第二話
「・・・様」
声が聞こえる。
誰か分からない、女性の優しい声だ。
「・・・さい。・・・様」
何だ、何が起きている。俺はどうなった。
「・・・お・・・め・・・さい。・・・様」
誰だ、お前は誰なんだ。
「お目覚めください!勇者様!」
―――――――――――――――――――――
ハッと目を、あける。
そこは、今まで一度も見たことがない場所だった。
辺りを見回すと、広さは四方5メートルだろうか。柱もなく、ただ広いだけの部屋だろう。壁や床も真っ白だ。
また、俺を中心にローブの男が七人と、巫女の服装をした女性が一人いた
しかし、更に見慣れないものがある。
魔方陣だ。
勿論、オカルトじみた知識はないが、裕たちとゲームをしているうちに、魔法やら魔方陣やら色々出てくる。
その魔方陣の中心に俺はたっていた。
俺がこの光景に呆然としていると、
「――――――勇者様」
前から巫女服の女の子が話しかけてきた。
「いきなりの召喚にも関わらず、お応えいただき、誠に感謝致します。お分かりかと思いますが、私たちを救って頂きたいのです」
―――――――――召喚。
その事から、俺は異世界転移、もしくは転生したのだろう。
姿が変わって無いため転移だと思うが、それでも俺は背中を刺されてる。それで死んでいたとしたら転生になるはずだ。(その辺りのことはよく分からんが)
しかし、それ以前に気になるのが、俺が勇者だと言うことで、
「ちょ、ちょっとまて!俺が勇者って、一体何の冗談だよ!」
「冗談などではありません。貴方は、私たちの希望の“勇者”なのです」
どうやら、向こうがたは本気らしい。正直、何が起きているのか全く分からないが、話を聞かないことには進まない。
「・・・分かった。何がどうなってるのか分からんが、話を聞きたい。一番偉い人とか居ないのか?」
「この部屋には居られません。ですので、玉座の間に移動してもらう必要があります」
「分かった。なら連れてってくれ」
「その服で行かれるのですか?背中に血痕がありますが」
あぁ、そう言えば刺されてたな。なんか、色々あって忘れ・・・て・・・
「・・・ああああああああああああああ!!!!!!」
「ど、とうされました!勇者様!!」
ヤバイ!そうだ!
刺されたって分かった、あの時!
妹が、一緒にいたんだ。
なんで!どうして忘れてた!守るって誓ってたのに!!
「お、落ち着いて下さい!」
「これが落ち着けるか!」
「一人でパニックになられていてはこちらが困ります!その事を話していただければ、何か分かるかもしれません!」
「分かるわけないだろ!」
「分かります!」
巫女服の女の子が言い返す。そのハッキリとした物言いに対して、息を飲む。
「お忘れですか?ここは、勇者様にとって異世界。勇者様の世界とここでは、出来ることや出来ないことが違うのです」
―――――――――そうだ、ここは異世界。
召喚なんて出来るんだ。だったら、妹のことだって分かるはずだ。
「・・・分かった、話す。だから、何とかしてくれ」
「承知しました。ですが、ここにいるのは『召喚法』の使い手のみ。勇者様が王と話をする間、私が手筈を整えておきます」
『召喚法』、魔法と同じようなものかな?
「本当に頼んでいいんだな」
「勿論です。私は、勇者様の巫女ですから」
その目を覗き込む。
その目には、力強い意志が宿っていた。信用するぶんには申し分ない。
「・・・信用しよう。この世界の最大の誓いは?」
「・・・我が身にかけて、です」
「そうか。それと、あんたの名前は?」
「サシャラです。サシャラ・エルフォールド」
「分かった。言葉だけだが、勘弁してくれ」
「?」
巫女服の、いや、サシャラが首をかしげる。俺は、サシャラに向かって声を張り上げる。
「サシャラ・エルフォールド!私は!我が身にかけて!其方を信用すると誓おう!」
「な!?」
サシャラが、目を見開く。そりゃそうだ。見ず知らずの相手に、いきなりの最大の誓いを贈ったのだから。
周りの男達もざわついている。「勇者様!?」「お気を確かに!」なんて聞こえるが、意識ははっきりしてるからな?
「勇者様!今すぐお取り消し下さい!その言葉は、軽々しく使うものではありません!」
「いや?お前は大丈夫だ。俺がそう判断したから使っただけだ」
「い、今までの会話のどこにそんな確証を「俺ってさぁ」っ!はい!」
申し訳ないが割り込ませてもらおう。大事なことなんでね。
「昔、大変な思いをしてきたから、大体その人がなに考えてるか目を見れば分かるんだよな」
「・・・本当ですか?」
「あぁ、だからサシャラの目を見たとき、こいつは大丈夫だって判断できたんだ」
「・・・そうですが」
サシャラが赤くなって俯く。まぁ、恥ずかしいだろうしな、しゃあない。
「そういうことだ。頼んだぞ、サシャラ」
その言葉に、サシャラは初めて見せる笑顔で、
「はい!」
と、大きくうなずいた。
ちなみに、サシャラは落ちてます