1.1 悪夢
「うわっ!」
ベッドから弾力したように光輝は跳ね上がった。また悪夢か。左手で頭を押さえながらそう一言つぶやく。どうにも意識が冴えていて、そう簡単に寝付けなさそうだった。
最近、悪夢にうなされる傾向に俺はある。よく憑依系の能力者は自分の憑依対象と記憶を共有するという話は聞いたことがあるが、ここまでひどい共有はまず聞いたことが無かった。あまりにもつらくて、昨日先生に相談したのだが、
「悪夢ですか?」
「最近結構悩まされているんですけど、まったく治らなくて…………」
「そうですねー、多分憑依の記憶共有だと思うんですけど、憑依といっても、幅が広いですからね。時代や周りの環境など何かとっかかりはないでしょうか?」
「そう思っているんですけど、いつも火に焼けつくされるようなものしかないです」
「んー」
先生はかなり難しそうな顔をしている。いくら先生といってもこれだけで判断するのは難しいのだろう。
「対象との調和度が低すぎるのか、はたまたただの自分の火の事故などによる火へのフラッシュバックなのかわからないですね。あと、たしか相良君の基礎能力の発火の成績はあまりよくないですよね」
「はい」
「もうすでに入学してから一か月経っているので、おおよそ能力の分類は把握していると思いますけど、一応説明しなおしておきます。大きく分けて能力の分類は発火や氷結などの自然現象に基づいた基礎能力、特別な血統による先天的な遺伝能力、突然変異などによる後天的な多変能力の3つです。そして憑依とは多変能力の代表格の二つのうちの一つです」
「つまり、僕は突然変異したのか、ただの悪夢だったということですか?」
「あと、発火の覚醒や遺伝能力の開花という可能性やもあるのですが、難しいですし相良君の成績や血縁を鑑みてもほとんどないと思うので説明は省いときます。まあ、憑依だと仮定すると、火が発生しているのでおそらく室内だと思います。なので、また夢を見たら何か簡単なものでもいいから見つけてください。そうすれば私としても時代や職業、能力の強度が推測できるので。とりあえずわかったら教えてください。そういいえば、相良君前回のテストですけど…………」
まあ、先生の対話で悪夢の根本的な解決はできなかったが、今回の悪夢で一瞬造形物を見ることができた。光輝は冴えている間にそれを描こうと鉛筆を取り出し机に向かった。