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【完結済】髪が短いだけでボーイッシュだなんて決め付けないで!~JKがオネエやお嬢様を仲間にしながら謎解き・脱出する話~  作者: YoShiKa


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12.アカネ、石の娘の声を知る






「アヤトキ、それ……」


 石像の手から花を取ろうとしたアヤトキの服を引っ張って、足元を示した。


「え? なになに、どうしたのよ?」


 アヤトキは、すぐに台座から降りてくれた。

 隣に来たアオイから、「あっ」と声が漏れる。

 台座にあった四角いへこみ。

 そこに、いくつか文字が浮かび上がっていた。

 さっきまでは、確かに何もなかったのに。



 うしろは、オツオミ。わたしは、ナセエノになった

。あなたたちの "エアマノ" おしえて



 私を挟んで、アオイとアヤトキが顔を見合わせた。

 やっぱり、謎を解いたら、また謎が出てきたパターン。


「どーゆー意味なの、オツオミ?」

「ナセエノ? も、よくわかりませんね」

「いや、エアマノだってわかんないけどね」


 つまり、結局は誰ひとりとして何ひとつわからないというわけ。


「後ろってコトは、この子よねェ?」


 アヤトキが、子羊を抱いている女の子を示した。

 前後に並んでいるのだから、明らかにそうだろうとは思う。


「この子がオツオミって名前なの?」

「じゃあ、"ナセエノになった"っていうのは?」

「わかんないけどォー……」


 アヤトキは、思案げな様子で頬に手を当ててうなった。

 "うしろは、オツオミ。わたしは、ナセエノになった

"ということは、だ。

 後ろの子がオツオミではなかったら、前の子はナセエノになってない。

 そういう解釈をしてもいい、はずだと思う。


「……あ」

「なぁに、どうしたの?」

「ちょっと待って。わかるかも」


 首をかしげているアヤトキに手を向けて、一旦ストップ。

 アオイは、もともと静かだからいいとして。


 前後に立っている石像の女の子たち。

 後ろの子は、少し小さい。

 この子たちが姉妹だとすれば、後ろの子が妹で前の子は姉。


「妹が生まれたから、姉になった──なら、つじつまが合うかも」


 あとは、どうして妹がオツオミで、姉がナセエノなのか。だけど。

 それを考えていると、アオイがそっと手を持ち上げた。

 なんでいきなり挙手制。


「……ローマ字ではないですか?」


 指で示すと、すぐに言葉が返ってきた。


「ローマ字?」


 首をかしげると、やっぱりアオイはアヤトキから受け取った日記帳を開いた。

 もう、使うことに何の罪悪感もなさそう。

 白いページに、ペンで、違った。万年筆で文字が書かれていく。


「はい。妹をimoutoと書いて、逆さまから読むとオツオミと読めます」

「え、そんな感じで?」


 急にそんな感じになるの。

 びっくりしていると、アヤトキがそれっぽくうなづいた。


「ナセエノは、お姉さん。ナルホドねェ、それじゃあ……」


 あとは、エアマノ。

 これも同じように、eamanoって書き直せばいいのかな。


「あなたたちの、おなまえおしえて」

「アナタたちの、おなまえおしえて」


 アヤトキとかぶった。

 顔を見合わせて、ちょっと笑っちゃう。

 何なら、アオイだってちょっと笑ってる。


「この女の子に、名前を教えればいい、ということですよね?」

「うん、そうだと思う」

「口でいえばいい、のでしょうか?」

「たぶん……」


 石に彫れって言われても、無理だしな。

 私を真ん中にして、アヤトキが左、アオイが右に立つ。

 こうして三人で石像と向き合うって、ちょっと変な光景だけど。


「……どうするの?」


 石に向かって自己紹介っていうのも、恥ずかしい話でしかない。


「フルネームでしょうか……?」


 アオイが首をかしげた。

 いや、そういうことじゃない。 

 こんなところで、いきなりボケないでほしい。


「モノは試しよ。男も女も度胸だしね!」


 違う気がする。

 勢いよく言い放ったアヤトキが続けざまに「アヤトキよ!」と叫んだ。

 そんな感じでいいのかな。


「アオイです!」


 アオイも両手をそれぞれ握って、力いっぱい言い放った。

 え、だから、それでいいの。


「……」


 ふたり分の視線が刺さった。

 仕方ない。

 ぐっと喉に力を入れる。


「アカネッ!」


 ふたりにならって、大きな声で言ってみた。

 だけど、特に何もない。

 またこのパターンか、このやろう。

 よくよく考えなくても、石像が動くはずもないし話をするはずもないし。


「……何か、他に仕掛けがあるんじゃない?」

「そうかもしれませんね」

「もうっ、何よッ! ぬか喜びさせてッ!」


 何歩か下がって石像を見上げる。

 だけど、やっぱり特に何もない。

 アオイは、後ろの女の子を覗き込み始めた。

 子羊はいなくなってない。女の子も成長していない。変化なし。


 私もアオイもその場から離れたとき、ガコンッとどこからか音がした。







「──……アヤトキッ!」


 音が聞こえて、視線を向けるまでの間、それは一瞬だった。

 四角く開いた床の穴。

 足場をなくしたアヤトキが滑り落ちる瞬間が見えた。

 それだけは、妙にスローモーション。

 なのに、駆け寄って伸ばした手は全く間に合わない。

 それどころか、私が辿り着くまでに、床は元の姿に戻っていた。


 膝をついて穴があった場所を叩いてみるけど、他の床と見分けがつかない。

 だって、ここには黒い絨毯がある。

 その絨毯も、一部分だけ切れ込みが入っているわけでもない。

 

 それなのに。


「……な、な、なんで……」


 どういうことなのか。

 わからなくて、声が震えた。

 その瞬間、真上から鼓膜が破れそうなほどに激しい音が響き渡った。

 両手で耳を押さえながら、その場に小さくうずくまる。

 傍にアオイもいない。

 アヤトキもいなくなっちゃった。


 バクバクと、心臓が激しく暴れ回る。


 でも、壁に穴が空いたときとは違って、今度の音は一度だけ。

 無意識のうちに止めていた呼吸を再開する。


「……アオイ?」


 しんと静まり返った中で声を向ける。


「……ねえ、アオイ?」

「い、います」


 一瞬まさかと思ったけど、声が返ってきた。

 完全に安心はできないけど、ひとまずは無事みたい。


 ゆっくりと顔を上げてみると、岩があった。

 白い岩。

 ゴツゴツとした、ただの岩が眼前にある。


「……どういうこと」


 ぽつりと声が漏れた。

 そこにあったはずの石像は台座ごとなくなっていて、岩がふたつ並んでいる。

 壁に掛かっている彫刻はそのままだけど、石像はどこにもない。

 少し視線を動かすと、ちょっと離れた位置にアオイが座り込んでいた。

 アオイも、巨大な白い岩を見上げて唖然としている。

 岩を警戒しながら立ち上がってアオイのところに行くと、妹の石像だった岩に文字が刻まれていた。



 ウラギッタ。ナカマハズレハ、ダレ。



 裏切った。誰が。

 仲間外れ。誰が。

 ぐるぐると頭の中で、疑問ばかりが浮かんで答えが出ない。

 息苦しいくらいに喉が乾いていた。

 胸の奥も痛い。やけに心臓がうるさい。

 まるで、全力疾走したあとみたい。


「……アヤトキ」


 そうだ。

 アヤトキの名前は、本名じゃない。


 "ないしょにしないで"

 "うそをつかないで"


 立て看板は、きちんと警告してくれていたのに。

 気がつかなかった。

 アヤトキは、源氏名で答えちゃいけなかった。


「……あ、あの、アヤトキさんは……」


 立ち上がれないアオイが、眉を下げながら曖昧に問いかけてきた。

 私は、答えられないまま。

 アヤトキが穴に落ちてしまって、その穴もなくなったなんて。

 そんなの、どうすればいいのか。


「アヤトキは……」


 どうしちゃったのかな。

 あんな風に落ちて、無事だと思えない。

 穴がどれくらい深いのかさえわからない。


 骨折くらいならまだしも、もしかしたら。


 それに、穴がなくなっているから引っ張り出すことさえできない。

 どうすればいいのか。

 どうなってしまったのか。

 私が、聞きたいくらいだし。


 ぞわぞわと震えがやってくる。


 どうしよう。

 アヤトキ、もしかしたら。








「いなくなっちゃった……」


 アオイの、息を飲む音だけが聞こえた。

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