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1.アカネ、寝起きで迷い込む







 気が付いたら、真っ赤な絨毯が敷かれた廊下に立っていた。

 私は自分の部屋にいたはずで、家の廊下はこんなのじゃない。


「……な、なに、ここ。どういうこと……」


 後ろを見ても廊下。

 当然だけど、前を見たって廊下。

 ドアどころか窓もなくて、ただの壁が左右を挟んで前後に伸びている。

 見覚えは、全くない。

 全く、知らない場所。


「どういうことっ!?」


 自分の声だけがわんわんと反響して、むなしいことこの上ない。











 オッケー。ひとまず落ち着こう。

 落ち着こうねアカネ。がんばれ私。イケるイケる。一旦落ち着こう。

 ていうか、なんで学校指定のジャージ着てんの。だっさ。これホントにキライなんだけど。

 グリーンって時点で、もうまったく趣味じゃないんだよね。

 何この藻みたいな色。何なの、コケ?

 って、いや、今はそんな場合じゃなかった。


 胸に手を当てて深呼吸。

 それから、頬をつねってみる。痛い。夢じゃない。夢であって欲しかった。

 でも、痛い。現実っぽい。


「……何なの、ここ。何なわけ?」


 周りに響くのは、本当に自分の声だけ。他には何の音もしない。

 学校の廊下くらいの幅だけど、窓が一枚もない時点で学校ではない。

 足元の絨毯は、すごく分厚いみたい。

 歩き出しても足音が響かない。

 それどころか、靴裏に硬い感触がほぼない。

 あと、クッションの上に乗っているみたいに、少し沈み込む感じがする。

 進む方向がわからないから、ひとまず向いていた方を進行方向にしてみた。


 だけど、歩いても歩いても何もない。

 真っ直ぐに続く廊下なのに、照明は私の上だけしかついてない。

 そのせいで奥は薄暗いままになっている。

 おかげで、何があるのかも見えない。何これムカつく。


「お?」


 ジャージのポケットに手を入れると、スマホが見つかった。

 これで連絡が取れるかと思ったけど甘かった。

 全く電波が届いてない。いまどき、そんな建物あるのかよ。

 山奥の秘湯かよ。秘密の旅館なのかよ。くっそ。

 これじゃ、電話もできない。

 そもそも助けを呼ぶにしても、ここがどこなのかわからない。


「んん?」


 スマホのバッテリーは、マックス。フル。ガッツリ。

 確か昨日、遅くまでゲームで遊んで、そのまま寝落ちしたはずだけど。

 残量ゼロよりはいいか。

 無意識に充電したのかもしれない。グッジョブ私、よくやった私。


 ふと見上げた天井は、半透明の板で覆われている。

 板の向こうに電球があるのかな。

 私が歩くと、真上と少し前だけが照らされて、光がいっしょに移動している状態になる。

 ちょっと近未来感。

 でも、親切だか不親切だか、ちょっとよくわかんない。

 殺風景さでいうと病院の廊下っぽいけど、違うだろうな。

 それにしても進んでいるのかどうか、とってもわかりにくい。

 距離の目安になるものが、何もないせいだな。

 その場で足踏みしているだけじゃないかと、錯覚してしまいそうになる。


「──あ!」


 声が反響して後ろまで響き渡った。

 自分の声だけど、うるさいな。

 前方に壁らしいものが見えてきた。

 行き止まりかと思ったけど、白いドアだ。

 駆け寄って、ひとまずドアに触れてみる。

 白く塗られた表面。少しザラザラしている。ドア自体は、木製っぽい。


「いかにもって感じだけどなぁ……」


 でも、他に出口があるわけでもない。

 窓すらないんだから、他に選択肢もない。

 怪しいけど。

 ものすごく怪しいけど。

 だけど、だからって来た道を引き返す気にもなれない。


「どうにかなるだろ!」


 自分に言い聞かせて、ドアノブに触れた。

 別に電気が走るわけでもなく、鍵が掛かっているわけでもない。

 あっけなく、あっさりと、ドアは開いた。

 待ってこんなの、怪しさマシマシじゃん。意味わかんない。

 そーっと開いてみるけど、軋む音が鳴る。木材同士がこすれる音。

 おばあちゃんちの古いドアみたい。ギギギギ、ギギギ、あー、うっさい。


「……」


 少しだけ開いて中を覗き込むと、黒っぽい壁と天井が見えた。

 あっちはあっちで、全体的に照明が弱くて薄暗い。

 何にしても、木製のドアと合ってない。ダサい。

 よく見てみると、足元にも照明があった。転ぶ心配はなさそう。

 床には黒っぽい絨毯。何だろう。暗くなった映画館みたいな雰囲気だけど。

 軋むドアを押し開けて、中に入ってみる。

 部屋は広そうだけど、柱や壁で区切られていて、いびつな形っぽい。


「……うわっ」


 ドアから手を離して一歩だけ踏み出すと、急にドアが閉じた。

 あわてて開いてみると、普通に開く。閉じ込められた、とかではなさそう。

 だけど、手を離すと閉じてしまう。開いたままにできたらいいんだけど、無理っぽい。

 挟めそうなものもない。私の持ち物はスマホだけだし、手放す気なんてゼロだし。

 

 あきらめた。


 最初の角を覗き込むと、四角い空間になっていた。

 壁には、ずらっと蝶の標本が飾られている。


「……展示?」


 標本はこれでもかと几帳面に並んでいて、それぞれにプレートがつけられている。

 名前と説明文みたいだけど、ちょっと読む気はしない。

 まじまじと眺める趣味もない。覗き込んだだけで、入らずに別の角へと向かう。

 次の区画には、人形が飾られていた。洋物っぽい顔の、何だろ。フランス人形っていうの。

 そっちはそっちで不気味。最低限の照明に照らし出された人形は、ガラスの箱の中に座らされている。


「やばい」


 何だろ、ここ。コレクションルームとか、かな。

 それだったら、まだフィギュアとか、車の模型とか、そういうやつの方がいい。怖くない。

 やだな、いきなりオタクっぽい人が出てきたら。不法侵入とか言われないよね。


 もうひとつ奥の区画には、ショーケースに宝石が並んでいる。

 高そうだな、とは思うけど、本物かどうかとかは全くわかんない。

 宝石はカットされた状態で置かれていて、指輪とかにはめられているわけではない。

 後ろを振り返ると、向こう側の区画には石像が並んでいる。動きそうでキモい。


 次の角を覗いてみれば、こっちは植物の模型だけが置かれていた。

 丸いドームに入っていて、何だこれ。多肉植物とか、かな。サボテンみたいなのもある。

 くわしくないから、さっぱりわからない。

 何だろ。

 一応、区画ごとに分けられてるっぽいけど、とにかくいろいろ興味がある人なのかな。

 どんな人が管理しているのかとか、わかんないけど。

 博物館とか美術館とか、そういうっぽい場所ではある。個人の家ではなさそう。

 ていうか、これで個人宅だったら気合入りすぎだろ。設備投資ってやつなの。






「あらぁ、ボーイッシュちゃん。アナタも迷子なのぉ?」



 考えごとをしていると、声が聞こえてきた。

 間延びした口調。知らない声。

 急いで振り返ると、そこには



「……えぇえ?」



 青色のチャイナドレスを着た、スキンヘッドのお兄さんがいた。



「えぇぇええ?」



 素直に声が出ちゃう。

 ルックスからして、キャラが濃すぎて吐きそう。

 胃もたれする。

 待ってよ。ここの住人なの、この人。こっわ!





「ちょっと何よアンタ! 初対面から失礼じゃないっ!?」





 顔にも出てたっぽい。


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