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【完結済】髪が短いだけでボーイッシュだなんて決め付けないで!~JKがオネエやお嬢様を仲間にしながら謎解き・脱出する話~  作者: YoShiKa


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13/30

13.アカネ、お嬢と二人になる






 アヤトキが落ちてしまった床の穴は、完全になくなっている。

 落ちる瞬間、アヤトキが何か言ったのかもわからない。

 一瞬の出来事だったし、その瞬間だけ周りが無音になったような気もした。


 立ち上がったアオイが、私の手に触れる。


 思っているよりも私の体温が高いのか。

 アオイの手が、少し冷たい。














「──ちょっとーッ! 聞こえる!?」



 オネエの声が聞こえた。

 あわててアオイといっしょに台座まで戻ると、下の方から何かを叩く音がしている。

 だけど、すごく遠そう。


「アヤトキさんっ!」

「ちょっとアヤトキっ! そこにいるのーっ!?」


 大きな声を返すと、少し遅れて返事が来る。


「いるわよォーッ、何この落とし穴ッ! ふざけんなってカンジ!」


 元気そうで何よりだよ。一瞬の感傷的な雰囲気を返してほしい。

 声が遠くで反響していて、少し聞き取りにくい。

 地下室みたいなところにいるのかもしれない。


「腹立つわァー……ふたりとも! アタシが行くまで、イイ子にしてなさいよッ! 仲良くねッ!」


 どういうことなの。

 少しずつアヤトキの声が遠くなっていく。

 どこかに歩き始めたのかもしれない。

 通路でもあったのかな。


「……」

「……」


 アオイと顔を見合わせた。

 さっきちょっと泣きそうだったから、今はものすごく恥ずかしい。


「……無事でよかったですね」

「そうだね……」


 喜ぶところなんだけど、ちょっと複雑な気持ちになった。

 だけど、ひとまずは安心かな。

 私たちよりも、元気そうだったし。

 オネエ、強いな。


「とりあえず、アヤトキと合流しよっか」

「はい。そうですね」


 無事だとはわかったけど、ひとりで放置もちょっとどうだとは思う。

 アヤトキだから、大丈夫そうではあるけど。

 こっちが大丈夫とは限らないし。


 石像──もう岩になったけど──展示ルームから出て、中央の通路を引き返す。

 上に行っても仕方がない気がするけど、何かヒントがあるかもしれないし。


「……あれ?」


 ドアがある方に歩いていたのに、そこには壁しかなかった。

 行き止まりだ。

 あれ。そんなはずない。

 有り得ない。


 すぐ近くにある展示は、蝶々の標本。

 だから、ここはスタート地点、のはず。最初に、廊下から入った場所で間違いない。


「……階段が……」


 アオイが困惑しながら、壁に触れた。

 そこにはドアや階段があった様子なんて、全く残っていない。

 

 廊下や階段どころか、壁しかない。


「いや、待てし。ふざけんなよ」


 廊下が消えて階段になって、階段まで消えてドアもなくなった。

 アオイの隣に立って壁を叩いてみるけど、何ともない。

 そこにドアがあったことが、うそみたい。


「……ちょっと。やばいじゃん」


 これで完全に、出入り口がなくなった。

 外どころか、展示ホールから出ることもできない。


「ど、どうしましょう……」


 アオイが不安そうな声を出した。

 いやだ。やめてよ。こういうときこそ、ムダに明るく騒いでほしい。


「……」


 でも、ここにいたって仕方がない。

 ここから何かが始まるわけでもないんだから。


「とりあえず、岩のところに戻ろ」

「石像のところですか?」

「うん。たぶん、変わったのはあそこだし」


 アヤトキが何をしているのかは知らないけど、任せてばっかりじゃいられない。

 アオイの手を引っ張って、石像の展示コーナーへと戻る。

 他の場所が変わっていないかどうかはわからないけど、大きな変化があるのは岩で間違いない。

 よくよく見ると、ふたつの岩は同じくらいの大きさになっている。

 さっきまで、後ろの石像は確かに小さかったと思うけど。

 正確にはわからないか。気にしても意味がないかも。

 手前の岩を横切ると、側面に文字があった。



 "ナカマハズレハ、イラナイ"



 一度だけ立ち止まって、アオイの手を離す。

 そして、後ろへと回り込む。背後と反対側には、何も書かれていない。

 もうひとつの岩に近付くと、そっちには数字が書いてある。



 "7=1.7=5.7=2"



 数式でもない。

 これをイコールと読んでいいのかどうか。


「……これってどういう──」


 意味なの、と聞く前にキーンッと高い音が響き渡った。

 隣から伸びたアオイの手が、私に触れる。

 片手で耳を押さえながら目を向けると、アオイはひどく怖がっているように見えた。


 耳障りな音が止んだかと思ったら、今度は何かを削る音が響き始めた。

 ひとつやふたつじゃない。

 あちらこちらから、何人もの人間がガリガリガリガリと音を立てまくっているみたいな。

 それが、あたり一面から聞こえている。

 まるで音に包まれるみたいな感じ。


「さっきから何なのッ……アオイ、だいじょうぶ?」

「だ、だいじょうぶです……」


 アオイは、ちょっと音が苦手みたい。

 私だって、このうざったい音が得意ってわけじゃないけど。

 アオイほどではない。

 うつむいちゃったアオイの肩を撫でてから、周りに視線を向ける。


「……うっわ」


 私たちを取り囲む三方の壁。

 彫刻が掛けられている壁一面に、鋭いもので削ったように見える文字が走る。



 ナカマハズレハ、ダレ


 ダレ、ダレダレダレダレ、ダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレ

 ダレダレダレダレダレダレダレ、ダレダレダレダレダレダレダレダレダレダレ

 ダレダレダレ、ダレダレダレダレダレダレダレ、ダレダレダレダレダレダレ

 ダレダレダレダレ、ダレダレダレ、ダレダレ、ダレダレダレダレダレダレダレ

 ダレダレ、ダレダレダレダレダレダレダレダレダレ、ダレダレ、ダレダレダレ

 ダレダレダレ、ダレダレダレ、ダレダレダレダレ、ダレダレダレダレダレダレ



 目も頭もおかしくなりそう。

 壁だけじゃない。天井にも、びっしりと文字が浮かんでいる。

 ダレ。誰だ、なんて。そんなの聞かれても、答えようがない。

 この場合は、アヤトキかもしれないけど。

 もう既に、ここにはいない。


「……なかまはずれ」


 ぽつりとつぶやくと、アオイが静かに顔を上げた。


「……ウラギッタって……書いて、ありましたよね」

「さっきはね」


 今は壁の方が激しく主張している。

 もう音は止まっているけど、壁の文字はそのまま。

 気持ち悪いにもほどがある。


「……裏切りの、花言葉があります」

「は?」


 唐突な言葉に、ちょっと威圧的な声が出ちゃった。


「ダリアです。さっきの、絵画のところ……」

「……絵画ね」


 それが正しいのかどうかは、微妙なところだけど。

 ヒントも手がかりもないのだから、試してみるしかない。


「行ってみよう。何もしないよりは、する方がずっといいよ」


 アオイをうながして歩き出すと、すぐに腕をつかまれた。

 置いていく形になってしまったから、だめだったみたい。

 うーん。アオイって、意外とこわがりなのかも。

 怖くない方がおかしいか。こんな場所。


 薄暗い通路をまっすぐに進んで、もう一度絵画のコーナーに入る。

 割れた壁も破片も、落ちた絵画もそのままになっていた。

 ここは元に戻らないのか。

 なるべく絵画を踏まないようにしながら、奥へと向かう。

 花の絵画が掛けられている壁は、まったくの無傷。


「……ええっと……あ、これです」


 アオイは、すぐにひとつの絵画を指差した。

 小さな花びらが、たくさん集まって丸い花を作っている。

 あれが、ダリアらしい。


「……あれ?」

「え?」

「いや、それってさ」


 一歩前に出て、絵画を見る。

 ここの絵画は額縁の種類がバラバラになっているのは、知っていた。

 だけど、花の絵が入れられている額縁は、デザインが違っても色は同じ。

 ダリアの、額縁以外は。


「こいつだけ、額縁の色が他の花と違うね」

「あっ……本当、ですね」

「ナカマハズレって、これかな?」


 裏切りの花言葉もあって、花の絵の中では仲間はずれ。

 これなら、少し正解に近づいている気がする。

 額縁に触れると、簡単に壁から外れた。


「……」


 びっくりした。

 ちょっと触るつもりだったのに、外しちゃった。

 何もなくてよかった。

 これで、壁が割れるとかのパターンだったら、もう本当にいやだ。

 あと、小さくてよかった。落として割っちゃったら、それこそ何かありそう。

 サイズはどれもバラバラだけど、ダリアはA4サイズくらいかな。


「……あの、だいじょうぶですか?」

「あー、うん。たぶん……これ、持っていってみようよ」


 カトレアと同じように、岩に捧げればいいかもしれない。

 それで違っていたら、また別のことを試せばいい。

 どうせ出られないんだから、この中でやれることをやるしかないし。


「ダリアを、ですか?」

「そうだよ。せっかく思いついたんだし、外しちゃったし、岩にでもぶつけてやればいいよ」


 何だったら、暴れ回ってもいいと思う。

 こんなところに閉じ込められたんだから。

 歩き出すと、アオイもすぐについてきた。


「アカネさんって、すごいですね」

「えー、何が?」

「何、というか、その、思い切りがいいと言いますか……」

「あー……よく言われる」


 あんまり考えてないだけともいう。

 考えなしがいいとは言わないけど、考えたって仕方がないことだってある。

 今まさに、その状態だしな。


 行ったり来たりでバカみたいだけど、とりあえずまた石像──岩の展示コーナーに戻ってきた。

 岩の展示って何だよ。


「……で。どうしよう」


 捧げたらいいじゃんとは思ったけど、岩には手も何もない。

 台座もなくなったから、置くことさえできない。

 私は完全に考えなしだった。


「上に置く、とか……ですか?」

「えー、上って」


 岩を見上げる。

 たぶん、アヤトキでも届かないくらいに高い。

 とりあえず、岩の方に見せてやろうかと、ダリアが描かれている面を表に向けた。

 何も音はしない。岩だって動かない。

 本当にぶつけてやろうかと思って、絵を少し持ち上げると何か振動を感じた。


「──え?」


 指先から手首に伝わる細かな振動。

 ぞわぞわと腕まで震えが伝わってくる。

 額縁を持っていた指先に何か柔らかいものが触れて、反射的に絵を放り出した。


 伏せる形で床に落ちた絵の下から、一瞬にしてぶわっと広がったのは花びら。




「──うわっ」

「きゃ……!」



 まるで箱からこぼれてしまったように、溢れ返ったダリアの花が足元を埋め尽くした。

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