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5.アカネ、図書館探しをする






 アコーディオンの中から出てきた本と鍵。

 ひとまずアヤトキは放置して、部屋に入るなりすぐに本と鍵を拾った。

 本は、少し分厚め。表紙は硬い。

 タイトルは、"獣の皮を被ったほらふき"だって。何のこと。

 鍵は、何というか。アンティークな雰囲気。

 頭の部分が四葉のクローバーみたいになってる。


 それを見てから、アヤトキに視線を向け直した。


「……それで、カーテンは?」


 アヤトキは、壊れたアコーディオンを床に置いて取れた部品を添えた。

 なんて無残なアコーディオン。

 添えられた部品が更に物悲しい。

 私は触ってないから、全くもって無実だ。


「ホントだったら、この部分がそうなのよ……そうなってたハズなのよ……」


 思い切り視線を逸らした上で、言い訳された。

 覚えていたら、あとでアコーディオンを検索しよ。

 ネットに動画くらい上がってるだろうし。

 別に知らなくても、人生で損はしなさそうだけど。


「──ま。仕方ないわ。叱られたら弁償ねッ! おっけい!」

「立ち直り早っ」

「いつまでもウジウジしてたって仕方ないのッ! ハイハイ、次!」

「うっさいな!」


 元気いっぱいかよ。

 手を叩いて促す仕草が、先生みたいで嫌すぎる。

 音楽の先生に、似たようなのいるんだよなー。

 あれは、おばちゃん先生だけど。 

 オネエではないけど。

 似たようなものか。


「うっわ」


 本を開くと、中は英文だった。嫌だ何これ目が滑る。

 あわてて表紙に戻ると、タイトルだけは日本語表記。

 むしろ、なんでだよ。


「やだー、中は英語なのね。現役学生だったら読めるんじゃないのォ?」

「読めないよ。英語教育レベルの低さ舐めないで」

「どこの学校行ってるのよ……」


 まったくもって、大きなお世話でしかない。

 本を押し付けると、アヤトキは当然のように中を開いた。

 そして、すぐに閉じちゃう。

 お前も読めないじゃねえかよ。


「これじゃあー、ダメね。読めなきゃ何かヒントがあっても……あら?」


 また本を開いたアヤトキは、古い紙を手に取った。

 一瞬ページを破ったのかと思ったけど、よく見ればレター用紙だとわかる。


「だんだん慣れてきたわァー。この紙の指示」

「何か、踊らされてるよね」

「閉じ込められた時点で、手のひらの上でしょー?」


 それは確かだけど、嫌な表現だな。

 アヤトキは、本を小脇に抱えて紙を広げた。

 さっきまでの紙と違って、すごく乾燥しているみたい。

 紙は、広げる度にパリパリと音を立てた。

 表面には、かすれた文字が並んでいる。


「……"どうか、あるべき場所へ"ですって」

「どういう意味?」

「うーん、そうねェ……書斎とか図書館とか?」

「本を戻せってこと?」

「普通に解釈するなら、そーじゃない?」


 自分でやれよ。

 誰がこの手紙を書いたのかは知らないけど。

 どうして、アコーディオンの中に詰め込んだのかもわかんないけど。

 お願いするくらいなら、自分で戻せばいいのに。


「この鍵を使うのかな」


 しかも、ご丁寧に鍵付き。

 隠さなきゃいけなかった理由も、思いつかない。

 鍵を持ち上げてアヤトキに見せる。

 すると、アヤトキは困ったように眉を下げた。


「そんな古そうなカギが使えそうなドアなんて、なかったわよねェ」

「ていうか、鍵のかかったドア自体なかったよ」


 下の階にあったドアは、廊下と展示室の間だけ。

 それも、廊下は消えて階段になっちゃっている。

 ここには、ピアノと楽器が置かれている二部屋しかない。

 それぞれの部屋には、ドアっぽいものなんてなかった。

 部屋を見回しても、楽器がずらっと並べられているだけで出入り口になりそうなものはない。

 動かしたらドアが出てきそうな、大きな棚とかもない。

 ないない尽くし。


「ま、探すしかないかな」

「そーね。一旦戻って──」


 話をしながら部屋の出口まで戻ったとき、バタンッと音がした。

 ドアを閉じた音にも聞こえて廊下を見るけど、人の姿は見えない。

 固まっているアヤトキを置いて廊下に出たとき、違和感に気がついた。

 階段を上がってきたときに使ったドアの、向かい側。

 そこに、別のドアがあった。

 開いたときに気がつかないはずがない。

 これは、確信を持っていえる。

 あんなの、最初はなかった。


「カラクリ屋敷かしらねッ!!!」


 震え上がったアヤトキが、背後で声を上げた。

 だんだんわかってきたけど、アヤトキって嫌なことがあったら大声が出るタイプっぽい。

 この場合は、怖いこと、かな。

 身体を退けて道を空けると、盛大に足音を響かせながら廊下をずんずんと進んでいく。

 オネエ、元気。


「探す手間が省けて良かったわァ──あぁあああッ!!」


 今度は悲鳴。

 何なんだこのオネエ。

 ドアを開いて、すぐに頭を抱えたアヤトキに合流する。

 見ると、ドアの向こうには下り階段があった。

 後ろを振り返ると、もうひとつドア。その上には、文字。

 文字があるということは、やっぱりこっちが入ってきた方のドアっぽい。


「……そう簡単に目的地なんて行けないよ」


 それくらい、そろそろわかる。

 大げさなまでに嘆くアヤトキを軽く宥めてから、ポケットに鍵を入れた。

 そして、スマホを取り出す。階段は、相変わらず暗い。

 違う建物をそれぞれ適当にくっつけているみたいな、アンバランスさがある。

 ゆっくりと階段を降り始めると、アヤトキもついてきた。


「……ま、いーわ。とりあえず本ね、本。本棚があればいいのよ」


 相変わらず立ち直りは早い。

 そうでないと、置いていきたくなるから助かる。


「あんまり歩き回ってると、疲れてくるしねー」


 そう言い合っている間に階段は終わった。

 あっち側の階段よりも、かなり短い気がする。

 降りた先にドアはなくて、そのまま廊下に出る形。

 廊下はブラウンで統一されていて、いきなり謎の落ち着いたトーンになった。


「展示室、じゃないね」

「違うわね……」


 あっちとこっちで、やっぱり行き先が違うみたい。

 方向としては、最初の廊下に出るかも、と思っていたけど違った。

 左右に伸びる廊下をそれぞれ見れば、不規則な間隔でドアがある。

 床には、チョコブラウン色の絨毯が敷き詰められていた。やっぱり足音対策かな。


「二手に分かれて、何かあったら呼び合おうよ」

「いいわ。でも、勝手に進んじゃイヤよ? あやねえとの約束ね?」

「うっさい。お前は勝手に逃げるなよ」


 廊下は一直線。

 少しくらい距離が離れたところで、互いの姿はきちんと見える。

 でも、さすがにアヤトキがダッショしたら追いかけられない。

 追いかけたとしても、どうしようもないけど。

 とにかく私は廊下の右に、アヤトキは左へ向かう。

 すぐ手前にあったドアを開こうとしたけど、開かない。

 ドアノブがシャリシャリと音を立てるだけで、全然きちんと回らない。壊れてる。

 次のドアは開いたけど、すぐに壁に当たった。

 順々にドアを開いてみるものの、まともに部屋や通路に繋がるものはない。


「鍵も使えなさそうだしなぁ……」


 どうしたものかと考えていると、一番端まで来てしまった。

 こちらは、これで行き止まり。

 アヤトキの方を見てみるけど、似たようなものみたい。

 ドアは開かなかったり、開いてもすぐに何かに当たったり。

 まともなドアは、ほぼない。


「アカネちゃーん!」


 ちょっと諦めそうになりながら階段の前まで戻ってきたとき、アヤトキが声が上げた。

 足元に落としていた視線を持ち上げると、ドアを大きく開いている。


「何かあったーっ?」

「こっちにも、廊下があるみたいよォーッ!」


 三歩進んで二歩下がる的な気分になった。

 でも、仕方がない。アヤトキの方に駆け寄ると、ドアの奥には似たような床と壁が続いている。

 ドアで区切っている理由がわからないくらい、ほぼ同じ造りの廊下。


「何か見つかればいーんだけど」


 一足先に通路に進んだアヤトキは、どうしてなのか片手に本を握っていた。

 しかも、ちょっと前に突き出している。


「……それって、まさか武器?」

「そーよ! 不審者が出てきたら、これで撃退してやるんだからッ」

「鈍器扱いかよ」


 どちらかといえば、不審者はこっちのような気がする。

 スキンヘッドチャイナドレスオネエ。

 同伴者として、ちょっと言い訳ができないキャラの濃さだよ。

 廊下を進んでいくと、突き当たりにドアがひとつ。

 そして、左右の壁の少しずれた位置にもドアがひとつずつ。

 向こうと違って、圧倒的にドアの数が少ない。

 開かないドアなら、あってもなくても同じだけど。

 左右それぞれのドアを、ふたりで見る。


「こっちはダメねェ。そっちは?」

「無理」

「カギは? どう?」

「どうも何も、そもそも鍵穴がないよ」

「ドアのカギじゃないのかもねェ……」


 これだけハズレが続くと、いちいち期待しなくなってくる。

 あとは、突き当たりのドアだ。

 更に奥へ進んでいくと、このドアだけ色が違うことに気がついた。

 今までのはダークブラウンだったけど、これは少し薄い。

 何色って言うんだろ。

 アヤトキがドアノブに触れる。

 すると、確かに回った。

 でも、押しても引いても、何かが引っかかったように止まってしまう。


「開きそうで開かないなんてッ」

「それ、壊さないでね」

「誰がゴリラよっ! ゴリラは心優しいのよッ!」

「何の話?」


 どうツッコミを入れたらいいのか。

 ガンガンガンッと、アヤトキが何度もドアを揺らす。

 木製だった他のドアと違って、これだけ金属だ。

 しかも、少し分厚い気がする。

 前後には揺れるけど、中を確認できるほど開いてはくれない。


「あのー……すみません」


 おっとりとした声が響いた。

 当たり前だけど、オネエの声ではない。

 廊下を振り返っても、誰もいなかった。


「その扉は、開きませんよ」


 小さな足音がして、もう一度、廊下を見た。

 廊下の途中にある階段から、誰かが降りてくる。


「ベリショッ!?」


 出てきたのは、ベリーショートな女の子。

 ゆっくりと階段を降りてきてから、廊下の真ん中に立った。

 そして、両手を身体の前で揃えて立つ。

 お嬢様だ。

 間違いなくお嬢様だ。ドラマとかで見たことある。

 すごくお嬢様っぽい。

 しかも、黒っぽいセーラー服だ。膝下丈のスカートだ。非現実がここにある。

 でも、こういうお嬢様って、長い黒髪のパッツンとか、だと、思う。

 マンガとかドラマとかだとね。

 だけど、この子はベリーショートだ。

 ああ、うん。髪型で人を判断しちゃいけない。いましめいましめ。


「アンタ、髪型だけ叫ぶなんて失礼よ。ねぇ、ベリーちゃん」

「お前もな」


 勝手にあだ名つけんな。

 私も、確かに失礼なことしちゃったけど。

 出会いがしらにショートカット! とか呼ばれたら、腹立つもんな。

 私たちのやり取りに、目を丸くしていたベリーちゃん、違う。

 お嬢様は、おっとりとした調子でうなづいた。


「……申し遅れました。私、白井葵と申します」

「アオイちゃんねっ、可愛らしいわァ。アタシは、アヤトキよ。で、こっちがボーイッシュ」

「あだ名で紹介やめろ! ……アカネって呼んで」


 そもそも、ボーイッシュってあだ名でも何でもない

 スキンヘッドオネエのせいで、私のイメージまでおかしくなりそう。

 とにかく調子が狂う。


「アヤトキさんと、アカネさん。……あの、おふたりは、お友達ですか?」

「やっだァー、そう見えちゃう?」

「さっき会ったとこだよ!」 


 馴染み具合はすごいけど、初対面から半日も経ってない。

 それは、すごく強調しておきたいところ。


「私も、アヤトキも、気づいたらここにいたの。それで、出口を探すのに協力し合ってるってわけ」

「今は諸事情で、本棚を探してるのよォー」

「諸事情言うな」


 手に持った本を揺らすアヤトキを見ても、アオイは動じた様子がない。

 すごいなこの子。この濃厚トッピング増し増しキャラに動揺しないなんて。


「本、でしたら……上に図書館がありましたよ」


 アオイの一言に、アヤトキは動きを止めた。

 ついでに私と顔を見合わせた。

 上ってどこだ。そんなのなかったぞ。

 ふと気がついたけど、そもそもこの子はどこから降りて来たのか。

 さっき、私たちが調べたドアは開かなかった。

 それ以外にはドアなんてなかったし、通路だってなかったし、階段なんて。


「……上って?」


 そう聞くと、アオイは不思議そうな顔をして階段を指差した。

 ドアがあったはずの場所に、階段が伸びている。

 そもそも、そこにはドアがない。

 反対側のドアも、なくなっている。


「……」

「……」


 私とアヤトキは、また顔を見合わせてしまった。

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