2.【賭け試合】 前座
試合の相手は槍の扱いでは討伐軍の五指に入ると言われているヘーゼだった。
本来ならどこかの部隊長になっているはずなのだが、自ら希望してここの部隊にいる変わり者。
ついてない、とネセルは思った。
こんな大物が相手なら勝つことは無理に等しい。
勿論そう簡単にやられるわけにはいかない。
ネセルの得物は日二本の細くて軽い剣。
相手に近づいて、スピードを活かして死角から攻撃するのが得意だ。
一方、ヘーゼは槍であるために、ある程度の間合いを取らなくてはいけない。
つまり、ヘーゼの懐に入ればネセルの勝ちなのだ。
といっても、そう簡単にいくような相手ならどれほど嬉しいことか…。
「おいっネセル」
そんなことを考えていると、急にヘーゼがネセルに話しかけてきた。
「どうかしましたか?」
同じ身分とはいえヘーゼは名が知れている兵士なので、ネセルは敬語で答えた。
「おいおい、敬語は止めようぜ。俺たちは『名付き』同士だろ?」
『名付き』とは二つ名を持つ兵士のことである。
例えばヘーゼの二つ名は『神速』だ。
『名付き』は数えるほどしかいなく、それ故に周りの兵士から一目置かれる存在なのだ。
唯一、ネセルを除けば…。
「大体、俺の二つ名はどちらかというと不名誉というか…」
「細かいこと言うなって。それに俺はお前のことを一目置いているんだぜ?」
それはまた期待しすぎもいいところだ、とネセルは内心苦笑した。
「…あのー、もうそろそろ試合を始めてもいいですか?」
近くにいた審判役らしき兵士が遠慮がちにそう言った。
「おっと! すっかり忘れちまってた」
ガッハッハと豪快に笑いながら訓練用の木製の槍を手に取り一定の間合いを取るヘーゼ。
それを見てネセルは何だかとても疲れが出てきてしまい、大きく溜息をついた。
「えーそれでは『悪運』ネセルと『神速』ヘーゼの試合を始めます。……ヨーイ、ドンッ!」
何とも締まりのない微妙な掛け声とともに試合は始まった。
つーかそれ運動会で使うやつだろーが。
朝起きて雨だったらとても嫌な気分になりますよね。