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147 アサシン・スライム


 次の階層は暗く長い廊下だった。


 窓は無く、壁に等間隔で備えてある松明(たいまつ)の灯りだけが廊下を照らしていた。


「アンデッド系の魔物が出てきそうな雰囲気だな」


 少し進んでからエドワードが立ち止まった。


「よし、隊列を編成し直す。キルゾ、お前が先頭だ」


「キルゾは後方からの不意打ちを守る役割じゃなかったのか?」


「後方は私が守る」


「エドワードが?」


「ああ、だからキルゾとアレクが前に出ろ。メイベルはソフィアとトリエスの横についていろ。フック船長は私の横でサポートしろ」


 何のことはない、アレクとキルゾを先頭に追いやり、自分は比較的安全な後方に隠れ、しかもフック船長に守ってもらうつもりだ。


「どうした? 何か文句があるのか」


 誰も何も言わなかった。


「私以外に魔王を倒せる者はいない。そのことを忘れてはないだろうな」


「アレク、行くぞ」


 キルゾは勇者を無視して前に出てきた。


 アレクはキルゾと横並びになり前を歩いた。


「不思議だな」


 キルゾが顔は前に向けたままで話しかけてきた。


「何が?」


「元々、俺はお前を暗殺する予定だった」


 アレクは苦笑いをした。


 実家であるブリング家の隣地の領主のバドン公爵は野心家で油断ならない人物だった。バドン公爵は、アレクの領地を奪うために影の者を送り込み、ブリング公爵家を暗殺しようと企てていた。


 そして、バドン公爵は、200年にわたり王国の貴族に仕えてきた闇の暗殺者一族にアレクたちの暗殺を依頼したのだ。その暗殺者一族の若い当主がキルゾだった。


 だが、結果的には暗殺計画は中止になり、暗殺を企てた証拠を隠滅するために、キルゾ一家を毒殺しようとして、逆にバドン公爵は生き残ったキルゾに殺されてしまう。


 そしてキルゾは公爵殺しの指名手配犯となり海賊になったのだ。


 そんな過去が2人の間にはあった。


「監獄の中で、もしあのまま暗殺計画が実行されてお前と戦っていたらどうなっていたかを考えた。何度考えても結論は同じだった」


 キルゾが前を凝視(ぎょうし)しながら言った。


「どうなっていた?」


「俺の負けだ」


「それは今の僕のスキルならということだろう。でも、あの時は、まだスキルは発動していなかった」


「お前のそのチートなスキルに負けると思ったのではない」


「では、どうして?」


「カナルの披露宴で戦った時、お前は俺のことを知っていた。闇の暗殺者でブリング公爵家を狙っていたことも。だから負けだ」


「そんなことで?」


「そんなことだと! 俺の一族は200年続いた暗殺者の家系だ。そして今まで暗殺の対象者に正体がバレたことは一度も無かった。皆、誰に殺されたかも知らないまま死んでいった。なのに行く前から、全部バレていた。その時点でもう負けだ。こちらの情報が筒抜けで、対策を練られているということだからな」


「……」


「別にぼやいているわけじゃない。つくづくお前とは縁があるなと思っているだけだ」


「キルゾはどうしてこの戦いに参加した」


 すぐには答えなかった。


「言いたくないのなら言わなくてもいい」


「いや。違う。上手く言えなくて考えていた。俺は殺すことしか知らない。だが、誰を殺るか、何のために殺るのかを選ぶことができなかった。命令のままに動く駒だった」


 キルゾは言葉をそこで切った。


 前方に気配を感じたようだ。


「分かるか」


「ああ」


「こちらの様子を(うかが)っているようだな」


 アレクは剣の柄を握りしめた。


「それで話の続きだが、俺は自分の意志で意味のある戦いをしたかっただけだ。復讐とか生きのびるためとかではなくてな」


 話を聞いていて何だかアレクも納得した。アレクも実家のブリング公爵家にいる時は次期当主として、魔物が出る暗黒の森と軍事大国の帝国の国境に隣接する土地を守るという使命のためにひたすら戦う術を修行させられた。


 自分の意志は関係ない。そう生きるように決められていた。周りからも期待されていた。だから、スキルが料理人だと判明したら、役に立たない物を捨てるかのように追放されたのだ。


 だが、追放されて、自分の意志で物事を決め、自分の意志で戦うようになりアレクの人生は大きく変わった。


 だから、今ここにいるのも自分の意志だ。精霊神はアレクにチートな力を付与したが、魔王と戦うことを強制はしなかった。逃げてもいいとさえ言われた。


 監獄に入れられて死刑を言い渡された時も、アレクはその気になればいつでも逃げるチャンスはあった。


 逃げないで魔王と戦うことを選んだのは、世界を旅して会った人たち、特に子供たちを見捨てることができなかったからだ。


 あの子達が魔物の食料になる世界など絶対に嫌だった。


「キルゾ、僕も自分の意志で戦いに参加している」


「知っている」


「2人で魔王を倒そう」


 キルゾが横を向きアレクを見た。初めて笑い顔をアレクに見せた。


「楽しみだな」


 さっきから気になっていた何かが襲ってきた。


 キルゾが飛び出して、剣を横に薙ぎ払った。


 影が2つに斬られて、白っぽい塊が床に落ちた。


「何だ?」


 アレクは【鑑定】してみた。


『アサシン・スライム:スライムの暗殺者。体は半液状の軟体で、自在に姿を変えることができる。ダガーナイフや剣など武器による物理攻撃をしてくる。魔法は使えない。しかし、スライムは半液状の体なので、2つに斬っても、再び合成して元通りになる。魔法攻撃や火炎などに対する耐性も強い。倒すには中にある核を物理的に破壊しないとならない。しかし、核の位置は常に変化するので破壊は難しい。ゼリー状の身体はそのまま食べても美味しく、ポーションのような回復効果もある』


「おい、キルゾ、このスライムは生食できるらしい。それに食うと回復効果が得られるみたいだ」


 キルゾが斬って2つになったアサシン・スライムが一つに結合した。


 そして人の形になると、落ちていたローブを着て剣を拾った。


 跳ねるようにアサシン・スライムが剣をかざしてアレクに向かって襲ってきた。


 カキーン


 アレクは、剣を打ち払った。


 打ち飛ばされたアサシン・スライムの剣が天井に刺さった。


 アレクはそのままアサシン・スライムの体を八つ裂きにした。


(あった)


 赤く濁った水晶のような玉が切り裂いた体から現れた。


 それを剣で砕いた。


「ギィイイイアアアアア」


 アサシン・スライムが悲鳴を上げた。


「一匹殺ったぞ」


「前を見ろ」


 後ろからメイベルの声がした。


 前方には、ローブを着て剣を持った無数のアサシン・スライムが松明の灯りに照らし出されていた。







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