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ハズレスキル【究極の料理人】を引き公爵家を追放されたが、それは最強スキルだった。  作者: サエキ タケヒコ
第1章 出立(王国と帝国)
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9 ジャンの父のお礼


「アレクさん、こちらです」


 男が案内したのは立派なお屋敷だった。


「旦那様、お連れしました」


 男が玄関の前で言った。


 すると両開きの大きな扉が開いた。


「アレク様、お待ちしておりました」


 その服装と物腰からこの屋敷の執事だと、貴族の家で育ったアレクは判断した。


「こちらへどうぞ」


 執事に先導されて奥の部屋に行った。


「ご主人様、アレク様がいらっしゃいました」


 両脇に引き出しがついた重厚な書もの机に座っていた大柄な男が席から立ち上がった。


「君がアレク君か」


 男は満面の笑みを浮かべて、右手を差し出した。


 アレクも手を出すと、しっかりと握りしめられた。


 分厚い掌だった。


「まあ、そこに座ってくれ」


 部屋の中央にある応接セットの長椅子を男は示した。


「私は、ジャンの父のバルダシムだ」


「アレクです」


「この度は、息子の命を救ってくれて本当にありがとう」


「いえ、命を救ったなんて、私は何もしていません。それよりジャンは元気ですか」


「ああ、元気だとも、おかげで怪我一つしていない。だが、君が後を追って、気を失っていたジャンを救い出してくれなければ、あの場で殺されていたかもしれない」


 アレクは返す言葉がなくて黙った。


「なんでも魔物同士が派手に戦ったらしいじゃないか」


「魔物同士?」


「ああ、現場にはものすごい魔法を使った跡が残っているそうだが、そんな魔法を使える魔道士はいなかった。だから、同士討ちだったのではないかと噂になっている」


(僕がやったあれが、魔物がしたことになっているのか……。それにあれは魔法ではないのに……)


「いずれにせよ、70年前に封印されたはずの魔物が復活したのは恐ろしいことだ」


「そうですね」


「ところで、アレク君に来ていただいたのはお礼をしたいからだ」


「お礼?」


「当たり前だ。息子の命を救ってくれたのだから」


「そのお気持ちだけで十分です」


「そういうわけにはいかない。私にできることなら何でも言ってくれ。失礼でなければ謝礼を払う用意もある」


「そのう、バルダシムさんは何をしてらっしゃる方ですか」


「どうしてそんなことを訊くのかな」


「失礼だったのならお詫びします」


「いや別に構わないよ。私は料理人でレストランを経営している。料理人ギルドの帝国支部の理事長もしている」


「ギルドの理事長!」


「驚いたかね」


「はい」


「君は素直だね」


 バルダシムが微笑んだ。


「料理人ギルドは世界にまたがる大組織と聞いています。その理事長ということは、帝国料理界の文字通りトップということですね」


「ははははは。否定はしないよ」


「なら、どうしてジャンは屋台でバイトをしていたのですか」


 バルシムが破顔した。


「まさか、屋台でバイトをしていたから、君はジャンのことを貧乏人の倅だと思ったのかい?」


 アレクは耳を赤くしてうつむいた。


「君はいい人だね。それを聞いて安心したよ。つまり君は金持ちの息子だからお礼がもらえると思ってジャンのことを助けたのではなく、屋台で生活費を稼いでいる貧乏人だと思っていたのに命がけでジャンのことを助けてくれたのだね」


「そんなつもりでは……」


「気に入ったよ。ジャンが屋台で働いていたのは将来のための修行だ。実際に自分の作った料理を客に食べてもらい、その反応を知ることほどよい修練はないからね。それよりも、何でも君のお願いをきいてあげるから言ってごらんなさい」


(料理人ギルドの理事長ということなら、僕を料理人ギルドの会員にしてもらえないかな。そうすれば、これからは、どこに行っても料理人としてすぐに働くことができる)


「あのう、ではお言葉に甘えて、一つお願いをしてもいいでしょうか」


「ああ、何でもいいよ」


「僕を料理人ギルドの会員にしてもらえませんか」


 ずっと笑顔だったバルダシムの顔が曇った。


「どういうことだ」


 アレクは自分が『料理人』のスキル持ちであること、だが料理人として働いた経験が無いので、料理店で雇ってもらえないが、ギルドの会員になれば就職ができるので会員になりたいということを説明した。


「君はどうして家を出たのかね。別に地元の認定店で皿洗いからでも始めればいいじゃないか。実家に住んでいれば家賃もかからないだろう」


 さすがに王国の公爵家の長男だとは言えなかったので、父は剣術師範で道場を継がせようと思っていたところ、剣士のスキルではなく料理人のスキルだったので、家を追い出されたので自活することになった。早く一人前の料理人として働きたいのだと説明した。


「君のことを疑うわけではないが、後でスキルの確認をさせてもらうよ。それと、いくら息子の命の恩人でも、おいそれとギルドの会員にするわけにはいかない。料理人ギルドの信用と伝統は特別なものだ。理事長であっても私の一存では決められない」


「すみません。無理だったんですね」


 アレクは席を立とうとした。


「待ちなさい。私の一存でここで君をすぐに会員にすることはできないが、君が会員になる道筋をつけることはできる」


「どういうことですか?」


「会員になるには、一定期間ギルドの認定店で修行を積み、正規の会員の推薦を得て、試験を受けてそれに合格しないとならない。そのことは知っているね」


「はい」


「修行の認定と推薦を私がしよう」


「えっ!?」


「私の店は認定店だ。私の店で修行を積んだことにして、私が君を推薦する。そうすれば君はギルドの入会審査の試験を受けることができる。ただし、私がやれることはそこまでだ。試験は君が自力で突破しなければならない」


「試験はどんなことをやるんですか」


「課題の料理を作り、それを三人の審査員が審査する。三人のうち二人以上が合格を出したら、会員になれる。ただし、推薦者は審査員にはなれないので、君は実力で舌の肥えた一流の料理人たちを唸らせるような料理を出さないといけない。それでもよければ、私は君を推薦しよう」


「やります」


「よし、では手配しょう」







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