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2.始業日



 入学式の翌日。実質初登校、といった感じかな。

 指定された席に座ると、隣は銅色の攻略キャラC――クリストファーだった。ゲーム通り。

 ただ、男子も女子もゲーム以上に群がっている。将来性を鑑みても、仲良くなっておいて損はない、と、誰でも思うもんね。うん、私でもそう思う。

 そもそもクリストファーは、ゲーム中でも皆の人気者。活発なワンコ系という位置付けで、誰とでもすぐ仲良くなる。主人公とも真っ先に仲良くなる。たぶん、向こうから話しかけてくるはず。

 予想通り、予鈴で人垣が割れたタイミングで、椅子ごとこちらに向き直って自己紹介をしてくれた。


「はじめまして、オレはクリストファー・シヴァル。君は?」

「はじめまして。ソフィア・クラークです。一年間よろしくお願いします」


 相手が有名人だからといって臆してはいられない。こちとらドラゴン討伐の鍵を握っている(はずの)ヒロインだ。積極的に不仲になる必要もないし、むしろできれば仲良くなっておきたい。そしてあわよくば見初めてくれ。君も守備範囲内だ。

 何の変哲もない私の自己紹介に、クリストファーはちょっと仰け反った。


「わ、君が噂の!? やっべー、オレ、ラッキーじゃん!」

「噂……?」

「魔法使う人間なら誰でも小耳に挟んでるはずだよ。オレらと同い年で全属性の魔法使うヤツがいる、って」


 あー……確かに、ゲーム中でもそういう描写はあったかも。こんなにあからさまじゃなかったけど。


「こんなに早く知り合えるなんてマジ幸運。仲良くしてくれな」

「あ、はい」

「固いよ、固い! タメ口で気軽に、な?」


 この最初の会話で、あくまで他人行儀を貫くと好感度が上がらない。……ゲーム的には見え見えのフラグなんだけど……実際にやるとなるとちょっと勇気がいるわぁ……。何てったって、騎士団長の孫、将来の第二王子近衛だもの。

 一瞬言葉に詰まったけれど、ふと、さっきのクリストファーのセリフが蘇る。「魔法使う人間なら誰でも」「知り合えるなんて幸運」。

 ……ああ、そうか。

 これ、好感度うんぬん、じゃないね。

 彼も、さっき自分自身の周りに群がっていたクラスメイトと同じ行動をしているにすぎない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 少しだけ寂しく感じると共に、ちょっとだけ気が楽になった。身分がどうであれ、私にはこの人に対する武器がある! 多少スペックが高かろうが、恐れることはない!!


「わかった。私のことはソフィーとでも呼んで」

「おう、オレはクリスでいいぜ!」


 ニカッと笑う顔に、ときめくより先に安堵した。

 この人が私の魔法を欲する限り、周囲を牽制して悪意から守ってくれるだろう。それができる力を持っている。


「じゃあ、クリス。改めてよろしくね」


 できる限り愛想良く笑うと、一瞬後に握手を求められる。彼の背後に、大きく振っている尻尾が見えた気がした。ホントにワンコだなぁ。

 ただ……恋愛フラグが立った気がしない。




 ******




 初日は授業がない。部活動などの見学は今日から始まるようだから、長い長いホームルームが終わると、クラスメイト達は三々五々散っていく。

 ちなみに攻略キャラD――ディーン先生は、担任だからホームルーム担当してたけど、ここでは何もイベントがない。立ち絵だけ。不自然にならないようじっくり観察しておいた。

 さて、私はどうしようか。殊更のんびりと荷物を片付けながら考える。


 私の名前は、思っていた以上に知れ渡っている。それが分かっただけでも、クリスと話したかいがあった。

 もちろん、魔法と縁のない人間には通じないけれど、少しでも魔法が使える……そう、例えば攻略キャラたちには、名前だけは知られているはずだ。

 ま、だからといってどうするんだ、って話だけどね!


 うーん、まずは、クリスと同様、各キャラと出会うだけは出会っておこうかな。

 ゲームみたいに、キャラと出会って即好感度アップ、なんて、ないよね……なにせ身分が身分なんだし……あったらいいけど……。

 今朝のクリス、好感度上がった手応えなかったし。

 いやいや、深く考えるのはよそう。もしかしたら見初めてくれるかもよ? そう願おう。

 

 Aの生徒会長は、職員室。

 Bの生徒会副会長は、中庭。

 Dの先生は、併設図書館。

 隠しキャラEは、技術棟。

 既に出会いイベントを済ませているCは、次回以降、運動場。

 ヌルゲー仕様、何度も移動できて彼らと一気に知り合うことが可能。

 さすがに人生は周回できない(……たぶん)。隠しキャラと知り合うのは無理だろうから、それ以外を回ってみようかな。


 よし、さっそく行ってみよう!

 と、鞄を持って席を立った、その時。




「あー、いたいた。アンタだろ? 全属性持ちの、ソフィア・クラーク」


 私を名指ししながら教室に入ってきたのは、隠しキャラのはずのE――エドワルド・ハイベルグと、Eルートでのライバル男子W――ウィリアム・マグニフ。

 一体どうして、最高学年の王太子と隣国王太子が、一年生の教室にお揃いで現れた?




 まあ、百歩譲って、二人と会ったのは良いとしよう。隠しキャラとはいえ学園にいるはずなんだし、どこかで出会う可能性はゼロじゃなかった。

 でも、出会うシチュエーションが全っ然違うし、そもそもどうして私の名前を最初から知ってるの? って、そうか、名前だけは知られていたんだっけ。

 でも、クリスの例からして、顔までは知られていないはずだった。よね?

 まじまじとウィリアムの顔を眺めてしまう。目がバッチリ合って、慌てて視線を落とした。やばい、隣国の王太子を不躾にガン見しちゃった。

 だってだって、本物かどうか気になるじゃん? うん、本物だった。

 混乱している私に、何故かEルートでライバルのはずの我がマグニフ国王太子様が眉を下げて口を開いた。


「すまない、クラーク嬢。こいつがどうしても会いに行くって言って聞かなくて。引き留められなくてごめんよ」

「そ、そんな!」


 王太子殿下に謝らせるなんて恐れ多い!! というか、話すること自体恐れ多いっての!

 何と言えばいいのか余計に混乱して……っていうか何を話してもダメだ、この人たちどっちも王太子じゃないか!


「ははっ、そう畏まんな。コイツは気にしないからさ」

「それはそうだが、そんなことお前に急に言われても困るだろう」


 二人の王太子が私の目の前で言い合いをしている。こういうシーン、ゲーム内でも見たことある。

 とはいえ、だから現実では身分がですね? 見ていていいのか不安になっちゃうようなお二方ですからね?

 私、ここにいていいんでしょうか。いいんだよね、私に用があるっぽいし。


「ま、そうだな。まずは自己紹介からだ。コイツが王太子なのは知ってるだろ?」

「ええ。お初にお目にかかります、ウィリアム王太子殿下。ソフィア・クラークと申します」

「だから気楽でいいって」

「お前が代弁するな。……まあね、ソフィア嬢。これの言うとおり、他の人と同じように接してくれて大丈夫だよ。学園内ではね」


 ですよね。外で気軽に話していたら、親ごと処罰されること請け合いですよ。


「で、俺はエドワルド・ハイベルグ。隣のハイベルグ国の王太子」


 ですよね。知ってる。


「なんだ、あまり驚いてないな」

「それは、その」

「いいから、気楽にしろって」


 そうは言っても、ゲームでは中盤まで砕けた付き合いにはならないはずでね。というより、最初から砕けた様子で来られるとは予想外すぎてね。や、確かに強引キャラだけどさ!

 どうしようか。初めての選択肢だ。ゲームなら正解エフェクトとジングルが出るけど、ここは現実だし、そんなことは起こらない。

 と、とりあえず、王太子殿下直々の要請だし、真に受けても大丈夫、だよね……きっと……ヌルゲー、だもの……。普通の上級生に接するくらいで様子見。


「あの……王太子殿下と非常に仲が良いように見えたので。同じ様な立場の方なのかな、と思っていました。いえ、だいぶ驚きましたよ?」


 単なる留学生ではなかったと知った時の衝撃たるや。


「ふうん? ま、俺はウィルよりもっと気軽でいいぞ。ここじゃただの留学生だし」

「エディは砕けすぎだろう」

「で、だ。本題」

「エディ! 自重しろって!」


 ウィリアム先輩(王太子殿下)を適当にあしらって、エドワルド先輩(ハイベルグ王太子殿下)が私を座らせ、自身も横の椅子――クリスの席に腰掛ける。彼の前席に座ったウィリアムは、脚と腕を組んでエドワルドを眺めている。

 何というか……ライバル男士のウィリアム。()()エドワルドに近付くのを牽制しているというより、()()()()()()私に近付くのを抑えているように見える。

 ゲームと、違う?

 違和感に内心首を捻っていると、大きく笑ったエドワルドが私の方に身を乗り出してきた。


「ソフィア・クラーク。アンタが欲しい。俺と一緒に来い」




 ああ、そうか。オーケー、オーケー。

 ときめくより先に、納得した。

 大事な情報が脳裏に再生される。彼は教室に入るなり、「全属性持ちの」と言っている。どこから聞いたのかは知らないけど、囲い込みに来たってことだね。

 全属性が使えるなんて、人材としてはなかなかのもの。そもそも出現率が低い。扱う魔法が実用に足らなくても、血を残すという観点で見れば有用。

 ゲームのように恋愛関係にならなくても、国に連れて行くことはできるんだ。

 そして、ウィリアム、いや、王太子殿下が必死で止める理由も理解した。マグニフ国としては、私を流出させたくない。国内に留めておきたいんだ。

 

 それでも、記憶がなければ、もしかしたらここで頷いていたかもしれない。


 実際にこうして見てみると、凄くカッコいいんだよ、エドワルド。光の加減でキラキラ色を変えるオパールの瞳。透き通るようだけど僅かに色を含んだツーブロックの白金の髪。髪と瞳の色が際立つ褐色の肌。整いまくった顔のパーツ。

 特に瞳が好き。

 実は私の目も、見る角度によって僅かに色を変える。同じく全属性魔法持ちのサポートキャラ、ゼヴィアと同じ。彼は瑪瑙の瞳、私はイエロータイガーアイの瞳。……ゼヴとは違って、ほんの、ほんの僅かな色味なんだけど。ほぼ茶色なんだけど。

 とまあ、エドワルドとは瞳の色がカラフルだっていう共通点があってね。実際に自分がこの瞳を持ってみると、間近で見た彼の目に予想以上に惹かれる。


 だけど、この先に恋愛がどう転ぼうが、どっちみち、ドラゴンが解決するまではここから動けないもの。

 ドラゴン討伐さえ無事に終われば、主なイベントは終わる。それから決めたって遅くはない、はず。ドラゴンはEの卒業式より前のイベントだしね。

 ルートが決まってない今、この場で結論出すのはちょっと違う気がする。

 ということで。


「申し訳ありませんが、少なくともこの一年は、ここで学びたいんです。私はまだ未熟なので」


 現段階では、断る、一択。

 私の言葉に二人の王太子は揃って片眉を上げた。器用だね。私できない。


「ふうん?」

「こら、エディ、圧をかけるな」

「かけてないぞ? いや、残念だから、また誘いに来ることにする」

「やめろ」

「いやー? 俺が諦めるわけないだろう」

「諦めてくれ」


 再びの言い合いを黙って見守る。


「ま、ってことだから。また来るからな」


 にっこり笑ってウインクと投げキッスを寄越してから、嵐のような二人は教室を出て行った。

 不敬ながら思った。もう来なくていい。

 かっこいいよ? 素敵だよ? でもさ、たとえ彼と恋愛できたとしても、隣でガードしているのは王太子殿下。

 ゲームのウィリアムはヌルゲー仕様でそこまで手強いライバルではなかったけれど(それでも隠しキャラのライバルだから、少し難易度はアップしてた)、実際の王太子殿下は手強いどころじゃないでしょ。最難関でしょ。

 二人、とっても仲が良さそうだったからね。ライバルのパラメーター、カンストしてない?

 

 もうさー、ここにBのLが好きな方々がいたらさー、格好の餌食にされてたよ? そのくらいでしたよ? そういや、ゲーム二次創作の同人活動でも、そっち系のクラスタがいたな、そういえば。

 EWとかね。WEとかね。あ、あと、ABとかCAとか……。

 …………。

 いやいや、乙女ゲーだから。きっと二次創作のBたちのLなストーリーは入ってこないはずだから。きっと。




 ******




 二人の王太子との出会いで精神力をガッツリ持って行かれたけれど、出会えて良かったと前向きに捉えよう。うん。

 気を取り直して各キャラの出現ポイントへ行ってみたけれど、こちらでは誰にも会えなかった。

 教室で時間をくったからか、最初の重大なフラグが仕事しなかったからか、それは分からない。

 

 参ったなあ。

 

 最後に立ち寄った中庭でそのままベンチに座り、今後の動きを考える。

 ストーリー通りの部分もあれば、全く違う部分もある。クリスみたいにゲームで見た選択肢もあれば、エドワルドみたいに完全イレギュラーな選択肢もある。キャラの会話だけをストーリーの目安にするのは怖いな。

 他に目安となりそうなのは、日付、かなぁ。長期休みとか、その辺はゲームと一緒みたいだし。

 うーん、最悪、恋愛するのは来年以降でもできる、か。エドワルド以外は卒業しないし。考えるべきはドラゴンかな。悲しいけど。恋愛ゲームのヒロインとして悲しすぎるけど!

 いやいや、諦めるのはまだ早い。恋愛はする! するったらする! ヌルゲーだし、きっとドラゴン戦は大丈夫!

 

 とにかく。まず虹色ペンは置いといて、他の虹色アイテムを探そうかな。楽にパラメーターアップするんだし。

 虹色アイテムは、全部で6つ。ペン、シーリングスタンプ、シーリングワックス、レターセット、ペーパーウエイト、インク、の6点セット。

 何で虹色アイテムが文房具なのかって?

 最終的にそれで国王に手紙を書いて、ドラゴン討伐隊に加わるからだよ!

 これまた恐れ多いな!!


 えーと、虹色アイテムはストーリーが進むと見つかるんだから、それまではステータスアップのために勉強と魔法の練習。

 そしてまずは、次のアイテム、虹色スタンプを目標に……。

 

 と考えていたら、近くの渡り廊下に人影を見つけた。

 鮮やかなピンクゴールドで緩縦巻きの姫ロールヘア。

 ライバル女子R、ローズ嬢だった。




 こちらを見つめる瞳は、零れ落ちそうに大きなサファイアブルー。私よりよっぽどヒロイン顔のお嬢様。

 あれ、こんな所でファーストエンカウントだっけ? 最初に会うのはAとの二回目の接触時で、そもそもまだ一度も会ってない今は、彼女に認識すらされていないはずだけど?

 ……あれか! ローズ嬢にも私の顔と名前が割れてるのか!?

 でも、それをこちらから尋ねることなんてできない。無難に会釈だけして、この場を離れることにする。

 はー、美人だった。羨ましい。キラッキラ。

 あんな素敵な人から王子を奪おうなんて人がいたら、私の方が殴りかかっちゃうかもしれないね!


 ま、A(王子)も攻略対象なんだけどね。Aルートは仕方なくクリアしただけなの。そう、隠しルートのためだけに!

 あのね、私、略奪愛とか趣味じゃないの! ゲームだから我慢できるだけ。現実では無理無理。

 彼女持ちに惚れたことはないけど、もし惚れちゃったら、きっと自分は身を退いて片恋失恋に泣くんだよ。そんなタイプだよ。

 だから、彼女……というより、婚約者のいるAは、こちらから熨斗つけてお返ししたい所存。


 ってね、直接ローズ嬢に言いたいんだけど。言えないよねー。現状、接点ないもんねー。それに、急にそんなこと言われても「頭おかしいんじゃないの?」で終わりだよねー。

 ……というかそもそも、同学年のクリスとか、身分の低いディーン先生とか、まだその辺ならあり得なくもない、かもしれないけど。王子殿下相手にそんな関係になれないよね!? フィクションならともかくさ! やっぱり頭おかしい子認定されておしまいじゃない?

 

 さっき、王太子&隣国王太子のコンビと話したけど。あの程度なら、この学園では普通なんだよね。きっとね。そうだよね。




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