145 爆炎
「回避行動をする。しっかりつかまって!」
アレクは天使の翼をはためかせて飛んでくる魔弾を左右に避けた。
「トリエス、まだか」
トリエスはエドワードの問いかけには答えず一心不乱に詠唱を唱えていた。
「敵はどこだ?」
ソフィアだけは聖女のスキルで邪悪なものの存在を感知していた。だが位置までは特定できなかった。
アレクのスキルの【索敵】には映らず、メイベルの研ぎ澄ました五感でも気配を察知できなかった。
不可視な魔物による遠隔攻撃だった。
その時、3時の方向に爆炎が上がった。
ドドドドドドドドーン
次々と爆炎が生じて爆発による煙が煙幕のような雲を作った。
「なんだ? 何が起きている」
アレクたちに向けて発射されていた魔弾が途切れた。
すると煙の中から魔王軍の魔道士が出てきた。
「魔弾を撃っていたのはあいつらだったのか!」
魔道士がすぐ前で爆発した。
だが、シールドをはっていたのか、その爆発の火炎の中から魔道士が出てきた。
その上にフック船長たちが飛んでいた。
「いけ、キルゾ!」
キルゾが魔法陣からダイブした。
そして、下にいる魔道士に斬りかかった。
「馬鹿な!」
上から聖剣を突き出して落ちてくる黒の暗殺者に魔王軍の魔道士が叫んだ。
次の瞬間、その魔道士の体が2つになった。
そしてキルゾをフック船長が受け止めた。
再び上昇すると、何もない空間に爆弾ピエロが笑いながら爆弾を射出した。
すると、火炎と爆風の中からまた魔道士が出てきた。
それをフック船長が追い、キルゾが飛び出して斬った。
それを何回か繰り返すとあたりは静かになった。
それでも、爆弾ピエロが空にあちこちに向けて爆弾を掃射したが、何にも当たることなく空の中に消えて行った。
「もういないようだな」
「今のは何だ。それにお前たちは逃げたんじゃないのか」
トリエスの飛行魔法が再発動して、無事に空を飛べるようになったエドワードがフック船長に訊いた。
「隠蔽魔法で、自分たちの姿を消していた魔道士に待ち伏せされていたんだよ」
「どうして、我々があいつらの存在を探知できなかったのに、お前たちは奴らのことが分かった?」
「奴らのことが見えていたわけでも、探知できたわけでもねぇよ。ただ予想していただけだ」
「予想していただと?」
「ああ、俺達が西の国の海軍と戦う時にはいつもやっていることを、奴らもやるんじゃないかと」
「我が国の海軍とだと?」
「へへへへ、まあ、それはさておき、こういう場合、魔王軍は俺達が襲撃することを予想して手をうつはずだ。簡単には天空の魔王城に着陸させてくれないだろう」
「……」
「その場合、大量の飛行系魔物を配置して正面から衝突するか、それとも隠れて待ち伏せするかだ」
「だが空に隠れるところなどない!」
「海もだよ。だが俺達海賊は、隠れる場所が無いところで隠れる方法を知っている」
「それは何だ」
「太陽を背にして、風下にまわり、さらに相手の目指す進行方向の死角になる位置、それらを満たす場所で待ち伏せする。そして、当然、索敵のスキルや探知魔法を無効化する魔法によるジャミングや偽装をするはずだ。だから、魔法やスキルに頼らず、相手が人間の五感では探知しにくい場所を飛び回って、怪しいそうな場所に、爆弾をバラマキ続けていたんだよ。そうしたら、案の上、奴らがいた」
「逃げたのではないのか」
「逃げる? どうして?」
「死ぬのが怖くないのか?」
「ワハハハ。死ぬのは怖いな。でも俺達は死刑囚だし、もともと甲板の板の下は地獄の海で生活していた。死は常に隣り合わせだ。別に今さら逃げたりはしない」
エドワードは黙ってしまった。
「思ったよりもお迎えが少ないな。監獄の中で、アレクがオーバーキルをしたと聞いていたが、本当にこいつ手加減しないで、魔物を狩りまくったようだな」
「何をいうんですか」
「本当だよ。この程度の人数でしかも本拠地に向かっていることは向こうも承知のはずだ。なのにあの程度の魔道士しかお迎えが来ないということは向こうも人材不足なのだろう。さあ、アレク、早いとこ、片付けて、戻って街で一杯やろうぜ」
「ああ」
その後、魔王城までは邪魔は入らなかった。
魔王城は空を飛ぶ島の上にあった。
「バリアとか、結界はないか?」
「「ありません」」
ソフィアとトリエスが同時に言った。
「フック船長はどう思う」
「そうだな、とりあえず着地してみよう。俺達が先にゆく」
フック船長が天空の島に着地した。
何にもなく、地面に3人は立っていた。
「よし、僕らも降下するぞ」
アレクも地面に降りた。
空に浮いているというのに、地面は地上にいるのと同じように、全く揺れることもなくしっかりとしていた。
遅れてエドワードとトリエスも着地した。
アレクは【索敵】を発動した。
近くには魔物はいなかった。
あたりは小さい森のようになっていて、その向こうに魔王城がそそり立っていた。
城壁はなく、そのまま城の入り口が見えていた。
「じゃあ、行こう」
アレクは城の入り口に向けて歩き出した。
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