19.アカネ、カルテットを結成する
シンプルな黒いTシャツ。
すっごく長い髪。
そして、羽織った白衣。
アヤトキは個性が渋滞してたけど、スカイは個性がバラついてる。
「……うわ」
脚、なっがいな。
立つとわかるけど、スカイは手足がすごく長い。
外国人モデルみたいだな。こんな格好なのに。
「どーしたのよ?」
スカイを連れて前を歩くアヤトキが振り返った。
デカい。
アヤトキもスカイもデカい。私とアオイの前に壁がある感じ。
「ふたりとも身長高いなって」
「やっだァー、アタシはヒールの分もあるわよッ」
ヒールの分って。
ちらっと足元を見る。
アヤトキはヒールを足して、スカイよりもちょっと高いくらい。
自覚がないのかとぼけてるのか知らないけど、とにかく十分デカい。
階段を降りている途中で、急にアヤトキが止まった。
腕を引っ張られているスカイも止まるし、当然だけど私もアオイも止まる。
前が見えない。
「なに?」
「……何か落ちてるわ……もうイヤ、この展開」
うんざりとした調子で言うアヤトキの後ろから、階段の下を覗いてみる。
階段を下りた先には、白い紙が置いてあった。
ダリアの花は散乱したままだけど、そっちのことじゃないのは確実だと思う。
展示ルーム内の彫刻たちは、特に変わった様子もない。
「はぁああー、んもぅ、仕方ないわねェ」
数秒くらい黙ってから、アヤトキは急にあきらめた。
ツカツカと早足で下りていって、紙をつまみ上げる。
そこにスカイが続いて下りるけど、静かなままだ。
本当、黙っているときと口を開いたときのギャップがすごい。
こうしていると物静かな感じで、動きだってアヤトキほど大きくない。
「やっぱり何か書いてあるわァー」
アヤトキが愚痴っぽくなってきた。
広げられた紙を、アオイといっしょに覗き込む。
" か こ の つ づ り お っ こ ち た の は ど こ ? "
全員、沈黙した。
スカイに至っては、ちゃんと見えてるのかどうか。
なっがい前髪、邪魔じゃないのかな。
「かこのつづりィ?」
アヤトキが眉を寄せながら首をかしげた。
その目が私を見て、そして次にアオイを見る。
「日記帳ですか?」
アオイが抱いたままの日記帳を差し出すと、アヤトキが「ソレっ!」と声を上げた。
うるさいな。
「ソレよ、ソレ! きっとそうだわっ」
「おっこちたのは、って?」
「アカネちゃんが拾ったんでしょ。図書館よ、図書館!」
ああ、そういうことか。
納得してうなづくと、アヤトキはすぐに歩き出した。
柱と壁で仕切られた展示の区画から抜けて、真ん中の通路へ。
「──あ、アヤトキ。そっちは……」
階段もドアもなくなっていた、と言いかけて止まった。
追いかけて通路に出ると、アヤトキが不思議そうに目を丸くして振り返っている。
その向こう側に目を向ければ。
あった。階段。
「……」
「どうしたのよ?」
「何でもない……」
「なぁによ? 変な子ねェ。ほら、行くわよ。アンタも来るのよ」
アオイといっしょに通路まで出てきたスカイの手を引っ張って、アヤトキが先に歩き出す。
取り残された私は、アオイと顔を見合わせた。
「……さっきはなかったよね?」
「はい。なくなってました、けど……」
私もアオイも、困惑するしかない。
あったものがなくなっていたり、なかった場所に何かができたり──慣れるべきかも。
アオイをうながして、アヤトキたちを追いかける。
少し遅れて追いつくと、階段前で立ち止まっていたアヤトキが私たちを振り返った。
「らせん階段になってるわ……もう気にしちゃダメよねッ!」
「私もそう思う」
さっき思ったところだ。
繋がっている先も違うかもしれないけど。
それだって、進まないと確かめられない。
「足元に気をつけてくださいね」
アオイが、あまりにも前が見えていなさそうなスカイにやんわりと言った。
首をかしげたスカイの手を離したオネエが、両手を腰に当てる。
そして、まじまじとスカイを眺め始めた。
「アオイちゃんの言うとおりよ! らせん階段なんて、特に危ないんだから……髪ゴムとかないのォ?」
「あるぜェエエッ? でも使えないからさァアアアッ!」
「なら、さっさと出しなさいよッ!」
やっぱり口を開いたら、スカイはうるさいな。
キーキーと声を上げたアヤトキは、スカイが差し出したヘアゴムを受け取ると背後に回った。
ブラシがないからやりにくそうだけど、アヤトキは髪をいじることに慣れているみたい。
自分の頭にはないのに。
長い髪を緩いポニーテールにされても、スカイはされるがまま。無抵抗すぎる。
「あら? アンタ、結構なイケメンじゃない?」
「いや、もう顔とかどうでもいいレベルで個性が強……──」
スカイの顔を覗き込んだアヤトキが、にまにましながらスカイの身体を反転させた。
こっちを向いたその顔は、確かにめっちゃイケメンだ。
ちょっと言葉を失うレベル。
海外モデルっぽいとは思ったけど、ここまでハーフ顔だとは思わなかったな。
「だっめよォッー、顔を隠すなんて! もったいないわァッ!」
テンション爆上がりのオネエ。
肝心のスカイは、きょとんとしている。
話がわかってなさげ。
ひとまずうながして、階段を上がる。
うねった階段の先は見えていないけど、ここから上がったとしても次は二階。
図書館は三階だったはずだから、更に上がらないといけない。
「スカイって、なんであそこにいたの?」
階段を上がる途中、暇になって問いかけるとスカイは首をかしげた。
「寝ててェエー、起きたらァアー、いたから知らねェエエなァアアアッ!」
ホントにうるさいな。
叫ばないと話せないのか。どんな呪いだよ。
でも、起きたらそこにいた、っていうのは、私と同じっぽい。
だったら、やっぱりスカイも迷った人か。ここの住人ではなさそう。
階段は、まだまだ続いている。
三階分くらいは上がった気がしてきた頃、やっとドアが見えてきた。
「はァー、やっとついたわねェ。クタクタよ、もうっ」
アヤトキが、気持ちを完全に代弁してくれた。
後ろでアオイがちょっと遅れがちになってるし、休憩してもいいとは思う。
一段飛ばしで階段を駆け上がったアヤトキは、勢いそのまま乱暴にドアを開いた。
元気だな。
「うぉッ!?」
野太い声がした。
そして、アヤトキがドアの向こう側に──落ちた。
あれ。
落ちたぞ。
「ちょ、は? アヤトキ!?」
「アヤトキさんっ!」
私とアオイが声を上げると、ドアの低いところからアヤトキが顔を出した。
モグラみたい。
「あーん、もー。びっくりしたわ……気をつけてネ、このドア、ちょっと高いところにあるみたい」
びっくりしたのは、絶対に私たちだけど。
落下慣れしつつあるアヤトキが怖い。
ドアから中を覗き込むと、確かに数段分くらい高い位置にドアが設置されている。
ちょっとした階段を取り付けてくれた方が安心できる高さ。
ここから落ちて、全く平気っぽいところもすごい。
「それで、何? ここ」
ドアをくぐると、階段の踊り場っぽい場所に出た。
古い校舎を思わせる木造の景色は、確かに見たことがある。
後ろからアオイも出てくる。続いて、スカイも出てきた。
どう見ても、場所は階段のつなぎ目にある踊り場。
急にドアが取り付けられたみたいな、お粗末な感じしかない。
「上に行けば、図書館ってコトよね?」
「いや、ま、そうだけど」
道が変わっていなければ。
だって、図書館から出たときは廊下が伸びていたわけだしな。
階段を見上げると、一番上に大きなドアがあった。
そして、そのドアには、文字が書かれている。
" 場所は海の外 数字は規則そのもの 重なりは消失となり 居残りは顔合わせ "
アヤトキが私を見る。
とりあえず写真を撮ると、アヤトキはすぐにドアを押した。
写真待ちか。
開かなかったらどうしようかと思ったけど、木製のドアは呆気なく開いた。
ギィイ、と軋む音がする。
向こう側にあったのは、確かに図書館だ。
だけど、前に入ったときとは入り口が違う。
最初に入った引き戸が正面なら、こっちは側面といった感じ。
振り返ると、アオイが何か考え込んでいて、スカイは欠伸をしていた。
何その温度差。





