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【完結済】髪が短いだけでボーイッシュだなんて決め付けないで!~JKがオネエやお嬢様を仲間にしながら謎解き・脱出する話~  作者: YoShiKa


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11.アカネ、花探しをする






 立て看板の文字は、とても整っている。

 印刷にも見えるけど、手書きみたい。

 白に塗られた木製の看板。文字は、黒で書かれている。

 たくさんの花に囲まれた中に立つには、そっけなくて味気ない。


「"ないしょにしないで"、"うそをつかないで"……って、何よ?」


 アヤトキが怪訝そうに言う。

 私はそのまま、まっすぐに正面の花壇へと向かった。

 色とりどりの花が咲いているけど、やっぱりどれも知らない。

 私が知っている花なんて、朝顔とかヒマワリとかサクラくらいだけどな。


「そのままの意味じゃないの? 偽るなってことじゃん」


 さっきの文章にも、そのまんま書いてあったし。

 花壇を覗き込んでみるけど、特に何もない。

 さすがに花を荒らすのは、気が引ける。


「ま、一番の問題はあれだけど」


 "ここは、A Y L A T T E C"


 どういう意味なのか。私にはさっぱり。

 アオイならわかるのかと思って、探してみる。

 すると、アオイも別の花壇を覗き込んでいた。


「アオイー?」


 呼びかけてみると、手招きされた。

 何を見ているのだろう。

 アヤトキも呼んで、近くまで寄ってみる。


「なになに、どうしたのォ?」

「何か見つけた?」


 その場に屈むアオイの手元を覗き込んだ。

 アオイの前に広がる花壇にも、たっぷりと花が植えられている。

 同じ種類の花が色別になっていて、列ごとに違う花で分かれているみたい。


「何か埋まっていて……」


 アオイが指で示す先には、確かにブリキ製の板みたいなものがある。

 だけど、それを出すと花もいっしょに掘り起こしてしまう。


「……どうする? 掘る?」

「えぇえー……」


 アヤトキは乗り気じゃない。

 悩んでる様子からすると、アオイも気が進まないみたい。


「でも、あからさまだしさー」


 言いながら手を伸ばして触ってみた。

 確かに硬い感触だ。埋まってるというよりは、土がかぶせてあるといった方が近いかな。

 周りの花を引っこ抜かないようにしながら、端をつまんで引っ張り出す。

 あ、ミスった。でも、仕方ない。

 ブリキの板にも、白いペンキで文字が書かれている。


「"私を選んで 私は81563724"……はぁ?」


 唐突な数字の並び。


「はち、いち、え? ナニよ?」


 アヤトキも怪訝そうに覗き込んできた。

 アオイだけは、私が守り損ねた花を植え直してくれている。ごめん。


「"81563724"だって」


 ブリキの板をアヤトキに渡す。

 するとアヤトキは、ちょっと唇を尖らせた。

 何顔だ、それ。

 ひとまずアヤトキは放置して、アオイの方に向き直った。


「ごめんね、アオイ。できた?」

「はい、できました」

「ごめん」

「いえいえ、いいですよ」


 ブリキの端が引っかかって掘り出してしまった花は、元の位置に戻されていた。

 自分の不器用さに、ちょっとうんざり。

 土で汚れた手を払ったアオイは「土が乾いてますね」と言ってきた。

 水まきがされてないのかな。

 おかげで、汚れはすぐに落ちそうだけど。


「数字がどーして名前になるのよ」


 アヤトキは、ブリキの板に夢中だ。

 真剣に眉を寄せながら、考えているみたい。


「アルファベット順ではないですか?」


 アオイの一言に、私とアヤトキは顔を見合わせた。

 すると、アオイは膝上に乗せていた日記帳を開いた。

 そして、何も書かれていないページを出して、ペンを握る。


「H、A、E、F、C、G、B、D……」


 紙面には、するするとアルファベットが書き出されていく。

 すごいな。私だったら、一回ずつ数えないと厳しい。

 そもそもアルファベット順すら、ABCって前から言わないとわからなくなる。

 英語ができないわけだよ。


「……わかりますか?」


 知っている単語にはならなかったみたい。

 確かにこれだけじゃ、単語とかいう前にただの羅列にしか思えないな。

 アヤトキを見るけど首を振られた。


「頭文字だったりしないのォ?」

「その流れ、一回楽器でやってる」

「イイじゃないのッ、リサイクルでもッ!」


 よくねえよ。

 いや、解く側としては助かるけど、たぶんそうじゃない。

 アルファベットを組み合わせるのは、さっき迷路でやった通りだけど。

 あれは、わかりやすくすぐに答えが出た。

 アオイがいなかったら、絶対にどうしようもなかったことは確か。


「並び替えてもダメ?」

「ヒントがないと難しくない?」

「では、この中で色々と組み合わせてみますね」


 英語と花に関しては、アオイに任せ切りになっちゃう。

 私もアヤトキもくわしくないから、そこは仕方がない。

 日記帳が完全にノート扱いになっているけど。

 最初は中を見ることさえ遠慮していたとは思えない使いっぷり。


「……組み合わせって言ったら」


 まだ、ひとつ残っている。

 ふと気がついて立ち上がると、アヤトキも屈んでいた背を伸ばした。

 アオイも不思議そうに顔を上げる。

 いや、そんないちいち見なくてもいいのに。


「いや、ほら。あれ──"ここは、A Y L A T T E C"」


 指で示しながら立て看板を読み上げると、アオイが小さくうなづいた。

 そして、日記帳に書き込んでいく。


「"AYLATTEC"、"81563724"……これをつなげればいい、というわけですね」


 繋がるのかな。

 屈んだ姿勢で膝上に日記帳を置いて書き込むアオイを見つめていると、アヤトキが軽く手を打った。


「やっぱり、楽器のときといっしょじゃない?」

「何? イニシャルってこと?」

「そっちじゃなくて、並べ替えよ」


 そう言うと、アヤトキはアオイの手元を覗き込んだ。

 ペンを止めたアオイが、不思議そうに目を丸くしている。


「ドレミにアルファベットを振ったでしょ?」

「そうだね」

「アルファベットに数字を振ってるんじゃない?」

「でも、アルファベット順はやったじゃん」

「そーじゃなくてェエエー」


 アヤトキの説明が、さっぱりわかんない。

 両手を大きく広げて、大げさに嘆かれた。

 嘆かれても、わからないものはわからない。

 ギブミー説明。


「仮に、仮によ? "ここは、A Y L A T T E C"で、ここにはこのアルファベットしかないとするでしょ?」


 アヤトキの言葉に合わせて、アオイが文字を書き始めた。

 すごい連携プレイ。

 あうんの呼吸。

 仲良しはアンタらじゃないの。


「それで、先頭から順番に数字を割り振るのよ。だから、始まりは8番目のCになるワケ」

「ダブってるヤツは?」

「指示がないんだから、ムシすればいいでしょ!」


 なんて強引なんだ。

 ゴーイングオネエ。

 アオイが、するするとアルファベットの下に数字を書く。

 そして、今度は数字の並びを書いて、下にアルファベットをつけていく。



  A Y L A T T E C

  1 2 3 4 5 6 7 8


  8 1 5 6 3 7 2 4

  C A T T L E Y A 



「──Cattleya……答えは、カトレアです」


 答えがわかるなり、アオイが立ち上がる。

 その手から日記帳を受け取ったアヤトキと、別に何もしていない私が見守る中、アオイはカトレアを探しに行った。

 探せって言われても、どれがカトレアかわかんないし。


「アヤトキ、すごいじゃん」


 ちょっと見直した。

 さっきもかばってくれたし。

 何だろう。急に頼れる感じになってきたっぽい。

 こっちが素なのか。がんばっているのかは、ちょっとわからないけど。


「そーでしょ? たまにはヤるのよ、アタシもね!」


 ウインクされた。

 いらないです。そのサービス。


「ありました!」


 声がした方に視線を向けると、花を持ったアオイが駆け寄って来た。

 見たことのない、白い花。

 フリルみたいな形をしている。


「それが、どうして魔法の花なのォ?」


 アヤトキがごもっともなところをつついた。

 私は知らないから首を振るだけ。

 でも、アオイは両手でそっと茎を握った花を差し出してうなづいた。


「白いカトレアには、魔力という花言葉があります。それかな、と」


 どんな花言葉だよ。

 だけど、アオイが言うのなら正しそうな気がする。

 違っていたとしても、私にはわからないし。

 わからないくせに、でしゃばる趣味もない。


「じゃ、それを石の女の子に持たせればイイのね。さっさと行くわよッ」


 いきなりアヤトキが仕切り始めた。

 先頭を切って歩き出したその背を追いかける。

 振り返って、ついてくるアオイを見てから花の方へと視線を向けた。


 花たちは、静かに待っている。

 土が乾いていたと、アオイは言っていた。

 あまりこまめに水やりはされていない、ということかな。

 管理している人が出入りできるようなドアとかは、特になかった。

 私たちが出てきた、この壁の穴くらいしかない。

 立て看板は古そうだけど、朽ちているという感じでもない。

 "ないしょにしないで"、"うそをつかないで"──あれは、何か意味があるのかな。

 それとも、特にないのかな。なかったら、書かないような気もする。


 展示室に入ると、待ってくれていたアヤトキがすぐに歩き出した。


「ここまで来たんだから、とっとと出るわよッ」

「出られるの?」


 さっきから、謎を解く度にあちらこちらを回されている気がする。

 思わず言い返すと、アヤトキはくるりと振り返って眉を寄せた。


「やだっ、アカネちゃん。ここにいたいの? ダメよ、こんなトコ。危ないわァッ」

「いたくないけど」


 ぐるぐると、あっちこっちを巡らされている。

 何かあるのかと思っても、その度に何かを見つけて、また謎を解くだけ。

 よくわからないけど、何だろう。

 まるで、この建物に本当に探して欲しいモノがあるみたいな。

 誘導されているみたいな。

 そんな気がしている。


「さーて、と。この子よね?」


 石像と彫刻の展示コーナーに入ると、アヤトキは腰に両手を立てて振り返った。

 謎の仁王立ち。

 似合うけど。

 仁王立ちが似合うオネエ。


「うん。そっちだと思うよ」


 前後に並んで立っている石像のうち、前にいる女の子。

 石の台座に片膝を乗せたアヤトキが、ぐっと背を伸ばしてやっと届く位置。

 あんな高いところ、私とアオイだけだったら登って作業するしかない。

 女の子が乗っている台座には、四角形のへこみがある。

 だけど、そこには何も書かれていない。作品名とかないのかな。


「この手でイイ?」

「たぶん」


 どうして私に聞くのか。

 アヤトキの背に手を軽く添えた。

 万が一、ひっくり返られたら私は完全に巻き添えだけど。

 全然、支えられる気はしないけど。

 気持ちの問題だよ、こういうのは。


「あら、やだ! アカネちゃんったら、紳士ね!」

「紳士じゃない」

「やだもーっ、照れちゃって! カワイイんだからァッ!」

「アオイ、それちょうだい」

「はい」


 うるさいアヤトキから顔を背けて、静かなアオイを振り返る。

 うなづいたアオイは、すぐにアヤトキの傍まで寄って花を差し出した。

 きちんと花を受け取ったアヤトキが、それを硬い手に乗せる。

 そして、少し迷ってから、親指と人差し指の間に差し込んだ。


「……」

「……」

「……」


 まさしく、シーン、という感じ。

 何の音もしない。

 アヤトキが警戒しながら周りを見るけど、全く何ともない。

 拍子抜けすぎる。


「──ちょっと、やだ! コレじゃないのッ!?」


 オネエ。頭を抱える。


「カトレアは、正解だと思うのですが……」


 アオイは、困惑しているみたい。

 ていうか、私だって困惑だよ。こんなの。


「ううー、じゃあ、持たせ方とか? やだ、細かいわねェッ」


 ガバッと顔を上げたアヤトキは、その場でダンダンッと足踏みをした。

 まるで怪獣。


「石の娘っていうのも、あってると思うんだけどな……」


 これで違ったのなら、イチからやり直しになっちゃう。


「──ま、いいわ。持たせ方が違うなら何回だってやり直してやるわよッ!」


 元気なオネエが、また石の台座に膝を置いた。

 もう一度、腕を伸ばして花を取ろうと背を伸ばしたとき。

 なんとなく、その膝辺りを見て違和感を覚えた。

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