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 ミモザちゃんはやっぱり、やれば出来る子でした。


 私達の目の前には今、ワイルドボアの屍体が4体。アーク兄様が2体、ミモザちゃんと私が1体ずつ。

 ミモザちゃんはヘロヘロになりながらもワイルドボアの突進から逃げきった。最後はミモザちゃんが崖際で身を躱し、止まることも方向転換も出来なかったワイルドボアが崖に激突して昏倒。ちょっと不恰好だが、ミモザちゃんはなんとか初の魔物討伐をやり遂げた。


「‥‥‥死ぬかと思った‥‥‥」


 珍しくミモザちゃんが静かだ。いつもこの位のテンションなら良いのに。


「お疲れ様でした。初めてにしては、まあ、及第点ですわね」

「ミモザ嬢は意外と非力なんだな」


 武器無しでは辛いだろうと、アーク兄様は自分の短剣を投げ渡したのだが、ミモザちゃんは構えることすら出来なかったのだ。


「貴族令嬢が武器なんか使えるわけないでしょ」

「ミモザ嬢は元平民だと聞いたが」


 召喚元の日本では貴族制度はないから、間違ってはいない。


「平民でも普通女の子が武器なんか使えるわけないわよ」

「リアは使えるが?」


 アーク兄様は心底不思議そうだが、ここはミモザちゃんの認識が正しい。アーク兄様はゲームと違って脳筋ではないが、武力特化の自分基準で物事を判断するのはダメだと思う。


「逆になんでアンタは使えるのよ!」

「私は子どもの頃から兄様と鍛錬しているから、一通りの武器は使えます」

「ここでもよくデートしてるしね」

「こんなのデートじゃないわよ!」


 だんだんミモザちゃんの調子が戻ってきた。まだ余裕があるみたいだから、もう一狩り位行っときたいところだが、日が沈んで暗くなり始めている。夜は森の魔物が格段に強くなるから、さすがにミモザちゃんにはキツイだろう。


 仕方なく私は二狩り目を諦めて、撤収作業を開始した。まずはワイルドボアを腕輪に収納。


「何それ、どーなってんの!?」

「え、ごく普通の収納つき腕輪でしょう」

「そんなの見たことないわよ!」


 おかしいな、ゲームでも大容量の収納カバンとかあったはずだけど。大容量カバンの空間拡張魔術を解析して腕輪に転用しただけで、特別な物ではないんだけど。


「兄上がリアのために作った特別製だからな」

「アンタ達のお兄さんってチートなの?」


 ミモザちゃんが疑いの目を向けてくる。


「チートが何かは分かりませんが、私達の長兄は天才です」


 私が転生者だってことは、ミモザちゃんにも教える気はない。

 ワイルドボアを全て腕輪に収納すると、私は崖下の草花を幾つか摘み取った。今日の目当てはこの花の蜜と、もう一つ。垂直に切り立った崖を見上げると、日没の残り日に照らされる、もう一つの素材を見つけた。


「兄様、あれが欲しいのだけど」


 私が指差す先に目を凝らし、目的の物を探すアーク兄様。直ぐに見つけたらしく、微かに笑むと崖に手を掛けた。


「わかった。あれは任せて、リアは先に戻ってろ」


 スルスルと崖を登ってゆく兄様を、ミモザちゃんが唖然として見送る。


「非常識過ぎる‥‥‥」

「兄様はスゴイでしょう。さすがに私も命綱無しではこの崖を登れませんもの」

「いや、命綱あったってこんな崖登れないから!」

「あら、これから貴女もここを登るのですわよ」

「何言ってんの?そんなの無理に決まってんでしょ!」

「ではここで野宿しますか?私は帰りますけど」


 私は崖に垂らしたロープを掴む。崖の上に停めた馬車に繋がれていて、スイッチを押すとロープが巻き上がる優れものだ。


「ちょっ、待って、置いて行かないで!!」


 ミモザちゃんが必死の形相で私に抱きついたので、もう1本のロープを渡してあげた。

 ロープはゆっくりと巻き上がってゆく。この崖はかなりの高さがあるので、上に着くまでロープにしがみついているのも大変なのだ。

 腕力のないミモザちゃんは、腕の筋肉をプルプルさせながら懸命にしがみついている。下を見るのも怖いようで、ひたすら岩肌を睨みつけ、泣きそうな顔で唇を噛んでいる。

 やっと崖の上に辿り着いた時には、ミモザちゃんは腰が抜けて立てなくなっていた。


「大丈夫ですの?」

「‥‥‥これが大丈夫に見えるなら、アンタの目はどうかしてるわよ‥‥‥」


 反論する元気があるなら大丈夫だ。すぐにアーク兄様が追いついてきて、崖の上にヒョイと身体を引き上げた。


「リア、これで良かった?」

「うん、ありがとう兄様!さすが兄様は凄いね」


 私に誉められ、エヘヘと照れ笑いするアーク兄様。ミモザちゃんが今日一番びっくりした顔で固まっている。


「え‥‥‥誰これ?」

「ウチのアーク兄様ですが」

「いや、アークは笑わないでしょ」

「兄様だって笑うことぐらいあります。人間ですもの、当然でしょう」


 ゲームのアークは主人公と恋人になるまで無表情だった。この世界のアーク兄様も無口無表情がデフォルトだが、ゲームのキャラクターじゃないんだから、笑うことも怒ることも、泣くことだってある。


「そうね‥‥‥ごめんなさい」


 ミモザちゃんは兄様を攻略キャラとしてしか見ていなかったのだろうが、ゲームのアークとアーク兄様は別人だ。それを分かってくれただけでも、今日ここに来たかいがあった。


「さ、夜にならないうちに帰りましょう。兄様、ミモザ嬢を馬車まで運んであげて」


 アーク兄様は頷いて、ミモザちゃんを運んでくれた。今度こそお姫様抱っこをと思ったけど、やっぱり荷物のような運搬方法だったのは、まぁ、仕方ないよね。


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