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ハズレスキル【究極の料理人】を引き公爵家を追放されたが、それは最強スキルだった。  作者: サエキ タケヒコ
第1章 出立(王国と帝国)
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15 それぞれの思い【ライザ】


「隊長、どうかしましたか」


「いや別に何でもない」


「何だか昨日の夜から隊長の顔色がすぐれないので」


「心配ない」


 ライザは母親の思い出の料理を食べたことで、封印していた過去を思い出してしまい、結局昨夜は1人で泣き明かしてしまった。そんな弱い自分が嫌だった。魔物たちを殲滅するには、感情に動かされない冷徹な殺戮マシーンになりたかった。


 もう一つ別の異変がライザの中に起こっていた。


 それはあのアレクという料理人のことが気になってしかたないのだ。


 魔物の襲撃事件についての重要参考人であるから気になるのも当然なのだが、今までの事件の調査の時と違い、アレクのことを思うと何だか胸が苦しくなったり、耳が熱くなったりするのだ。


(風邪でも引いたのかしら)


 そう思いながらも、ふとアレクは今何をしているのだろうと思ってしまう。


(今日の私は本当におかしい)


 ライザは雑念を払うように足を早めた。


「どこに行かれるですか」


 慌てて副隊長のハルトがついてきた。


「パトロールだ。魔物はいつ出るかもしれないからな」


「自分も同行します」


「ああ」


 二人は夕暮れ時の町を点検した。特に異常は無かった。魔物の群れが出たということで、午後には帝都から応援の部隊も到着し、町のいたるところに軍服姿の兵士がいた。


 町の中心部にある料理人ギルドの協会支部の前に来た。


(そうだ。アレクは試験に合格したのだろうか。昨日の晩は、私が疑って無理を言って料理を作らせてしまった。大丈夫だったのだろうか)


「ちょっと、ここによるぞ」


「料理人ギルドに何か用ですか」


「例の重要参考人のアレクだ」


「まだ疑っているんですか」


「一応念の為裏を取るだけだ。あいつはギルドに入会すると言っていたから確認してくる」


「分かりました。では隊長が中で確認をしている間、私は建物の前で周辺を警戒しています」


「よし分かった」


 ライザは建物の中に入った。


 受付に行き、今日のギルド入会試験の結果を知りたいと伝えた。


「あのう、どなた様でどのような趣旨でそれを知りたいのでしょうか」


 受付の事務員が軍服姿のライザを怪訝な顔をして見ながら言った。


「私は、帝国特務調査隊第一班隊長ライザ・ルフテンブルグ だ。今日試験を受けたアレクという者は、先日の魔物襲来事件の重要参考人だ。私には訊く権利がある」


 事務員は飛び上がるようにして驚き、「お待ち下さい」と言って奥に行った。


 すぐに戻って来ると「あいにく、理事長も、役員も誰もいません。ただ試験に立ち会った料理人が1人いますので、その者から聞いて下さい。ご案内します」と言った。


 ライザは、応接室に通された。


「お待ち下さい」


 そう言うと事務員が去って行った。


 ドアがノックされた。


「失礼します」


 白い料理人の制服を着た中年の男性が入ってきた。


「カザマと申します」


「帝国特務調査隊第一班隊長ライザ・ルフテンブルグだ」


 ライザは威厳を崩さないよう重々しい口調で言った。


「そのう……。隊長様はアレクの結果を知りたいのですね」


「ああ、そうだ」


「合格でした」


 それを聞いて、どうしてだか分からないがライザは安堵した。


「それはよかった」


 それだけ聞けば十分だった。


 帰ろうとするライザにカザマは話かけてきた。


「いや。隊長さんにも見せたかった。それくらいすごかったです」


「どうすごいかったのだ?」


「いや、実は最初から試験は落ちるように仕組まれていたんですよ」


 ライザは右の眉を釣り上げた。


「どういうことだ」


「嫉妬ですよ。嫉妬。審査委員長は料理人のスキル持ちでなく、苦労して這い上がってきた人なんです。だから理事長に気に入られて修行をすっ飛ばして審査を受けに来た『究極の料理人』のスキル持ちをなんとしても落としたかったんですよ」


「それで、どうした」


「微妙な火加減が必要な料理を課題にしたんですけど、試験会場のキッチンのコンロでそんな調理をすることは無理でした」


「でも、アレクは合格したんだろう」


「そうなんです。しかも満場一致でです。最後には意地悪をした審査委員長すら、アレクの実力を認めざるを得なかったのです」


「ほう。それはすごいな。いったいどんな魔法を使ったんだ」


「火炎魔法です」


 カザマが真面目な顔をして答えた。


「どんな魔法を使ったのかというのは比喩だ。私に対して、そんな冗談で返答するとは不愉快だ」


「泣く子も黙る帝国特務隊の隊長さんに、冗談なんて怖くて言えませんよ」


 カザマが泣きそうな顔で否定した。


「では?」


「本当に火炎魔法で調理したんですよ」


「その話を詳しく聞かせろ!」


 ライザはカザマからアレクがどのようにしてステーキを調理して審査を突破したのか聞いた。


「それで、アレクは詠唱を唱えたか?」


「詠唱? いえ、何も唱えませんでした」


「アレクの前に魔法陣は出たか?」


「いいえ」


「強火や弱火を絶妙の火加減で無詠唱で魔法陣も出現せずに、出したり、引っ込めたりしたというのだな」


「そうです」


(ない。ありえない)


 魔法は詠唱なしには使えない。無詠唱で魔法を使える魔道士もいたという伝承はあるが、それは神話のレベルだ。それに詠唱を唱える声をカザマが聞いていなかったとしても、光り輝く魔法陣が術者の前に出現するはずだ。


 それにそもそも初級の火炎魔法なら手加減などできない。ドバっと火が出て終わりだ。10分近くにわたり、コンロででは出来ない絶妙な火加減を魔法で調整して出すことなど不可能だ。


 仮に無詠唱で魔法陣を張ることもなく、瞬時に火を出し、それを自在にコントロールできるとしたら……。


(あの現場のようにスチールウルフを焼き殺すことができる。そうするとあれをやったのはアレクなのか?)


「隊長さん、何を驚いているんですか。肉に焼き目をつける程度の火炎力ですよ。アレクは初級魔法を少しかじったとか言っていましたけど」


「お前、魔道士が魔法を使うのを見たことがあるのか」


「いいえ。生まれてこのかた料理一筋で、本物の魔法なんて見たのは今日が初めてです」


 ライザは席を立った。


(アレク、私を騙したな)


 ライザの形相を見て、カザマが怯えた顔をした。


「何か失礼なことを申し上げましたでしょうか」


 ライザはカザマには構わず、料理人ギルドの建物から飛び出した。


「ハルト! 部隊に集合をかけろ」


「はっ」


「これから直ちに、アレクの身柄を確保しに行く」


「どうしたのですか」


「奴だ。アレクだ。あれをやったのは」


 ハルトにはそれで通じた。ライザの言葉を聞いてハルトは青くなった。


「行くぞ!」


 ライザとハルトは通りを駆けた。




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