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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

病ンデル童話選

病ンデル童話選【ヘンゼルとグレーテル】

作者: イトウアユム

グロ・サイコ・殺人・厨二病要素満載ですのでご注意。

僕の名前はヘンゼル。

妹の名前はグレーテル。

本当のお母さんはとっくの昔に死んでしまって、今の母親は最近父さんが連れて来た。


父さんはまるで、今の母親の・・・あの女の奴隷だ。

だから僕は意地悪な継母から可愛い妹を守らなければいけない。

そしてお父さんの目を覚まさせなければならない。


でも・・・父さんは僕達を裏切ったんだ。

「あいつには俺にしかいないんだ。ヘンゼル、おまえも男なら・・・いつかは分かるよ」

そう力無く笑って・・・あの女の言いつけ通りに、僕達を深くて暗い魔女の森に捨てた。


「もう私達、おしまいね」

月すらも無い、暗闇の中。

狼の遠吠えに震えながら泣きじゃくるグレーテルを僕は抱きしめる。

「心配しないで、グレーテル。すぐになんとかする方法を見つけるよ」

「でも、これからどうやって森を出るの?」

「大丈夫。神様は僕たちを見捨てたりはしないさ」

僕達は抱き合って眠り、そして祈った。


ああ、神様。

貴方が本当にいるのならば・・・どうか、僕達を助けてください。

せめて僕の大切な妹だけでも助けてください。

猟師か、騎士様か、それとも優しい夫婦か・・・誰でも良い。

どうか哀れな僕達に助けの手を差し伸べてください。


けれども何日経っても、誰も・・・僕達の前に現れなかった。

空腹と疲労と絶望で死にそうになった、そんな時。

ふらふらになりながらあるき続けた僕達の前に飛び込んできたのは――小さな家。


「・・・なんて美味しそうなおうちなのかしら!」

その家は普通の家じゃなかった。

屋根はパン、壁はケーキ、煉瓦はクッキー。

そして、窓は飴細工の――お菓子の家だった。


「ああ・・・我慢できないっ!」

パンの屋根を一口頬張ると僕は叫んだ。

「・・・おいしい! グレーテル、お前は窓を食べてごらん、すごく甘いよ」

「本当だわ! ほっぺがとろけて落ちちゃいそう・・・」

必死に手を伸ばして屋根を食べ、グレーテルは窓にかがんでガラスをかじる。

僕達は家の中から女が現れた事に気付かないくらい、目の前のお菓子に夢中だった。


「・・・おや、あんた達、どうしてここに来たんだい? さあさ、お入り、私の家においで」

女は僕達の手をとり、小さな家の中に案内する。


まず僕達の目に飛び込んできたのは、ミルクと砂糖がたっぷりかかったパンケーキ。

香りの良い葡萄酒に果物や木の実、鳥の丸焼き・・・見た事のも無いご馳走の数々がテーブルの上に並んでいた。

「可哀想に、お腹が空いただろう。好きなだけお食べ」

そして清潔できれいな白いシーツでおおわれた可愛い2つのベッド。

僕とグレーテルは天国にいる気分だった・・・この時までは。


女の正体は性悪な魔女だったのだ。

森の奥ににお菓子の家を建て、僕達の様な捨てられた子供たちを誘い、そして・・・。

その子供を「食べる」恐ろしい魔女。


「・・・ああ・・・美味しい。おまえのような、若い子は・・・私の素敵なご馳走だよ」

魔女は赤い唇を舐めるとそう言って僕の体に舌を這わせた。

そして僕を飽きるまで・・・貪り食べる。

「・・・くっ・・・ん・・・」

「・・・なあに大丈夫、そのうちに慣れてくるさ・・・」

魔女は思う存分僕を味わうと、部屋に閉じ込め、カギを掛けた。


「ヘンゼルは私のものだ・・・残念だね、グレーテル」

「・・・。」


扉の向こうで魔女の意地悪い笑い声が響く。

けれども、グレーテルの声は聞こえなかった。


それから毎晩、魔女は鍵の掛かった僕の部屋を訪れた。

そして、僕の指を、顔を、全身を・・・満足するまで美味しそうに食べるんだ。

頭のてっぺんから、足の先まで全て余すところなく、全部。


だけど、ある日。

「ヘンゼルっ! 私達、助かったわ!」

勢い良く部屋の扉が開く。

すると息を弾ませ、頬をバラ色に染めたグレーテルが部屋に飛び込んできた。


「助かった、って?」

グレーテルは興奮しながら僕の手を握り締める。

「魔女をかまどの中に押して、鉄の戸を締めて、かんぬきをかけて・・・火をくべたのよ!」

火を・・・くべた?

僕はグレーテルの言葉が理解出来なかった。

「魔女はとても恐ろしい叫び声をあげたわ。そして・・・かまどの中でみじめに焼け死んだ!」

「焼け・・・死んだ? グレーテルが、殺したのか?」

「ええ、そうよ! ・・・ふふ、いい気味だわ。お兄ちゃんを独り占めしようとした罰よ!」

魔女を殺した事を誇らしげに語り、僕に抱き付き、歓喜のキスをするグレーテル。

そこには泣き虫で気が弱くて恥ずかしがり屋の・・・。

かつての僕の可愛い妹の面影はどこにもなかった。


――彼女は、本当にグレーテルなのだろうか?


「・・・とにかく。魔女が死んだのなら・・・それなら・・・帰らなくちゃ」

「帰る? どこへ?」

僕の言葉にグレーテルは不思議そうに首を傾げる。

「決まっているだろ。魔女の森を抜けて、僕達の家に・・・」

僕の言葉にグレーテルはおかしそうに笑う。

「何を言っているの、お兄ちゃん。ここが、私達の家よ――私とヘンゼルの、ふたりだけの家」


その時。

僕は、気付いてしまったんだ。


グレーテルの僕を見る目が、魔女の目と同じ事を。

そして、僕は――もう一人の新しい魔女に魅入られてしまったことを。



「あいつには俺にしかいないんだ。ヘンゼル、おまえも男なら・・・いつかは分かるよ」


ああ、そうだね。

僕もお父さんと同じだ。

僕も・・・もう、「魔女」から逃げられない。


暗くて深い魔女の森。

僕達はこの森を抜けられなかった。

僕達は・・・お菓子の家の甘い蜜に溺れて身動きが取れないまま、死んでいく。

こうして僕は魔女と共に、この森で朽ち果てていく。

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