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ラブコメひらがな練習帳  作者: 板ッ亭浮通
3/8

「うーん、どっちがいいと思う?」


「どっちでもいいですよ。先輩が食べるんですから。」


「え、お前もポップコーン食うんじゃねぇのか?」


「僕は映画見る時には何も食べないので。」


「そ、そうなのか。」



 先輩の目が今までと打って変わって輝きを失っていく。そんなに食べた買ったのかと先輩の食欲を凄まじいのを知った。その一方で、あのような純粋さを僕はいつ失ったのだろうかと自分の過去を思い返した。そうしたところでいつ変わったのかを突き止めることは僕には不可能に思われた。


 そう思うと女子高生という一番変化を迎えそうな時期に当たっても未だにその純粋さを保ち続けている先輩はいかようにしてその清らかさを保っているのだろうかとふと感じた。


 けれどそれに触れてしまえば、きっと意識してしまいもう戻ることは亡くなってしまうように感じられて、僕は考えるに過ぎなかった。



「でも、まぁ、たまには食べるのもいいかもしれませんね。」


「な、だろ? おい、この半分ずつ入ってるやつにしようぜ。ウチがキャラメルにするからお前このしあわせバター味にしろよ。」


「それ先輩がどっちも食べたいだけじゃないですか。」


「それがどうした。」


「やけに強気ですね。」



 先輩はいつも荒々しい言葉を使うのだけれど、内面の気の弱さが隠せていないのが特徴だったのに、今日は気も強く感じた。



「そうか。いつも通りだろ。」


「そうですかね。」



 僕が疑問を抱えながら適当に相槌を打って答えていると、ショップの店員が大きな容器に入ったポップコーンを手渡してきた。



「ほらよ。お前コーラとジンジャーどっちがいい。」


「じゃあコーラで。」


「やっぱな、お前そっち取ると思ったんだよ。」


「じゃあ、ジンジャーで。」


「は、ダメだから。」



 そう言うと先輩はジンジャーエールの入った容器にストローを刺し思いっきり啜った。



「へへ、これでもう飲めないだろ。」



 思いっきり口をつけて飲んでやろうかと思った。




 ※




 今日見る映画はフランスのアクション映画だった。


 ダンディーな俳優が事件に巻き込まれていくところから始まり、ヒロインと数奇な出会いを果たす。その後は女を巡って敵の組織と激しい闘いを繰り広げ、最後には組織のボスと殴り合いのケンカをし、勝利してハッピーエンドを迎えるという話だった。


 ストーリーだけを見ていけば、とてもありきたりな話である。


 けれど、そのありきたりな話をきちんと見れる形にしていくところに、映画監督の手腕の妙があるのであって、ストーリーをようやくしてそれを満足げに批評するというのはいかにも見ている側の独りよがりでしかないのである。


 僕は、この映画の魅力は映像の迫力にみた。あとはそれが好きか嫌いかだった。



「面白かったな。」


「そうですね。」


「あの俳優のオッサン凄かったよなムキムキで、男って感じだったよな。」


「そうですね。ラブシーンもしっかりこなしてましたし。」


「ら、ラブシーン!? そ、そうだな。え、エロかったよな。」


「まぁ、あのぐらいは普通じゃないですか」


「え、え! お、お前。普通なのか!?」


「ええ、ハリウッドとかではよくあるじゃないですか。結構激しいキスシーンとか。」


「あ、あ、あぁ!? ああ、そ、そうだな。映画の話だよな。」


「それ以外にありますか? ないと思うんですけど。」


「まぁ、そうだよな。お前に限ってそんなことはないよな。」


 ほぅっと先輩は息を吐いた。するとおもむろに残っていたポップコーンを口に詰め始めた。ポップコーンのかけらがぽろぽろと床にこぼれる。


 カーペットの床にこぼれたポップコーンを拾おうとしたけれど、先輩は先に行ってしまったし、後方から別のシアターも終わったようで、続々と客が出てきてしまったので拾うことはできなかった。


 僕は流されるような人の波に従って、先行する先輩に追いついた。




 ※




 ところ変わって、パスタ専門店である。


 先輩は無類のパスタ好きらしい。


 昨日帰ってからすぐに届いたメッセージは明日の食事は何にするかという内容のものだった。特にこだわりはなかったし、何か思いつくところがあったわけではないのでなんでもいいですと適当に返事をすると、先輩はすぐさまに返信をよこした。文面はパスタでいいかとのことだった。


 どうも映画を見ることが決まった時点で既にパスタを食べることは既定路線だったようだった。



「お前何にする? ウチはこのカルボナーラがいいと思うんだけど。」



 先輩が指さしたのは、4種のチーズの特製カルボナーラだった。確かに濃厚で、そうとう食べ応えがあり、おいしそうだった。



「高くないですか? 千円もしますよ。」


「でも、旨そうなんだよ。」


「先輩は何にするんですか。」


「私はこれだ。」



 先輩がそう言って示したのは昔ながらのナポリタンだった。



「なんか、どこでも食べれそうじゃないですか?」


「はぁ!? お前、マジで言ってるん? ナポリタンマジ旨いじゃん。」


「おいしいですよ。でも別にここで食べなくてもいいじゃないですか。」


「いや、でも、ナポリタンがいいんだよ。……好きなんだよ、悪いか!」


「悪いとか言ってるんじゃないんですけど。……まさか先輩どっちも食べたいんですか。カルボナーラとナポリタン。」


「うっ。だ、だって。」


「先輩まさか僕に注文させて、どっちも食べようとしてたんですか。」


「うう、だってどっちも食いたいじゃんかよ。悪かったよ。お前が好きなもの他のめよ。」


「じゃあ、カルボナーラにします。」


「は?」


「いや、おいしそうだったんで。」


「お前、わざとか。ウチに謝らせるためにわざと言ったのか。ウチに恥をかかせようとしたんだな。」


「ええ。面白いと思ったので。」


「許さねぇっ!!」




 ※




 結局、揉めに揉めて、僕がカルボナーラを、先輩がナポリタンを注文することにした。


 で、どちらも少しずつ取り分けて相手に食べさせるということで解決した。


 どっちもめっちゃうまかった。


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