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 私が友人とランチを食べていると、食堂の入り口あたりが何やら騒がしくなった。

 すぐに人垣が割れ、目立つ集団が現れる。レグルス王子を先頭に、リゲル、シリウス、少し離れて兄のアーク。王子と高位の貴族子息達、この学園でも屈指のイケメン4人が揃ってやって来るさまは圧巻だ。

 そして、4人に護られるように囲まれている、桃色髪の少女。地毛がピンクとか、この世界でも彼女しか見たことがない。攻略対象達に囲まれても遜色ない、可愛らしい童顔に金色の瞳が印象的な少女、乙女ゲームの主人公たるミモザちゃんだ。


 思ったよりも早かったな。

 私はランチを食べる手を止めて席を立ち、派手派手しい集団を迎えた。


「ミリアリア嬢、食事中にすまない。邪魔をするよ」


 レグルス王子は対外用の王子様スマイルで、にこやかに私に詫びた。

 予想と違う。私に文句を言いに来たと思ったんだけど、別の用事かな。それとも油断させておいてから、グッサリ攻撃されるのだろうか。

 私は油断なく身構えたが、レグルス王子は私から視線を外し、私の友人に相対した。一緒にランチを食べていた侯爵令嬢、デネボラ様だ。シリウスの従妹で、レグルス王子の婚約者でもある。


「デネボラ、キミには失望したよ。こんな嫌がらせをするなんて」


 レグルス王子は一冊の教本をテーブルに置いた。表紙にミモザちゃんの名前が書いてある。

 ああ、なるほど、王子は勘違いしているのか。


「レグルス様、まだデネボラ様が犯人と決まったわけでは」


 ミモザちゃんがデネボラ様を庇うような発言をしているが、犯人とか物騒な単語を使っているあたり、周囲を煽る気満々だ。

 遠巻きにしている生徒達がヒソヒソと囁きあう。それに怯えたように、レグルス王子の上着の裾をそっと掴むのもあざとい。

 上目遣いに王子を覗ってから、ミモザちゃんはデネボラ様に視線を移した。その視線に含まれる批難と僅かな嘲りの色に、デネボラ様は眉を顰めながらも毅然と対応した。


「いったい何の事でしょうか」

「とぼけるな。ミモザの教本をこんな状態にしたのはキミだろう」


 レグルス王子が開いた教本は、所々黒く塗り潰され、読めなくなっている。どうでもいいけどレグルス王子、ミモザちゃんのこと呼び捨てなのか。


「わたくしではありませんわ」

「そうです、デネボラ様ではございません」

「ミリアリア嬢、友人だからとデネボラを庇う必要はない」

「ミリアリア様はお優しいのですね。でも、ご友人だからこそ、間違ったことをすれば正して差し上げないと」


 ミモザちゃんが何か見当違いのことを言ってるな。


「事実を申し上げているだけですわ。ミモザ嬢の教本に仕掛けをしたのは私ですもの」


 私の発言に驚かなかったのは兄くらいだ。周囲が目を丸くするなか、兄は左手でこめかみを押さえ、頭痛を堪えるような顔をした。


「ええと‥‥‥ミモザちゃんの教本に落書きしたのはミリアリアちゃん?」

「落書きではありません、ミモザ嬢の成績を上げるための仕掛けです」


 一番に復活したシリウスの言葉を訂正する。怪訝な顔をする一同に、私は教本を示しながら説明した。


「この黒く塗り潰している部分、ここには憶えておくべき重要な記載がされています。ここに入る人名や制度名を思い出しながら教本を読めば、座学が苦手なミモザ嬢の成績も上がるかと思いまして。ちなみにまだ憶えていない場合は、この様にして記述を確認いたします」


 塗り潰された部分に指先を触れ、薄っすらと一定の魔力を流す。すると塗り潰すのに使ったインクの色が薄れ透明になり、下に書かれた文字が読めるようになるという仕掛けだ。前世で受験生たちが使っていた参考書───重要単語を赤で印刷してあり赤いシートとセットで使うあれ───を参考にしてみた。更に、インクを透明にするために薄く魔力を流すのにもコツがいるので、魔力操作の練習にもなるという優れもの。


「ふーん、面白いね。こんなインク初めて見たよ」

「ウチの一番上の兄に作って頂きました。仕掛けについても、学習効果の高いものをと兄に相談しましたの」


 私の長兄は天才との誉れ高い研究者だ。私がやりたいことを説明すると、元々あった透明な、魔力を流している間だけ読めるようになるインクを元にして、効果が真逆のインクを作ってくれたのだ。

 天才の兄のお墨付きだというので、ミモザちゃんの教本の黒塗りが悪戯や嫌がらせではないと、周りは納得してくれたようだ。ミモザちゃん本人は不満そうに口を尖らせているけれど。


「でも、勝手に人の教本に手を加えるなんて‥‥‥」

「あら、事前に先生からお話があったはずですわ。成績を上げるためのカリキュラムを受けて頂くと。これはその一環ですわ」

「そんなの聞いてません!」


 うん、聞いてなかったんだろうね。

 ミモザちゃんは基本人の話を聞いていない。かろうじてイケメン男性の話は耳に入っているようだが、この教科の先生は女性だ、聞き流していたのだろう。だが根回しは完璧だ。


「聞いていなくても、貴女が特別カリキュラムを受けるのは決定事項ですわ。私、学園長から直々に頼まれましたの。貴女の成績を、聖女として恥ずかしくないレベルまで引き上げるようにと。ですからほら、私の教本も同じにしていますのよ」


 私はカバンから教本を取り出し、黒く塗り潰されたページを開く。自分の教本も同じ状態だと見せつけることで、嫌がらせではないとダメ押しできただろう。

 ミモザちゃんはますます不満そうだが、私は気付かない振りをして、彼女の手を取りギュッと握った。


「これからは私が全力でサポート致します。休み時間も放課後も、休日もお付き合いしますから、頑張ってお勉強しましょうね」


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