133 人形(ドール)
「悪魔ですのよ」
白い肌、白い髪、白いドレスを着た少女が言った。
すべてが雪のように白いのに唇だけが原色の赤だった。
「ひいい。悪魔! 本物の悪魔が出てきたぞ!」
救援に駆けつけてきた傭兵仲間が後ずさりをしながら叫んだ。
「うるさい。おだまり」
その兵士は炎に包まれた。
「うがあああああああああああああああああああああああ」
兵士は火だるまになってのうたうち回った。
「ミネドーサ、こんな雑魚に、なに手間取っているの」
ルシファーがミノタウロスに言った。
「このチビがすばっしっこくって」
「それは、お前が劣っているということじゃないの? 主様の配下に無能はいらない」
ルシファーが手を上げた。
「待ってくれ! 一度だけチャンスをくれ! ここで始末しないでくれ」
「『くれ』じゃないでしょ。口のきき方に注意しなさい。私を誰だと思っているの」
「申し訳ありませんでした。ルシファー様が四天王であられることは重々承知しております。どうか一度だけ挽回するチャンスをお与えください」
「いいでしょう。なら、そこのゴミを掃除しなさい」
「御意!」
「私は慈悲深いから、情けをちょっとだけ、かけてあげる」
ルシファーが手をかざすとミノタウロスの体が輝いた。
「加速のバフよ。お前の動きは2倍速になったわ」
「ありがたき幸せ」
ミノタウロスが膝を突いて頭を下げた。
「じゃあ、お仕事をしてね」
「承知」
ミノタウロスがその巨体をさらに大きく見せるように胸をはった。
「おい。そこのチビ。そういうことだ。ネズミのようにチョロチョロ走り回っていたが、もう終わりだ」
ミノタウロスが4本の腕に持つ武器を構え直した。
(まずい。さっきの速度でも、かわすのにギリギリだったのに2倍になったら対処しきれない)
「ジョー! ミントと生まれてくる子のことを頼む。俺が時間を稼いでいる間に逃げろ」
「プラトー、お前……」
ジョーが涙ぐんだ。
「あら、逃しませんことよ」
ルシファーがジョーに魔法をかけた。
「だめだ。プラトー、体が動かない」
「ほほほほほほ」
ルシファーが笑った。
「では、これで最後ですのよ。神にでも祈りなさい。もちろん何もしてもらえないでしょうけど」
鉱夫出身のスミスが突然、空に向かって吠えるように叫んだ。
「アレク! アレク、どこにいる。俺達を助けてくれ! お前ならコイツらなんか敵じゃないはずだ。アレク! 答えてくれ! 子供たちの未来を守ってくれ!」
「そのアレクっていうのがあなた達の神なの? 間の抜けた名ね」
ルシファーが馬鹿にしたように言った。
(これまでか……)
絶望的状況だった。
ミノタウロスが振りかぶった。
その時、すごい風圧が襲ってきて思わず、プラトーはバランスを失い倒れた。
(死ぬのか)
最初それはバフにより加速されたミノタウロスの剣圧かと思った。だが、不思議なことに首はまだ胴体についており、手足も無事だった。
見ると正面にいたはずのミノタウロスの姿がない。
「プラトーさん遅くなりましたが、もう大丈夫です」
上から声がした。
見上げるとアレクだった。
しかも半透明の大きな天使のような翼をはためかせていた。
「「「アレク!」」」
プラトーは何が起きたのか理解できなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アレクは勇者パーティのいる丘から飛び立つと【索敵】を発動させると、プラトーたちを探した。
(いた! あそこだ)
だが、そばにいる魔物の暗赤色の輝きが気になった。
(あれは強い魔物だぞ)
天使の翼を使い一直線に向かった。
ちょうど、ミノタウロスがプラトーを襲おうとしているところだった。
(まずい。間に合わないかもしれない)
アレクは飛行速度を限界まで上げると同時に、ミノタウロスの前で急停止して、翼の風力を逆噴射をするようにした。
それにより突風が起きた。
普段の風のスキルよりも強力なものだ。
ミノタウロスは吹き飛ばされた。
すかさず、飛ばされてゆくミノタウロスに氷結の矢を打ち込んだ。
ミノタウロスの暗赤色の反応が消えた。
(殺ったか)
驚いた顔をしてアレクを見上げるプラトーのもとに降りた。
(よかったみんな無事だ)
ジョーとスミスは怪我をしていたが命に別状はないようだった。プラトーは折れた刀を手にしていたが、怪我はしていなかった。
目の前には少女がいた。
白いドレスを着ていて戦場には似つかわしくない姿だ。
「君、危ないから……」
(いや、違う。こいつは魔物だ。しかも強い)
索敵に点滅していた強く光る暗赤色の反応はこの少女から来ていた。
「気をつけろ、そいつは悪魔だ」
ジョーが叫んだ。
「悪魔?」
「そうだ。伝説の堕天使、ルシファーだ」
アレクは【鑑定】してみた。
『ルシファー、魔王軍の四天王の1人でナンバー2の実力。あらゆる魔法を使える』
(弱点は?)
だがそこから先は文字が化けてしまい判読不能だった。
(四天王の1人か)
「あなたは誰?」
ルシファーがアレクに訊いた。
「アレクだ」
「あら、あなたがアレクなの。神様にでもなったつもり?」
「いや」
「まあ、料理人なのね」
「スキルを読んだのか」
「そうよ。『究極の料理人』って聞いたことが無いスキルね」
アレクは【食料庫】から2本のショートソードを出すと構えた。
「何、それ!」
ルシファーは驚いた表情をした。
「剣だが」
「何でそんなものをあなたもっているのよ!」
「何をそんなに驚いている?」
「あなた自分が何を持っているのか自覚がないの?」
そう言えば、この剣については詳しい説明を精霊神はしてくれなかった。アレクは自分の剣を【鑑定】してみた。
『ハイリガーシュウィアー:究極の聖剣、対魔物で絶大な効果を有する。全魔法無効化、持ち主の体力回復、傷の治療、闇属性の魔物の浄化が可能』
(なんだこれ?)
とてつもなくチートな効果が付与されていた。
アレクはこの剣を持っている状態で、魔法攻撃を受けたり、傷を負わされたことが無いので、魔法無効化や治療効果は体験したことがなかった。
(全魔法無効化って、メイベルがカナルの町で魔物たちと戦った時に赤いロングソードが帯びていた効果か)
試しに剣をルシファーに向けて軽く振ってみた。
そして【鑑定】を再度開いた。
今度は弱点も読めた。
(今のひと振りで、ステイタスの隠蔽魔法も無効化したというのか)
『ルシファー:人形から形成された魔物。体の中心に魔力を貯めるための核がある。弱点は核への物理攻撃を受けること。ただし魔法で常にバリアを張っているため通常は核への物理攻撃は届かない。防御魔法を無効化する必要がある。なお、元が人形なので食用には向かない』
「まさか、そんな……」
ルシファーが顔色を変えた。アレクに鑑定されたことを知ったようで明らかに動揺していた。
「どういうことだ。悪魔がアレクに怯えているぞ」
スミスは驚いた顔をした。
「スミスさん、悪魔なんていませんよ」
「アレク、何を言う。そこにいるじゃないか」
「あれは禁忌とされている魔法と科学技術で人形に魔力を組み込んで魔物に合成したものです」
「なんだと、科学技術?」
「古の禁忌の技術です」
「ど、どうして、お前、そこまで」
「では、ルシファーさん、あなたを料理させていただきます。この剣で魔法のバリアを切り裂いて、中心の核を破壊すればいいんですよね」
「近づかないで!」
ルシファーが魔弾を続けざまにアレクに撃った。
だが、そのすべてをアレクは聖剣で払い落とした。
ルシファーはそのすきに翼を広げると逃げ去った。
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