしいとか危険という感じは無かった。
(結局、僕が田舎者丸出してキョロキョロしていたので、いいカモだと思われたってことか)
アレクは状況を理解した。
状況が理解できれば、恐れることはなかった。
店は木造一階建てで、広い倉庫のような造りだった。もしアレクをカモとして身ぐるみをはがす気なら、突風を起こして天井を吹き飛ばして、そのままジャンプして逃げることができた。その気になれば、全てを焼き払うこともできたが、この程度のことで、そこまでしてはいけないだろう。それにアレクなら、普通に出入り口から出て行けた。黒服の男が出てきて止めようしても無駄だ。奴の格闘能力は喧嘩自慢のレベルだった。幼少期より武術の英才教育を受けてきたアレクは見ただけで相手の技量が分かった。スキルを使うまでもなく倒せる相手だ。
「少しは緊張が解けた?」
イザベルがアレクに訊いた。
「えっ?」
「さっきは怖い顔をして震えていたのに、今はリラックスした様子だから」
「あっ、ああ」
「分かるわ。私も田舎から出て来てこの国に来た時は、そんな風だったから。田舎者となめられないように肩肘を張りながら、都会の雰囲気にビクついてたわ」
「出身はどこなの?」
「ノースバニア」
「あの北国か」
「そう。一年の大半が雪に埋もれている貧しい国よ」
イザベルの顔はどこか悲しげで怒ってるようにも見えた。
「あなたはどこの出身なの?」
「ええと……」
出身の王国の名前を言うと、自分のことがバレてしまうかもしれないと思った。ブリンク公爵家は王国でも有力貴族で広大な領地を有していた。アレクが追放になったことはニュースになったはずだ。
(どうしよう)
アレクは嘘をつくことが下手だった。
すると、もともと薄暗かった場内が暗くなった。
イザベルも卓上のキャンドルを吹き消した。
あたりは真っ暗になった。
イザベルがアレクの腕に手を回すと豊かな胸をアレクに押し付けてきた。
そして耳元で囁いた。
「さあ、始まるわよ」
「えっ、何ですか!?」
「お楽しみよ」
アレクは心臓がドキドキしてきた。正直、こういうのは苦手だった。魔物と戦っている方がマシだった。
アレクは逃げ出したくなった。
冒頭にプロローグを追加しました。よかったら読んで下さい。
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