12 料理人ギルド入会試験(前編)
(こいつが、アレクか)
グロドスは、上から下までアレクを観察した。グロドスはアレクの料理人ギルドの入会審査の審査委員長だった。
アレクがバルダシムの長男のジャンを救ったという話は別ルートで聞いていた。だからバルダシムの店で修行したというのは嘘で、バルダシムは息子を助けてくれたお礼に推薦したに違いないと思っていた。
だが、それはどうでもいいことだった。縁故でギルドの入会審査を受ける者は他にいくらでもいた。それに縁故で運良くギルドに入ることができても実力がなければ成功を収めることはできない。
グロドスが許せなかったのはアレクのスキルだった。
(『究極の料理人』だと? ふざけるな!)
グロドスは帝国内にステーキの専門店を10店舗展開しており、料理人ギルド帝国支部の理事だが『料理人』のスキル持ちではなかった。グロドスのスキルは『店員』だった。それでも料理人になりたくて、努力だけで今の地位まで這い上がってきたのだ。
それが、今、目の前に立っている若造は『究極の料理人』という聞いたことのない料理人のスキル持ちだ。そもそも『料理人』スキルは、スキル持ちが少ない。ただの『料理人』スキルを持っているだけでもすでに成功が約束されたようなものだった。それが『究極の料理人』だ。奴が料理人ギルドの会員証まで手に入れたらどのようなことになるのか想像がつかなかった。おそらくあっという間に大出世をするだろう。
これは嫉妬なのだと思った。しかし、努力とは無関係に生まれで未来が決まってしまう不条理をグロドスは許すわけにはいかなかった。
(こいつはうまいこと料理界のエリートになれると思っているだろうが甘い。俺は調理場の雑用係や皿洗いから始めて、包丁を持たせてもらえるまで10年間下積みの修行をした。そして自分の店を持つまで血の滲むような努力をしてきた。だが、こいつは数日でその10年間を飛び越えようとしている。そんなことをさせてたまるか!)
グロドスの腹は決まっていた。
(アレクは絶対に落とす)
◆◇◆◇◆◇◆◇
「私ができることはこの場まで君を連れて来ることまでだ。審査では公正を保つために推薦者である私は審査員に加わることはできないし、結果に対しても一切口を挟むことはできない」
審査会場の控室でアレクはバルダシムにそう言われた。
「承知しています。本当にありがとうございます」
「いやいや、お礼を言わなくてはならないのは私の方だ」
控室のドアがノックされた。
「時間です」
「行きたまえ。よい結果を祈っている」
アレクは呼びに来た人に連れられて、会議室のような部屋に入った。
正面に3人の人が座っていた。
「君がアレク君だね」
「はい」
「グロドスだ。審査委員長を務めさせてもらう」
高価そうなスーツを着た中央に座っている恰幅のいい男性が太い声で言った。黒髪の間に白髪がストライプのように入っていた。眉間には深いしわが刻み込まれていた。
「私はジャスミンよ」
右側の女性が言った。長い栗色の髪に緑色の目をしていて、赤いドレスを着ていた。
「自分はケンジです」
白の料理人の服に白い調理人用の帽子をかぶった神経質そうな痩せた男が自己紹介をした。
「この3人で、君の入会審査をする」
「よろしくお願いします」
アレクは頭を下げた。
「では、課題を発表する」
審査委員長のグロドスが重々しい声で言った。
さっきアレクをこの部屋に連れてきた人が白い布を上にかぶせたワゴンを押して来た。
アレクの前にワゴンが置かれた。
「その布を取り給え」
アレクはつばを飲み込んだ。
ワゴンの上の白い布に手をかけると、布を取り払った。
中からは赤い肉の塊と、切り分けられたステーキが載った皿が出てきた。
「審査の課題は、ステーキだ」
グロドスがそう宣言した。
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