エピローグ
横たわった自分の目の前に広がる紅の火花が散るような星空。手を伸ばせばあの星に届いたかもしれない。だってすぐ自分の顔の近くにまばゆく輝いているのだから。
ただそこには天下統一のプロセスから脱落してしまったみじめな一人の男の姿しか映っていないだろう。英雄と呼ぶには程遠く、悪役と呼ぶにはちっぽけで、悲劇の人と呼ぶには生ぬるい男として記されるだろう。いや、記されすらしないかもしれない。10年もすれば人々の記憶から消え、100年もすれば生きた証さえも消えてしまうだろう。
どこかから、呼ぶ声が聞こえる。だが、応答する気にもなれない。静かにしてほしかった。せめて俺が力尽きるまで。
「若様、またこんな無茶を…………」
いいんだ、これでもう無茶は終わりだ。
「刀をしなやかに、そして力強く…………」
ああ、わかってる。
「もうこれで終わりか?」
そうだ、もうだめだ。
「菊童丸様!菊童丸様!」
ああすぐにそっちへ向かうそろそろなんだ。
「親政は叶いましたか?はやく叶うといいですね」
親政?
「もー、訓練ばっかなんですから。遊んでくれたっていいじゃないですか?」
そういや、そうだったな。だけど、もう一緒に遊べるから待っててくれ。
「ただ私はそんな菊童丸様の姿が好きですよ。ひたむきに頑張るその姿が」
でも、もうだめなんだ。俺には、俺には。
「そんなんじゃ戦えんぞ。早く立て菊童丸。お前には使命が残されているんだぞ。積年の想いが」
目に前に二つ引きの旗がはためく。そうだ、俺にはまだ願いが残されているんだ。長くから続く誇りとともに。そして、次の世代に受け渡さなければならないこの血が、遺伝子が。
「…………まだだ、……こんなもんじゃだめだ」
「おい、立ち上がったぞ!化け物かやつは!?」
周りの兵士は青ざめてゆく。目の前の恐怖に臆するように距離を取る。
「そんなたいそうなもんじゃないな」
男は落ちている刀を拾い上げる。もう重ささえ感じなかった。自然と調和する。この意味をはっきりと理解できた気がする。しっかり構えを取ると、
一閃の光がきらめく。刀はピキッという音ともに刃が崩れていった。
「やはり耐えられないか」
この一言に、ついに足から崩れていく兵士も出始めた。男は改めてわき差しから抜き出す。はたから見てもわかる正真正銘の名刀だった。
「お前いったい何者なんだ?」
「将軍に対してお前か…………まあいい。しいて言うならば片翼の悪魔とでも言っておこうか」
言い終わると颯爽と間を詰め、一撃で3人ほど薙ぎ払った。
燃える御殿の中、立ちはだかるその姿は片翼ながらも黄金の翼を持って羽ばたこうとする神鳥のようだった。