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100 獅子王の最後


 アレクは【耕うん】のスキルで魔物たちを地中に吸い込み、火で焼き、風でさらに火炎を(あお)った。


 上空にいるミツメ火炎ガラスはアレクが作りだした渦の風で地上に落ち、大地がそれを吸い込んだ。


 数分の間に魔物の軍団を殲滅(せんめつ)した。


「まさか。こんな……」


 一人残った獅子王が狼狽(ろうばい)したように周囲を見回した。起きたことが信じられないようだった。


「魔女が復活したのか」


 イザベラの遺体を獅子王が見た。だがもう死んでいる。


「もう一人魔女がいるのか?」


「魔女ではない」


「では誰が?」


「僕だ」


「お前だと?」


「ああ」


「嘘をつくな。料理人がこんな魔法を使えるはずない」


「魔法じゃない。スキルだ」


「そんなことありえない」 


 獅子王はアレクと地上に残った軍団の残骸を見比べた。


「なぜ、ワレを生かした」


「お前を最後にとっておいたのさ。これからじっくりと料理してやる」


 アレクは獅子王をにらんだ。


「ほう、それは光栄だな。だがワレが獅子王だということを分かって言っているのだろうな」


「ああ」


「貴様が血反吐を吐いて這いつくばる姿を世界に示してやる」


 そう言うと獅子王は空を見上げた。


 もう魔法による映像は投影されていなかった。


「とっくに中継をしていた魔道士の魔物は死んだぞ」


「チッ」


 獅子王が舌打ちした。


「何故、ワレにこだわる。お前がこれをやったのなら、どうしてワレも一緒に地に飲み込ませて、火炎で焼かなかった?」


「イザベラの仇だからだ」


 獅子王が笑った。


「あれは人間の敵だぞ」


「違う!」


「まさか、お前、あの女のことを……」


「それも違う」


「動揺しているぞ。図星か」


 獅子王は馬鹿にしたように笑った。


「しかも、あれは先代魔王の使い古しだ。あんな女の仇を討つために、お前はワレと直接対決するつもりなのか」


 アレクは怒りで震えながら黙って双刀の包丁を抜いた。


「それがお前の武器か? ワレに包丁で戦うつもりなのか」


 獅子王はあきれたようにため息をついた。


「人間は本当に愚かなものだな。つまらない感情で行動に走る。やはり人間は下等生物だ。下等生物は下等生物らしく、ワレらの食物として大人しくしておればよいのだ」


 そう言うと獅子王は大人の男性の背丈ほどもある長剣を構え直した。


「よかろう。勝負だ」


 アレクも両手の包丁を構えた。


 大地を揺るがし、300体を超える魔物と戦ったが、全く消耗していなかった。


 もし、これが体内のマナを消費するMPで魔術を発動させて戦っていたのなら、もう立っていることもままならないくらい疲労しているだろう。


 だがスキルの力で大地や風や火から無限の力の供給を得ていた。


 先に動いたのは獅子王だった。


 後の先でアレクも反応した。


 カキーン


 獅子王の長剣を包丁でいなした。


 だが、両手がしびれるほどの衝撃だった。


 すかさず、獅子王が横に剣をはらう。


 当たれば真っ二つだ。それに包丁で受けたら折れそうだった。


 とっさにアレクは上に飛んだ。


 間一髪だった。


 獅子王の剣は速く、そして重かった。


 距離をおくと、アレクは氷結の刃を連射した。


 だが獅子王はそのすべてを打ち払った。


「まさか」


 今度はアレクが驚く番だった。


 これまでの魔物はアレクの氷結の刃の連射の前にはなすすべもなく倒れてきた。だが獅子王は平然としている。


 迫りくる刃に対して、体を半身にして、さらす面積を減らし、さらに最小限の動きと最速の剣で打ち払ってしまったのだ。


 今度は氷結の矢を数百発撃った。


 獅子王は矢をギリギリまで引き付けて、当たる瞬間に消えたかのように移動してかわした。


 かわしきれない矢は剣で弾いた。


 アレクは焦った。


(こんなことは初めてだ)


「どうだ。ワレの力が少しは分かったか」


(こうなったら、さっきの魔物たちと同じように【耕うん】のスキルで地中に埋めて倒すしかない)


「耕うん!」


 獅子王の足元の地面が液状化する。


 だが、獅子王はその上を、アメンボウのように歩き迫ってきた。


(液状化して水面のようになった大地の上を歩けるのか!)


 獅子王の剣がアレクの胴を斬り裂く寸前で後ろに飛び去った。


(どうしよう)


 アレクはとりあえず空中に避難した。


「逃げるのか。それもよかろう。だが、お前が逃げるのなら、そこの子供たちはいただいてゆく」


(だめだ。子供たちを守らなくてはならない。空中に浮かんでいるだけでなく獅子王を倒さないと)


 アレクの頭には死ぬ前に走馬灯のように人生を早送りでかえりみるかのように、これまでの武術の修行での教えが、展開した。


(ごう)に対しては(じゅう)、直線の動きには円、小さいものでも数が揃えば大きいものを制圧できる)


 獅子王はまさに剛の剣で、直線的な動きだった。そして大きくて強い。


(柔と円と数の力……)


 アレクは必死で考えた。


 ふと下を見ると教会の裏手には冬将軍の訪れにより落葉(らくよう)した落ち葉が積み上げられていた。


 アレクの頭に戦いのイメージが閃いた。


 風をおこした。


 竜巻のような螺旋(らせん)の円を巻く風の塔だ。


 それに落ち葉を吸わせた。


 落ち葉が螺旋の風の塔の中で荒れ狂うように舞う。


 その風の塔を移動させて獅子王を塔の中心にした。


 アレクは風にどこまでも獅子王に影のように張り付くように念じた。


 それは成功した。


 獅子王が飛んでも、跳ねても、獅子王の周りには落ち葉が舞って離れなかった。


「くそう、なんだこれは、目が」


 目を開ければ、獅子王を中心に吹き荒れる葉の刃が目を斬ろうとする。だが、落ち葉は柔らかい、刀で払っても張り付き、2つに斬っても、今度は2枚で飛ぶ。


 獅子王は何千、何万という落ち葉の乱舞の渦に巻き込まれて立ち往生をした。


(よし、今だ!)


 アレクは獅子王の懐に飛び込み腕の腱を斬った。


 腕の腱を一つ切れば勝負は決したも同然だった。


 そこからはただの作業だった。


 【屠殺】


 【解体】


 みるみるうちに巨大な肉塊が積み重なり獅子王はただの食材に成り果てた。







【作者からのお願い】


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