表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

3.初イベント(?)



 4月の入学時にペン。

 5月にシーリングスタンプ。

 6月にシーリングワックス。パラメーターチェック。

 7月はなし。期末テストと夏休み。

 8月もなし。夏休み。パラメーターチェック。

 9月にレターセット。

 10月にペーパーウエイト。パラメーターチェック。ルート確定。

 11月にインク。魔力暴走。

 12月はなし。期末テストと冬休み。パラメーターチェック。キャラエンド確定。

 1月にドラゴン戦。

 2月に卒業式&修了式。


 一年の流れはこんな感じ。

 で、ところどころでイベントが起こる。共通イベントとしては、5月の親睦会、10月の体育大会、11月の文化祭。

 欧風なのに9月始まりじゃないんだね、って思ったけど、ま、ヌルゲーだから。親しみやすさ・分かりやすさ重視なんだろうな。

 10月のパラメーターチェックでルート確定。キャラ別になるか、ノーマルになるか、仲良しになるか、友情or好敵手になるか、バッドエンドになるか。

 12月のパラメーターチェックでキャラ別のエンド確定。トゥルーエンドになるか、グッドエンドになるか。


 ってことで、5月のスタンプ入手までは、パラメーター上げと各キャラとのイベントを中心にこなすことになるね。

 出会いイベント、起きなかったんだけど。他のイベントは起きるかなぁ。




 ******




 うん、イベント起きない。ペンか! ペンがないからか!

 それでも諦めきれなくて、何とか起こらないかなーと淡い期待を胸に、今日も校内あちこちを彷徨う。


 各領域はキャラに対応してる。

 Aの職員室近辺で教師雑用(人柄)

 Bの中庭で自主練習(魔法精度)

 Cの運動場で運動(体力)

 Dの図書館で勉強(学力)

 Eの技術棟で感性向上(基礎魔力)

 ライバルの街中ショッピング(魅力)

 自室で休養(変動なし。パラメーター調整)

 

 と、あちこちでパラメーターが上がることになっているんだけど。

 やっぱりその場に赴くだけじゃダメだった。ちゃんと行動を起こさないと力は付かない。そりゃそうだよね。

 でもそのお陰で、イベントは起きないけれど、実力はちょびっとずつ上がってきているのが分かる。それはちょっと嬉しい。

 各パラメーターそれぞれの基準値で分岐が決定するから、どの項目も手が抜けないの。




 何も起こらないまま、既に4月も下旬。

 今日は中庭で魔法の自主練。

 何にしようかな、土かな。

 中庭はBの領域。それぞれの領域で鍛える魔法を選ぶと、それに応じてイベントが起こる。Bとの最初のイベントは、風属性を選ぶと発生する。

 最初に風を選んでも何もなかったから、一通り全部の種類をまんべんなく育てることにしたんだよね。

 今日は土の練習日。

 選択肢としてはこれが最後なんだけど。イベント、来ないかな。




 地面をポコッと小さく凹ませたり、逆に少しだけ盛り上げたり、と、魔法精度を上げる訓練をしていく。

 こういう地味な訓練って案外楽しいんだよね。変化させたところを元通り平らにするのって、結構難しくて集中しちゃう。

 だから、地面に向かって夢中になっていて、気付かなかったの。

 近くの校舎にいたうっかりさんが、三階の窓から大きな花瓶を放り出してしまったこと。


 イベントとしてはベタだよねー。

 中庭でBを見かけたヒロイン。花瓶が落ちてきたのに気付かないBを助けようと、ヒロインは拙い風魔法で花瓶の軌道を逸らす。Bの横に落下する花瓶。

 無事で良かったです、と言うヒロインに、ツンデレBは礼を言った後「もっと強く風を出さなければ安全な場所に落としたとは言えない」「コントロールも学んだ方がいい」と余計なことまで言ってくれる。なんだよ助けてやったのに。正直腹が立つ。そのうちデレるんだけどさ。


 でね。待望のイベント、起きた。

 でも私とBの役割、逆。

 花瓶に気付かなかった私は、


「危ない!」


 という声に顔を上げ、自分に向かって落ちてくる花瓶を見つけて目を見開き、それと同時に吹き飛ばされた。

 花瓶と私が宙に舞う。その向こうに、B――ブライアンの姿。

 何故……。




 ******




 ドン、と地面に打ち付けられた後、衝撃で一瞬気を失っていたらしい。


「きゃあああ!」


 という聞き覚えのある女性の悲鳴と、


「何があった、どうしたブライアン!」


 という聞き覚えのある男性の叫びと、


「とにかく治療するぞ!」


 という、これは、エドワルド?

 何人もの声と足音で、意識が戻ってきた。

 痛みを堪えながらうっすらと目を開けると、私を覗き込んでエドワルドとローズ嬢が光魔法を使い、その後ろに気遣わしげなアルバートと、愕然とした表情のブライアン。

 えーと、何が起こった?


「もう大丈夫かしら」

「念のため、俺が保健室まで連れて行こう。運ぶぞ、ソフィア」


 苦もなく私を姫抱っこに抱き上げて、エドワルドが歩き出す。

 思ったより安定しているけれど、手の行き場がない。視界を彷徨わせていたら捲り上がりそうになっているスカートに気付いて、慌てて裾を押さえておいた。よし、手の位置はここ。


「僕も行く」

「では、私たちも行こう。いいね、ローズ」

「ええ、勿論」


 もう一度問いたい。何が起こってるの? ねえ?

 後ろで話す二年生三人組の話に聞き耳を立てる。


「何をしたんだ、ブライアン」

「いや、花瓶が彼女の上に落ちてくるのを見かけて……」

「で?」

「花瓶の軌道を逸らそうと、風魔法を使った。はずだったんだが」

「彼女を巻き込んでしまったということ?」

「どうしたんだ、君らしくないな」

「いや、それが……」

「うん?」

「今年度に入ってから、なぜか急に魔力が上がったんだ。それで咄嗟に使ったら、コントロールしきれなくて」

「は?」


 ローズ嬢の素っ頓狂な声が響く。


「ブライアン、ちょっと失礼。その胸ポケットのペン、貸してもらえる? ……えーと、今回のことに関してメモを取りたくて」

「ああ、この変なペンか。インクがないから書けないぞ。インクを吸わせようと思っても、なぜか弾いてしまって」

「……そう。綺麗な虹色なのに使えないなんて残念ね。それじゃ、アルに借りるわ」


 ちょっと待て待て。

 それ、虹色ペンですよね? どう考えても虹色ペンですよね?

 え、ブライアンが持ってるの? 何で?


 疑問ばかりが増えていく。

 私の顔色が変わったのに気付いたのだろう、エドワルドが「もう少しだからな、大丈夫か?」と小さく声をかけてくれる。

 うん、ありがとう。カッコいい上に優しいとか素晴らしいよね。

 でもね、今は後方の会話が気になって気になって、それどころじゃないんだ。ごめんね。




 ******




 虹色アイテムは、魔力を増やすアイテム。普段の育成より大きい上昇率でガツンと上がる。で、最後のアイテム入手で魔力暴走事故に繋がる。限界値を越えちゃうわけだ。

 私は全属性に適性を持っているけれど、最初は低いパラメーター。

 一方の攻略キャラ達は、皆、得意魔法の能力が元々高い。

 これを踏まえて考えると。

 虹色アイテムを手に入れてしまったブライアンは、魔力暴走を起こしてしまうかもしれない。それも、ストーリーよりももっと早く。

 既に彼は、急に上がった魔力をまだ完全に制御しきれていない。


 色んな意味でヤバい。

 私の魔力暴走は、好感度の高いキャラか、サポートキャラが助けてくれる。

 だけど、もしブライアンが暴走させたら? 誰が助ける? 彼は今の学園で一二を争う風魔法の使い手。誰が助けられる?

 可能性があるのはサポートキャラ、魔法局長のゼヴィア。だけど彼は常に学園にいるわけじゃない。彼の職場じゃないもの。ストーリーとは違う時期に暴走が起こってしまったら……。

 と、とにかく!

 これは何とかゼヴに連絡を取って対応を考えてもらって……あ、でも、ゲームの話はできないし、どうやってこの危機を伝えればいいんだろ?

 でもでも、とにかくゼヴには連絡だよね! ……って、そもそも、どうやって連絡取ればいいの!?

 本当は、入学式の校門でペンを拾った時に出会っていたはずなんだ。そこで連絡先を聞いて、定期的に訪問できるようになる。

 今はまだ出会っていないんだよ。最後に会ったのは6年前だよ!




 誰もいなくなった保健室のベッドで、一人静かに唸る。

 落ち着こう。うん、深呼吸。すーーーはーーー。

 とにもかくにもゼヴに連絡。たぶんディーン先生に言えば何とかなると思う。担任だから話しやすいし、守護魔法の専門家だっていうならゼヴとも面識があるでしょ。

 で、大事なのは、ブライアンの魔力をこれ以上危険な状態にしないこと。すなわち、他の虹色アイテムの先制奪取。

 うん、よし、方針は決まった。保健の先生に退室許可をもらったら、すぐに職員室へ向かおう。




 もういいよ、と先生に言われ、保健室を出た。早速職員室に向かおうと思ったんだけど。

 廊下でローズ嬢が待っていた。


「突然ごめんなさいね。あなたに聞きたいことがあるの。ええと、お名前は?」

「あ、ソフィア・クラークと言います。先程は助けてくださってありがとうございます、ローズ先輩」

「あら、わたくしのことをご存知?」

「はい、王子殿下の婚約者様ですよね?」

「……そう、そうなのよ、わたくし、アルの恋人なの。ところでソフィアさん、アルのことをどう思います?」


 あれ? えーと、これってAルートでAに二回目に会った後、Rに言われる台詞? まだAに一度しか会っていないよ? いや、あれって会ったって言える?

 とにかく、Rとの初対面イベントが起きているなら好都合。ここで私はAルートを切り捨てる!


「よく知らないので何とも……。アルバート先輩とローズ先輩、並ばれると本当に絵画のようなお二人だなぁ、と、そのくらいですかね。すみません、バカっぽい感想で」


 ゲームの選択肢にはなかった台詞を言っちゃう。ゲームでは「素敵な方ですね」「緊張してしまいます」「あまり好きなタイプではないですね」だったかな。

 まじまじとこちらを見てくる美少女。


「あー……えー……そう。とにかくアルに近付くのはやめてもらえるかしら?」


 言葉に詰まった後に発した、これは選択肢直後のRの台詞だね。

 

「えーと? 近付くも何も、先程初めて間近で見たくらいなんですが」


 接点ないよ、と再度ばっさり切り捨てる。というか、できるだけ接点作りたくない。他の人のイベントのために最低限必要な分だけでいいよ。

 もう一度まじまじと見てくるローズ嬢。


「す、少し質問を変えるわ。あなた、入学式の日、校門で何か拾わなかった?」


 虹色ペンのこと? さっきの会話ではブライアンが持っていたはずの……。

 あ、そうか。もしかして。


「ローズ先輩。私、Aルートには行く気ないですよ?」


 普通は何のこっちゃ、な言葉。だって質問に答えてないもんね。

 でも、もし、これが通じるなら。


「ちょっと! こちらへ! 来てくださいな!!」


 手近な空き教室に引っ張り込まれ、「この際、敬語はなしよ!」と宣言される。

 そして一言。


「『リトールの魔法使い』」

 

 固唾を呑んで私の言葉を待つローズ嬢。

 彼女も「もしかして」を確認しようとしている。

 

「あ、やっぱりローズも? いわゆる転生者?」


 両手を頬に当てて、しばらく固まるローズ。

 ふうっ、と息を吐いて、二人向かい合って椅子に腰掛ける。

 転生者同士の会話、スタートだね。さて、この人は敵か味方か。侯爵令嬢に目を付けられるとか勘弁してほしいんだけどな。

 ちなみに私に敵意はないよ! 伝わるかな?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ