129 出撃
アレクは豚バラ肉と玉ねぎとニラとにんにくを甘辛く炒めた具をライスの上に盛った。
「はい、スタミナ丼」
スミレに渡した。
「麺の方は?」
「ちょうど茹で上がるところだ。そっちの丼を先に出してくれ」
「はい」
アレクは茹で上がった麺を湯切りして、スープの中に入れると、さっきのスタミナ丼の具を麺の上に盛った。
アレクが考案したこのメニューも好評だった。アメリア共和国で流行っているラウ麺のスタミナバージョンだ。
兵士はガッツリと食べごたえのあるこの料理をとても喜んだ。
スタミナ・ラウ麺を厨房のカウンターに出したところで、突然警鐘が鳴った。
カン、カン、カン、カン
鐘の音が響く。
「いったいなんですか?」
食堂で飯をかき込んでいた兵士たちの手が止まった。
「出撃の合図だ!」
食事をしていた兵士が言った。
「いいか、これは訓練ではない。繰り返す、これは演習ではない。魔王軍の主力部隊が平原に出てきて帝国軍と交戦中だ! 我々の未来はこの一戦にかかっている。各員、自分の持ち場で奮励せよ!」
隊長の声が響いた。
「「「「「出撃だ!」」」」」
兵士が口々に叫んだ。
「アレク、もうここはいいから……」
心配そうな顔でスミレが言った。
「ああ、じゃあ、行ってくる」
「アレク、待って」
エプロンをはずして出てゆこうとすると呼び止められた。
「ご武運を!」
そう言うとスミレはアレクの頬に口づけをした。
「おまじないよ。お願い、無事に帰ってきて」
「ありがとう」
アレクは拳を上げて別れを告げると厨房を出た。
外では慌ただしく兵士たちが駆けていた。
参謀本部のある冒険者ギルトの建物に向かった。
「おう、アレク! いよいよだな」
ジョーだった。
「はい」
「武運をな、アレク」
「ジョーさんも!」
さらに向こうにはバトルアックスを担いだスミスさんもいた。
「スミスさんも出撃するんですか」
「もちろんだ。ミズキのためにも負けてなるものか!」
「そうですね」
「アレク、武運を!」
「スミスさんも武運を!」
スミスと拳を合わせた。
参謀本部に着くと、みんな集まっていた。
カサンドラ将軍がちらりとアレクを見たが何も言わなかった。
「我々も出撃する」
「「「了解!」」」
勇者パーティも国境に向けて進軍を開始した。
周囲は大勢の兵士で溢れていた。
いよいよ命運をかけた決戦の始まりだった。
国境のゲートが見えてきた。
前線から斥候が、カサンドラ将軍の元に駆け戻ってきた。
「現在の状況は?」
「帝国軍と魔王軍が交戦中です」
「魔王軍の数は」
「8千は超えているかと」
「帝国軍の数は?」
「1万の兵士が出ているようです」
「戦況は?」
「魔王軍が押していますが、帝国軍もよく持ちこたえています。魔王軍の数は増えているとのことです」
「よし、全て作戦通りだ」
カサンドラ将軍は満足そうに頷いた。
アレクはパーティの後ろを歩きながらやり取りを見ていた。
(いよいよだな)
アレクは剣の柄をしっかりと握った。
聞けば魔物と人間とでは数では4対1くらいの差がある。しかし、遮るものが何もない平原で正面から当たれば、個々の戦闘能力が高い魔物との消耗戦になり、連合軍側に大きな被害が出るのではないかとアレクは思った。
(地形を活かしてこの国境のゲートの狭い谷で待ち伏せをして、少人数で一列で進んでくる魔物を谷間から囲むようにして個別撃破した方が被害が少なくなるのでは?)
「アレク、どうした。実戦を前にして怖気づいたか」
めずらしいことに勇者エドワードがアレクに話しかけてきた。
「別に怖気づいていません」
「なら、何を不安そうな顔で考え込んでいる」
馬鹿にしたような口調でエドワードが言った。
「どうして兵士の犠牲が多くなるような平原で、魔王軍と正面から戦うつもりなのかについて考えていたんです」
「貴様、何を言う!」
急にエドワードの表情が変わった。
「料理人ごときが司令官の作戦を批判するつもりか!」
作戦を決定しているのは総司令官のカサンドラ将軍とその取り巻きだ。勇者であるエドワードも参謀本部での会議に参加している。だから自分が批判されたとでも思ったのだろうか。
「批判するつもりはありません。ただ、どうしてなのか知りたいだけです」
「お前の仕事は戦略を練ることではない。そのおかしなスキルで戦うことだ。ただ命令に従っていればいい!」
(そうか!)
急に閃いた。
何もない平原に全軍を集めて、魔王軍の大軍をおびき出した理由が分かった気がした。
(多分、僕のスキルのせいだ。エドワードは僕を馬鹿にしているようだが、将軍は、僕がこれまでの転移魔法のゲートから大量に出てきた魔物を短時間で殲滅していることを知っている。だから今回の作戦も平原の魔物を僕のスキルで地中に埋め、火炎で焼き払い、氷結の矢を掃射し、最後に聖剣で舞って残党を殲滅せよということなのか)
「分かりました。命令の通りに戦います!」
アレクは笑顔で答えた。
エドワードは少し引いて、気味悪そうにアレクを見た。
「まあ、分かればいい」
(すごいな数万の兵士を囮にして、僕に魔王軍を殲滅させろと命じるつもりなんだ。それにあのメイベルもいるしな。彼女1人でも雑魚の魔物なら100や200は軽くいけるし、魔道士の支援魔法があれば、1000だって可能かもしれない。要は勇者パーティで魔王軍を殲滅する戦略か。ちゃんと僕のことも見てくれて評価してくれたんだな。将軍のことを少し誤解していた)
作戦の目的を理解したら不安は消えた。
(ジョーさん、プラトーさん、スミスさん、張り切って無理しないでくださいね。すぐに僕が魔物をすべて倒しますから)
心の中で、みんなの無事を祈った。
そうしているうちに国境の谷間を抜けて平原の前線に着いた。
広大な平原は、怒号と地響き、そして魔法の打ち合いの閃光と轟音にあふれていた。
(いよいよだな)
アレクはショートソードを抜くと両手に持った。
いつでも戦える状態だった。
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