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99 ライザの覚悟


「隊長、あれを見て下さい」


 もうすぐ孤児院に到着しようとしている時だった。ハルトが夕暮れの空を指差した。


 空に映像が浮かび、目指している孤児院が映っていた。


「トニオ!」


 孤児院のトニオの姿が映る。その横には獅子王がいた。


「獅子王だ!」


 ハルトが(うめ)く。


 獅子王の後ろには数百の魔物の軍勢がひしめいている。


 そして信じられないことに孤児院の子供たちを魔王に献上すると言い出した。


「そんなことはさせない」


 ライザは拍車をかけた。


 獅子王は芝居がかった口調で帝国軍は助けに来ない、子供たちを見捨てたとまで言った。


(許さない)


「「「隊長」」」


 隊員たちの馬が並走した。


「隊長が指揮を取って下さい」


 ライザは今はアレクをスカウトするという特別任務中で隊長でない。だが魔物討伐隊の隊員はかっての帝国特務調査隊第一班のメンバーだった。


「よし」


「やったぞ。帝国特務調査隊第一班の復活だ!」


「「「これで心置きなく死ねる」」」


「お前たち……」


「隊長、あの魔物の戦力に対して、我々は数十騎です。総力戦では到底勝ち目はありません。しかし、我々の命に代えて、子供たちは助けます」


「ありがとう」


 ライザは目頭が熱くなった。


 帝国特務調査隊として数々の魔物を征伐してきた。しかし、それらは70年前の大戦の生き残りの『はぐれ魔物』だった。


 出現しても1体か、せいぜい2体。武装はしておらず、魔法を使える魔物はめったにいなかった。


 昆虫型の雑兵の生き残りだった。


 それですら強敵で1体倒すには10名がかりでやっとだった。


 夜空に浮かんでいる映像には、完全武装し、空を飛ぶ魔物や魔道士の魔物などを従えた精鋭の兵士の魔物が数百体はいた。


 獅子王を倒すには、おそらく一個師団は必要かもしれない。


 戦力差は歴然だった。


 だが、ここで引くわけにはいかなかった。


 しかも、敵は夜空に映像を映し、助けが来ないことを宣伝している。心理的効果を狙っているに違いない。


 帝国軍兵士の誇りがある。このままやりたいようにはさせない。


「命を預けてくれるか」


「「「「「もちろんです」」」」」


(私を信頼してくれている部下がいる。そして助けを待っているのは私の家族である子供たちだ)


 ライザはここを死に場所としても後悔はなかった。


 ただ一つだけ悔いがあるとすれば、アレクに会うことができないまま死ぬことだった。


 すると空にアレクの姿が大きく映った。


「アレク……」


 アレクは魔女と戦わされるようだった。


「急げ!」


 もう町の輪郭と明かりが見えてきた。


 映像を見なくても魔女が放った火炎鳥が上空を舞っているのが前方に見えた。


(もうすぐよ。アレク、お願い死なないで)


 だが、驚くことに魔女が魔物の軍勢を攻撃し始めた。


 そして、ライザが着くまえに獅子王に魔女は殺されてしまった。


 今度は空にアレクに逃げろと薦める人たちが映し出された。


 ライザも会ったことがある人ばかりだ。


 炭坑の現場監督、アオ百合の歌手、イブレスカのギルド長などだ。


 皆、口々にアレクに逃げるように説得した。


 獅子王はアレクが魔王の料理人になれば命を助けてやると提案したが、アレクは即答で断った。


 獅子王は誰も助けには来ないことを強調していた。


 ライザは怒りで眼の前が真っ白になった。


(待っていなさい。今、行くわよ)


 そして、ライザは獅子王の前に立った。


 映像で見るより現物の獅子王は大きかった。


 そしてその背後には数百の魔物が武器を持って整列していた。


 魔道士や弓兵もいる。


 上空にはミツメ火炎ガラスが旋回していた。


 勢いよく名乗りを上げて乗り込んだが、客観的に見て勝てる相手ではなかった。


(せめて子供たちだけでも助かれば……)


 ライザは剣を獅子王に向けた。


「ライザさん?」


 アレクがライザの顔を見て声をかけてきた。


「これまでごめんなさい」


 ゆっくり話す時間はなかった。そして次の機会もない。この戦いが終わる頃には自分は生きていないのだから謝るなら今しかないとライザは思った。


「ごめんって?」


「あなたを魔物扱いして追い回したことよ」


「ああ、そんなこともありましたね」


 アレクが懐かしそうに言った。


 こんな状況なのに落ち着いているアレクになんだか調子が狂いそうだった。


「アレク、子供たちのことをお願い。私達が魔物を足止めするから子供たちを連れて逃げて」


「それはできません」


 急にアレクの口調が変わった。


「どうして」


「奴はイザベラを殺した」


「でも、あなたでは仇を討つのは無理よ」


「無理ですか?」


「ええ、いくら特殊な能力があっても、相手は魔王軍の将軍と訓練された軍隊よ」


「ライザさんなら倒せるのですか?」


 言葉に詰まった。


「あなたたちが逃げる間の時間稼ぎくらいならできるわ」


「ここで死ぬつもりですね」


「いいから、民間人は引っ込んでいなさい! 早く子供たちを連れて避難して」


「できません」


「オイ、何グダグダ話をしている?」


「奴ら来ますよ。危ないですから下がっていて」


「それは私のセリフよ。えっ、何、きゃあああああ」


 突然、地震が起きた。


 足元の大地が歪み、立っていられなくなった。


 土煙が立ち、地響きがする。


「何? 何が起きたの」


 上空の映像が消えた。


 辺りが急に暗くなる。


 悲鳴やうめき声が響き渡る。


 ライザは振り返って子供たちが無事なのか確かめた。


 ファーザーを中心にみんな抱き合ってしゃがんでいた。


(とりあえずは無事ね。よかった。それにしても大地震が起きたのかしら?)


 すると、前方から火の手があがった。


 後ろから突風が吹いてきて火炎の柱が上がる。


 竜巻が起こり、上空のミツメ火炎ガラスがきりもみ状態で落下した。落下した先は火炎の海だ。


 教会の説教で聞く地獄絵図そのものが眼前に広がった。


 周りを見回すが、ライザの部下の隊員は地面に放り出されるようにして尻もちをついているが皆無事だった。


 魔物たちは地中に埋まり火炎に焼かれていた。


 アレクを見た。


 厳しい表情で前をにらんでいた。


 両手をまえにかざし詠唱を唱えているのか、なにか小声でつぶやいていた。


(まさか、これをアレクがやっているの?)


 ライザはアレクの横顔を見ながら呆然としていた。






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