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序章 零話   伝承の古事

 ──教暦1363年 ルシフェール皇国 魔戒門


 「主祭神よ、我が愚行を許したまえ。其方より賜りしこの身を闇へ堕とすことを聞き届けたまえ。」


 一人の聖騎士(パラディン)が、洞窟の深い闇のなか、その門の前で剣を置いて跪き、何かをぶつぶつと呟いている。門は不気味なオーラを放ちながら、彼の前に佇む。


 「──そして魔界神グラム、魔界を統べるものよ。我が内に秘めたる闇を呼び起こし、其方の力の糧とするのだ。」


 不意に聖騎士は立ち上がると、光剣を取り、自ら胸に突き刺した。ゴポッと血の塊を吐き出し、勢いよく光剣を引き抜いてまた血を吐き出した。

 

 「わ、我がs…心臓を、我がg、我が命の器をs、其方に捧げる。s、そのち、力で世界を統治する王とt、なるのだ。」


 門は描かれた四つの魔法陣から聖騎士の邪悪なエネルギーを吸い取った。聖騎士は朦朧とした意識の中、門に向かって何度もその言葉を呟いた。血が全身から吹き出し、彼の体が言葉ひとつ発するのにも困難なほどになると、門は一言呟いた。


 「闇が足りない。悪が足りない。お前はまだ未熟だ。」


 聖騎士は激痛により意識がなくなりかけていた。


 「俺はど、どうすればいい」


 門は聖騎士の無様な姿を嘲笑い、一つ提案した。


 「お前のその身体を我に差し出すのだ。さすればお前の望みの通り、この門を開き、我が永久にこの世を支配してやろう。」


 聖騎士は躊躇した。──しかし今の世界は腐っている。新しい世を作るにはこの方法しかない。


 聖騎士は門…魔神と契約をした。


 彼は聖神との契約を侵してしまったのだ。──それはもはや聖騎士ではない。


 魔神は門から歪んだエネルギーを放出し、騎士は代償としてさらなる強い痛みを与えられた。悶え苦しみ、血を吐き泡を吐き、目は赤く染まり、身体中に電紋が現れた。全てのエネルギーが現れた“奴“は、しばらく俯くと、立ち上がって拳を振り上げた。四つの魔法陣は強く赤の光を放ち、三つの鍵が開けられ、門が開く。

 向こうには大量の魔物がいる。奴はその一団に向かってこう言い放った。


 「世が魔界神、グラム・ドウェルークである。」


 魔物群は一斉に雄叫びをあげ、魔界神は大群を引き連れて洞窟を出るのであった。
















 「──これが長い間、家に伝わってきた話よ。」


 母親の長くてグロテスクな話に、少年は絶句する。


 「その聖騎士さんは、なんで魔神と契約をしたの?」


 母親はしばらく黙りこんだ。


 「わからないわ。だってもう、これは四百年も前の話だもの。 ──だけど、一つだけわかることがある。今の世の中がこうなってしまったのは、間違いなくその魔神のせいなのよ。」


 ──この話をした数日後、母親は父親と戦地へ旅立っていった。


 


 


 

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