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「いったいどういうつもりなのか、説明してもらおうか」


 仁王立ちしたレグルス王子は、表情だけは優しく取り繕っているが不機嫌を隠しきれていなかった。私は困ったふりをして、眉根を寄せて小首を傾げた。


「何のことでしょうか、殿下」

「ミモザのことだ。毎日連れ回して、酷い目にあわせているそうだな」

「連れ回してはおりますが、酷い目になどあわせておりませんわ」

「ミモザがそう言っていたのだ。ミリアリア嬢に危険なことをさせられていると」


 私は大袈裟に溜息を吐いてみせた。


 放課後レグルス王子に呼び出され、私とアーク兄様は学園の裏庭に来ていた。以前に攻略対象の4人が愚痴っていた場所である。ここは人通りが少ないので、大勢の前で私を断罪したい訳ではなさそうだ。食堂でデネボラ様を糾弾しようとした時は、私に言いくるめられて失敗したので、慎重になっているのかもしれない。


「見解の相違ですわ。ミモザ嬢のために武術や魔法の訓練はしておりますが、きちんと安全に配慮しております。いつもアーク兄様が一緒ですし」


 私は振り返ると、斜め後ろにいたアーク兄様を仰ぎ見た。兄様は頷いて、私の援護をしてくれた。


「ミモザ嬢が怪我などしないよう、細心の注意を払っております。現に今まで、ミモザ嬢が怪我をしたことはなかったはずですが」

「しかし、聞くところによると先日は水を掛けられたとか。訓練と言うより嫌がらせに思えるのだが」


 それは改造したミモザちゃんの制服の、性能テストをした時のことだろう。乾燥機能と温度調節機能がうまく働かなくて、何度かミモザちゃんに水を掛けて動作確認し、魔術付与の術式を組み直した。ミモザちゃんも文句を言いつつ協力してくれたのだが、その辺りの説明はしなかったのだろうか。

 ミモザちゃんに是非問い質したいところだが、今は補習授業を受けているはずで、この場に居ない。代わりにアーク兄様が性能テストについて説明してくれた。


「そうか。だが……」


 レグルス王子はまだ文句があるらしい。いったい何が不満なんだ。


「いくらミモザのためとはいえ、こう毎日訓練に連れ回さずとも……。多少は休みも必要だと思うのだが」

「その辺りも考えております。訓練後には回復魔法を掛けておりますし、各種ポーションもふんだんに使っておりますのでご心配なく」

「それにいつもお前達といるせいで、ミモザには友人が少ない。もっと他の者とも交流を持つべきだと……」


 ミモザちゃんに友達が少ないのは、レグルス王子達のせいだと思うけどね。

 私がミモザちゃんに構いだす前から、ミモザちゃんには友達が居なかった。やたらと王子や高位貴族の子息に馴れ馴れしく、王子達の前ではこれでもかとネコを被っている女に、同性の友達が出来るはずがない。常に王子達が周りを固めていたから、異性の友達も出来にくい。

 王子達攻略対象の4人は私とミモザちゃんより2学年上なので、授業や行事で一緒になることはなく、ハッキリ言ってクラスでミモザちゃんは浮いている。私がたまに被る選択授業でミモザちゃんに話しかけると、学園長から問題児を押し付けられて可哀想なミリアリア様、という目で見られるくらいだ。


 だが、まあ、レグルス王子の言いたいことは分かった。要するに、問題は私ではなくアーク兄様なのだ。


「ご心配なさらずとも、ミモザ嬢は殿下と御一緒出来れば幸せだと思いますわ」

「……そうだろうか」

「ええ。私や兄と過ごしているのは、あくまで成績向上のために仕方なくですもの。その証拠に、ミモザ嬢はいつも殿下のことを誉めておりますわ」


 レグルス王子の機嫌は少しだけ上向いたようだ。青い瞳の冷たさが緩む。


「私や兄など、お優しい殿下と比べて貴方たちは優しさが足りない、などと言われておりますのよ」


 実際には、王子はチョロいのにアンタ達は鬼か悪魔だとか言われているが、オブラートに包んでみた。この世界には鬼も悪魔も居ないし。


 王子はすっかり機嫌が直ったようで、頬を弛めている。ミモザちゃんの言うとおりレグルス王子はチョロいのかもしれない。しかしミモザちゃんが考えているチョロさとは少し違うと私は知っている。


 王子はアーク兄様が抜け駆けして、ミモザちゃんと親しくなっていないか確認したかったのだろう。そこにミモザちゃんへの恋情があり、アーク兄様への嫉妬があるなら微笑ましいものだが、レグルス王子が気にしているのは全く別のことだ。自分が聖剣の騎士に選ばれるよう、ミモザちゃんの信頼が得られているかが重要なのだ。

 レグルス王子の信頼はないのに、自分の都合だけで一方的な好意を求めている。


 王子への不快感を令嬢の仮面で覆い隠しながら、私はあるゲームイベントを思い出した。

 あれもその類のイベントだったのではないだろうか。時期はもうすぐ、週末の建国祭の休日だったはずだ。


「殿下。私、ミモザ嬢の言うとおり、殿下のお優しさを見習おうと思います」


 私はレグルス王子に提案した。


「この週末の訓練はお休みにいたしますわ。ですから殿下、ミモザ嬢と建国祭に参加されては如何でしょう」

「それはいいな。午前中は城の式典に出なくてはならないが、午後には時間がある。ミモザ嬢を連れて城下の屋台でも周ってみるか」


 案の定、王子は提案に乗ってきた。これはイベントフラグが立ったのではなかろうか。


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