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7.シーリングスタンプ



 5月末。

 二つ目の虹色アイテム。シーリングスタンプ、ゲットだぜ!

 いやー、緊張の連続だった……。

 何が大変だったかって、予想していたブライアンだけじゃなく、ACDE全てが絡んでいたことだよ。

 こんな時だけ多すぎだよね!?




 ******




 時を遡ること数日前。

 日付的にもそろそろシーリングスタンプが出現するはず、と気を張っていた私は、スタンプ出現場所の職員室近辺を重点的に行き来するようにしていた。

 職員室前はAの領域。本当はAに遭遇する可能性が高いんだけど、全くと言っていいほど見かけない。良かったねローズ、Aルートイベントの欠片もないよ!

 で、その代わりと言ってはなんだけど、先生からの雑用を引き受けることが多くなった。

 職員室近辺のパラメーターは教師雑用をこなすことで人柄アップ、だからね。Aとのイベントがない分、雑用を引き受ける確率は上がるよね。

 だけど、雑用で場を離れている間にアイテムが出現したら大変。

 私は急いで雑用をこなし、それによって教師陣からの評価も上がる。で、また雑用を頼まれる。

 どうしろっていうのさ……。


 対策を立てる余裕もなく、今日の授業後も職員室前へ赴いた……ところで、今日は担任のディーン先生に捕まった。

 彼も攻略対象のDなんだけど、全くイベントは起きていない。ただ、目はかけてもらっているみたい。全属性適性者ってことで、上から何か言われてるのかな、って気がする。


「クラークさん、ちょうど良かった。あの……これを教室まで運んでおいてもらえませんか? わたしは今から図書館で蔵書整理があるんです」


 と、眉を下げた先生が、ノートの山の横から顔を覗かせる。

 気弱な先生だから「あの、ですが、もし他に用事があるのなら……」と口籠もってしまう。私は慌てて引き受ける。

 図書館は、ここ職員室を挟む形で教室と逆方向にある。

 ここで断ったら先生は教室へ向かうわけで、行って戻ってきた先生はここを通るわけで、そうなるとここでフラフラしている私ともう一度会うわけで。それはさすがにちょっと気まずい。

 虹色アイテムは気になるけど、ここから教室までならさほどの距離じゃない。急いで行ってこよう。


 で、教室へノートを置きに来たら、珍しくクリスが教室にいた。運動場がデフォルトのはずなんだけど?


「お、ソフィー、ちょっと聞きたいことがあるんだ。今日のこの授業でさ……」


 どうやら、苦手分野の小テストで結果が悪かったらしく、居残りして補習プリントを仕上げていたらしい。

 クラスで味方になってくれる数少ない友人……うん、友人枠にいれていいよね。そんなクリスを邪険にできない。

 急いでいるから少しだけね、と前置きして、隣からプリントを覗き込む。

 パラメーターを気にしてきちんと勉強しているお陰で、何とか教えられそう。基本的な問題の解き方と応用問題のコツを伝えてから、慌てて教室を出る。


 職員室前まで戻ると、遠くからアルバートとローズが連れ立って歩いてきているのが見えた。

 アルバートに軽く一礼して、ローズへ手を振ろう……とした、その時、肩をポンと叩かれた。

 振り返ると、エディがずいっと顔を覗き込んできた。


「ソフィア、最近全然技術棟に来てくれねぇな」


 えっ!? 約束してましたっけ!?

 私の混乱を余所に、表情や声色をフル活用して抗議をしてくるエディ。ナルシスト気味なだけあって、自分の魅力的な見せ方を分かってる感じですね。

 そんな中でも一番責めてくるのが、今日もキラキラ輝く綺麗な瞳。私はこの瞳に弱い。

 うう、悔しいけどカッコいい。あーもう、好きだ!

 ごめんなさい、と無意識に返事しかけて、ハッと気を取り直す。

 いやいや、流されちゃダメだ。

 そりゃぁさぁ、私だって会いに行きたいよ? だから最近、技術棟へ向かうことが多かったけど。でもパラメーター調整のために、中庭とか運動場とか図書館とか、それぞれちゃんと時間作って寄らなきゃならないのよ。

 それに残念ながら、技術棟で待ち合わせるような約束なんて、一度もしてないよね?

 うん、私が謝ることなんてないね? ……ないよね。なんだこの罪悪感。

 

 って! 今はエディに気を取られている場合じゃない。虹色アイテムがかかってるんだから!

 タイミング良く……と言っていいのか、アルバートが背後から声をかけてくれた。


「やあ、ソフィア嬢。ここ数日忙しそうだね」


 穏やかに笑いながら、ローズと一緒に私の近くで足を止める。

 

「何でアルがそんなこと把握してるんだ」


 背後にいるエディがボソッと言ってるけど、私も知らないよ。ローズ経由?


「最近、先生方からよく話を聞くよ。生徒会にスカウトしようか、という話も出ていて」

「お断りします」


 即行で断った。

 私が生徒会役員になっちゃったら、もしかしたらAルートに入るかもしれないもんね。

 唯一メリットとも言えるのは、ブライアンと接する時間が長くなることだろうけど……。

 いや、ブライアンのストーカーはこの際ローズに任せよう。その方が、私もローズも気が楽だもん。


「なんだ、残念。ブライアンとも『いいかもね』って話し合っていたのに」

「アル、いつの間にそんな話をしていたのよ」


 心持ちムッとした様子のローズがアルを(つつ)く。

 

「この前、用事で男子寮に顔を出した時かな。たまたまロビーで会って、その話になったんだ」


 アルバートは男子寮じゃなく、王族・貴賓専用寮。ウィリアムとかエディもそこに入ってるはず。

 それなのにやっぱり何気なく遭遇率が上がってるんですね。ブライアンが主人公(仮)ですもんね。


「おや、話をすれば。ブライアンだ」


 アルバートの視線の先を追うと、向こうからブライアンが歩いてきていた。

 ハッと気を引き締める。

 アイテムが出現するなら、たぶん、今。

 ローズも密かに周囲を気にしてくれている。


 アルバートとブライアンが、生徒会スカウトを断られた話をしている。ついでにエディが彼らに何やら文句を言っている。

 目立たないように周りに気を配ると、ローズがすすすっと立ち位置を移動して、私に目で合図を送ってきた。

 静かにローズに並ぶ。


「後ろよ」


 小声で教えてもらい、横目で確かめる。

 職員室前の廊下に据えられている、腰高のキャビネット。その一番上の段に、虹色シーリングスタンプがあった。

 アルバートたちから視線を外さないようにしながら、そっと手に取る。

 一瞬、何かが身体に入り込む感覚。本能で悟る。これは似たような偽物じゃない。当たりだ。

 そのままこっそりブレザーのポケットに滑り込ませて、


「確保」


 とローズに囁き返す。


 ――不意に、エディが振り返った。

 ギクリと身体を強張らせてしまい、慌てて笑顔で取り繕う。

 もう数秒早かったら見られてたかも。危なかったぁ。




 ******




 夜、自室でローズと向かい合う。

 シーリングスタンプを出して、報告。


「ペンの話と同じ。適当な蝋でスタンプ押そうと思っても、ちっとも押せない。

 身体に変な感覚もあったし、帰ってきてから念のため魔法を使ってみたら、確かに力が増えてる。

 大当たりだよ」


 二人して大きく息を吐く。


「これでまずは一つ。ホント、ローズがいてくれて良かったよ」

「そうね、やっぱり二人がかりで探せるのが大きいわね」

「あと、それだけじゃなくてね」


 今日のドタバタ具合を話す。


「もし私が間に合わなくても、もしかしたらローズが少しだけ引き留められるかも、って」


 その一言に、ローズが力強く頷いてくれた。


「時期を見計らって、ブライアンと極力一緒にいるようにするわ」

「わーん、ありがとうサポキャラ!」


 抱き付いたらすかさず引き剥がされた。ごめんごめん、百合ップルエンドに片足つっこむとこだったよ。




 今回のシーリングスタンプ入手で、少し対策が見えてきた。

 次のアイテム、シーリングワックスは6月末に技術棟の美術室に出現する。

 念のため技術棟へはちょこちょこ顔を出してチェックしつつ、重点的に向かうのはイベント発生時期になってから、かな。


「そういえば、6月はパラメーターチェックもあったわね」


 ローズの言葉に、私は首を傾げる。


「実際に数値化された物が見えるわけじゃないし、どうやってチェックされるんだろうね?」

「確かに。数値化、というだけなら、7月の期末テストの方がしっくりくるわね」


 ローズも合わせて首を捻る。

 でも。もし何らかの方法でチェックされたら、ペンで底上げされる魔力が足りない分、厳しい結果になるのかな。

 ここでひとつ落としても、バッドエンドに直行、って訳じゃない。でも、10月まで三回あるチェックを全て落とせば、バッドエンド。

 それだけは避けないと。


「どういう方法で確認されるか分からないけれど、ここもわたくしができる限りサポートするわ」

「具体的には?」

「魔力値が不安なんだから、魔力を中心に鍛えるのよ。虹色アイテムの注意もしなきゃならないんだから、魔力の上がる技術棟に積極的に行くのは一石二鳥ね。

 でも、そこで他が疎かになるとマズい。

 ひとまず、職員室で上がる人柄と、街で上がる魅力は、後回し。クリアに必要な値が少ないものね。

 気にするのは、魔法精度と、体力と、学力」


 うんうん。


「学力は簡単よ。わたくしが、夜、ここで、勉強を教えるわ。

 これでも学年三位ですからね。アルが学年首席、二位がブライアン、三位がわたくし」


 さっすが! パラメーターでライバルになるはずの人だけあって、凄い実力なんだね!!


「ふふん、もっと褒めてもいいわよ?

 とにかくね、一人で予習復習するよりも、家庭教師がいた方がいいでしょ? 学力はそれで対処。

 魔法精度と体力は、休日に頑張るの」

「え、さすがに休日ナシだと倒れるんじゃ……」

「ふふ、一日中やれとは言わないわ。わたくしも倒れるもの。

 短時間で効率良く鍛えるため、ゲームを取り入れるのよ」


 ゲーム、とは?


「わたくしが、水魔法でいくつも的を作るの。あなたはどんな方法でもいいから、この的を消していく。

 直接殴る蹴るで弾き散らしてもいいし、火魔法で蒸発させてもいいし、水魔法で水滴のシャワーにしてもいいし、風魔法で吹き散らかしてもいいし、土魔法で取り込んで落としてもいい」


 決められた時間でどれだけ的を消せるかの点数制。あるいは全て消すのにかかった時間のタイムトライアル。

 わぁ、面白そう!


「わたくしも、バッドエンドが一番嫌よ。アルやわたくしが怪我をするだけじゃなく、皆が倒れるのだもの。……あなたも、倒れるでしょう?」


 何だかんだと心配してくれるローズ。ね、自分から百合ップルエンドに向かってない?

 いやごめん、冗談だって!




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