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8.シーリングワックスと面談



 6月。

 梅雨という概念も雨季という概念もないはずなのに、やっぱりどこかどんよりして天気の優れない日が続く。ただ、キャメルのジャケットからベストへと衣替えがあったお陰で、私の見た目は少し白色部分が増えたよ!

 今月は、虹色シーリングワックスの入手と、謎のパラメーターチェックの二つが大きなイベント。どちらも6月下旬だから、キャラごとのイベントが多い月……のはず。あんまり期待してない。




 今月からゼヴィアが学園に顔を出すようになり、一部が慌ただしくなっている。

 その主な人がブライアン。そして何故かウィリアム。

 それから間もなく、ウィリアムの行動が一気にライバル的な感じに変わった。

 最初の頃のように眉を下げた表情ではなく、だいぶ真剣な顔で、エディの牽制に動いているんだ。

 ……うん。やっぱり何故か、私を邪魔してるんじゃなくて、エディを邪魔してるんだよね。引き抜き妨害か。

 とにかく、その影響で、週一のお昼のお誘いが完全に消えた。確実に話せる時間だったのに。残念。

 なので、嫌がらせは鳴りを潜めている。

 雨が多くなってるから、カエルちゃんも増えてきてるだろうになー。机に載ってたらほっこりするのになー。ま、もう一度同じ手を使って意地悪するような人なんて、さすがにいないか。


 謎のイベント(?)だった昼食会がなくなったせいで、エディとの遭遇は一気に減った。

 それでも今月は技術棟通いの強化月間。毎日とは言わないけど、ちょくちょく会う。

 会えば、一緒に絵を描いたり合奏したり。今までと同じような交流が続いている。

 それでも未だに、ハイベルグ国への引き抜きの話はない。……引き抜いてくれても、いいのに。ああ、でも、ハイベルグへ行っても一緒にいられないなら、卒業で会えなくなるのと同じか。好きな気持ちが空回ってモヤモヤする。

 エディの方もたまに何かを言いかけるような様子を見せるんだけど、結局考え込んで何も言わない。何を言おうとしてるの?




 技術棟での感性アップのお陰か、体内で感じられる魔力が鮮明になってきている。

 休日にローズと行っているゲームのお陰か、他のパラメーターも特別落ち込んでいる様子はない。

 こちらは順調に、月末へと近付いていく。




 ディーン先生に雑用を頼まれ、クリスに補習プリントの質問を受ける。

 前回と似ている。だから、虹色アイテムは今日かも。

 急いで美術室へ向かったら、エディが絵筆を走らせていた。

 ただここで、キャンバスを準備しながら彼と話し込んじゃったのが問題だった。アルバートやローズと共にブライアンが入ってきたのに、すぐに気付けなかったから。

 いつになく真面目な顔をして何かを言おうとしたエディが、動きを止める。視線は、私の後ろ、美術室の入り口。


「ソフィー」


 少し強めにローズから声をかけられて、ようやく振り向く。

 彼女の視線が、ある一点を捉えている。

 ピン、と緊張が走る。

 あの辺りは……画材が置いてある場所か。

 このタイミングは、あまり良いものじゃないな。私の目の前にこちらを向いたままのエディがいるんだもん。

 でも仕方ない。自分の画材道具入れを持って、目標地点へ何食わぬ顔で近付く。

 絵の具や木炭が置いてある中に、シーリングワックスが紛れ込んでいた。

 これを道具入れに入れても、そこまで不自然じゃない。蝋だって画材にはなるんだよ、一応ね。私は使わないけど。

 エディの視線をさりげなーく遮りながら、これまたそしらぬ顔で、ワックスを道具入れにしまい込む。無事に入手できた。

 ついでに二・三個、パステルを補充しておく。よしよし、カモフラージュもばっちり。今日はパステル画にしよう。


 一息ついて振り返ると――ブライアンとバッチリ目が合った。

 ……これ、虹色ワックスを手に取ったところ、見られてたんじゃない?




 ******




 ブライアンに何かを問われることなく、数日。

 6月最終日、私はウィリアムに呼び出された。




 面談と言われて通された学園の応接室で、懐かしい人と再会した。


「や、待ってたよー」

 

 本来のサポートキャラ、ゼヴィア・ソス。

 6年前に、私に全属性適性があると見抜いた人。

 魔法局局長で、全属性において非常に優秀な魔力を持つ、偉大なる魔法使い。

 そして、


「あっあっあっ、ごめん、カップ倒しちゃった」


 私を迎え入れるために立ち上がった拍子にテーブルを揺らしてしまい、お茶を盛大に零す――ゲーム通り、安定のドジっ子だった。




「久しぶりだねー、ソフィア。

 うんうん、入学して、魔力、増えたみたいだね」


 もう一度淹れ直してもらったお茶を飲みながら、ゼヴが私の顔を眺めている。

 そりゃもう、頑張ってますからね。ペンが足らない分、何とかしようと思ってますからね!


「ちょっと、手、貸して?」


 ゼヴが私の手を取り、集中しはじめた。

 目は開けているけど、どこも見ていないような顔。本当に視覚は機能してないんだろう。感覚で、何かを追っている。

 ああ、6年前にもこうやって魔力測定したんだっけ。一般計測ではよく分からない結果になったから、ってゼヴが呼ばれたんだ。

 しばらくして、ゼヴの目の焦点が元に戻った。

 

「うん、結構増えてる。頑張ってるんだねー。だけど、やっぱりまだ安定してない、かな」

「安定?」

「やはりそうか」


 私の声とウィリアムの声が重なる。

 私の疑問の声を華麗にスルーし、ゼヴが慎重にカップを手に取る。


「ソフィア、ちょっと聞きたいんだけどさ。

 入学してから、変なこと、起こってない?」


 変なこと、とは。

 うーん、前世の記憶が戻ったことじゃ、ないよね?


「具体例を挙げようか? んーと、例えば……何か拾ったり?」

「めちゃくちゃ曖昧な例えですね!? 具体例とは!?」


 思わず突っ込んだ後、気付く。

 ゼヴは、虹色アイテムのことを聞いているんだ。

 答えようとした時、ゼヴの横に座っているウィリアムが、酷く真剣な顔で私を見ているのに気付いた。

 ――この質問、何かある。

 様子を見ようと、答えをはぐらかす。


「変なこと……一番印象的なのは、ブライアン先輩に派手にぶっ飛ばされたことですかね」


 二人が顔を見合わせて苦笑い。

 ゼヴがゆっくりと丁寧にカップを置いてから、私に向き直る。


「うん、はっきり言っちゃおうか。その事件にも関連する話なんだ。

 ブライアンはね、今年度に入って、謎の魔力上昇を起こしている。ボクも確認済み」

「その現象は、何か魔力の塊に触れたからじゃないか、という説が出てね」


 魔力の塊。それが虹色アイテムだね。

 私がその存在を知っているのか、探られているっぽい。

 ……何だか嫌な感じがする。もうしばらく恍けておくかな。


「ボクも現物を見たことがないから、予想なんだけどねー。

 ちょっと前に、ローズがブライアンの話を教えてくれて、それからウィル王子と調査してたんだ」

「ふむふむ」

「ボクとウィル王子は、ソフィアにも関係ある話だと見てる」

「ふむ?」


 虹色アイテム集めてるなんて、まだ言ってないよ?


「魔力の塊を生み出してるのは、たぶん、ソフィアなんだよね」


 何ですとー!?




 目をぱちくりしている私に、お茶を勧めるゼヴ。

 勧められるがままにカップを傾けていると、話の続きをしてくれた。

 

「詳しいメカニズムは秘密だけどね、これはソフィアの魔力が安定していないのが原因だと見てる。

 そんでもって、この魔力の塊、ソフィアが安定しない限り、ポコポコ出てくるよ」


 んーと?

 魔力の塊とは、虹色アイテムのことで。確かに、一年通してポコポコ出てきてたね?

 私の魔力が安定していないから、虹色アイテムを生成しちゃってる? んん? よく分かんない。

 虹色アイテムで魔力が増えるのは、塊を拾った……触った人が、魔力を吸い取ってるって感じ??


 魔力が安定してないって、どういうこと?

 何に対して探られてるの?

 私が『何か拾ったり』するのが重要なの? つまり虹色アイテムを拾うのが問題なの?

 

 少し悩んでから、カップを置いて、シュバッと挙手する。


「たくさん疑問があります! だけど聞いても混乱するばっかりだと思うので、一つだけ聞きます!」

「はい、クラークさん。どうぞ」


 先生になりきったゼヴに当てられて、手を下ろす。


「私は何をどうすればいいんでしょうか!」

「うん、だよねー」


 ゼヴが頷きつつカップを持ち上げ、


「わーっ、ごめん!」


 今度はソーサーを床に落とす。良かったね、割れてないよ。

 ……コントみたいだな。

 ショボボンと肩を落としたゼヴが気を取り直してから、話が続く。緊張感ないなぁ。


「うん、えっとね。ソフィアには、魔力の塊を触らないように気を付けてもらいたいんだ。

 ソフィアが手に入れちゃうと、危ないことが起こると睨んでる。ボクたちは、それを避けたい」


 虹色アイテムを集めるのをやめる? それはできない相談ですよ。っていうか、既に二つゲットしてるしね。

 それに、危ないことって、たぶん魔力暴走だよね。何ならゼヴが助けてください。


 とにかくこれで分かった。ゼヴとウィリアムは、私に虹色アイテムを手に入れてほしくないんだ。

 それなら、虹色アイテムを触らないように気を付けておきます、と口先だけ言っておいて誤魔化しちゃうのがいいのかな?

 …………あ。

 私、気付いちゃった。今までの会話に、罠が仕掛けてある。ふふん、我ながらあったまいーぃ!!


「ちょっと待ってください。ゼヴィア様も現物を見たことがないんですよね? 魔力の塊、どうやって気を付ければいいんです?」


 ウィリアムが、いつかのようにひょいっと片眉を上げる。

 ここで私がすぐに頷いたら、たぶんこの人に突っ込まれてた。セーフ! 何かよく分かんないけどセーフ!!


「そうだよねー。分かんないよね。今のところ予想できているのは、虹色の物質、ってことかな。

 もしかしてって思ったら、触らずにボクに知らせてね」

 

 ゼヴは動じずにニコニコしながら話を続ける。うむ、さっきの罠といい、ドジっ子相手だろうと気を抜けないな。いくら緊張感なくとも、注意注意。


「あと、他にやってもらいたいのは、今まで通りしっかり勉強することかな。

 魔法に慣れれば慣れるほど、ソフィアの魔力は安定していくはずだからさ」


 それならお安い御用! むしろ計画のうち!


「最後にもう一つ。今の話は誰にも言わないこと。

 ソフィアが触るのが一番危ないけど、他の人が触れても問題だよ。

 ソフィアは身をもって経験してるでしょ? ブライアンに飛ばされたこと」


 それももちろん。虹色アイテム、私以外の人の手に渡すわけにはいかないし!




 面談という名の軽い脅迫は、これで幕を閉じた。

 そういえば、ゼヴに魔力チェックされてたよね。これがパラメーターチェックだったのかな?




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