二章
一章からの続きで二章です。
短い話が続くので暇つぶしにでもどうぞ。
「いってぇ‼︎」
はぁ、またやってしまった。
今日から高校生なのに、またベットから落ちてしまった。
相変わらず貧血は治らないし今から聞こえてくる声もおそらく相変わらずだ。
「優〜、早く起きないと遅刻するぞ〜。」
「分かったよ、兄さん。」
義母さんは入学式前に亡くなってしまった。
癌だったらしい。
いつも明るく振る舞って毅然としていた義母さんだったのに。
さすがの兄もその時は泣いていた。
正直僕も泣いていたかもしれない。
僕らとは血が繋がっていなくても親として接してくれていた義母さんだったからだ。
義父さんは義母さんが亡くなってからは家に帰ってこなくなった。
元々僕たちが起きている時間には帰ってこなかったしほとんど喋ってもいなかった。
それに義母さんが亡くなった時に言った言葉には親族は言葉を失った。
「何もしてこなかったくせに死ぬ時も何も残さねぇとわ、薄汚い孤児なんか拾ってきやがるしつくづく失敗だったよ。この結婚は、頼むから来世では関わってこねぇでくれ。俺からの唯一の頼みだ。」
それ以来義父さんとは顔すら会わせていない。
するといつの間にか義父さんの部屋の荷物は無くなっていた。
それ以来叔母さんが面倒を見てくれるようになった。
「優ー!早くしろよー!今日入学式だぞー!」
「ごめんなさい、兄さん。今行くよ。」
桂鳳高校入学式
正直僕が思っていたよりずっと綺麗な校舎だし前みたいに今までよりマシな生活になるだろう。
もちろん兄さんは新入生代表のスピーチをしていた。
喋り方は中学校から変わってないし言ってる事も変わってなかった。
入学式はその後話を聞いて終わりだったから楽だった。
「はい今日からお前たちの担任になった太刀山だ〜。もう高校生だから分かると思うが法に触れることはするな!以上‼︎解散!」
なんか暑苦しそうな先生。
入学式の日はこの後部活見学ある人は昼から着替えてあるけど僕は入る気もないし午前で終わりだ。
帰って本でも読もう。
そう思ってた時だ。
「ねえ!君!」
誰の事だろう。
早く帰ってゆっくり本でも読もう。
「君だよ君!本読みながら歩いてる新入生の君!」
「もしかして僕ですか?」
「そうそう、入学式の時代表スピーチしてた子」
「それ人違いですよ。それは僕の双子の兄です。」
「あ、そーなの?まぁどっちでもいいや。とにかく来てよ。」
なんだろう。せっかく早く帰って本を読めると思ってたのに。
「急にごめんね?僕は桂鳳高校三年、バスケ部主将 林田 潤!君は?」
「一年二組 嵐山 優。」
「優くんか、君部活入る気ないんでしょ?」
「はい、まぁ特にしたい事もないので。」
「だからさ、バスケ部入らない?」
この人、人の話聞いてないのかな。
早く帰らしてくれないかな。
「今日体操服とかも持って来てないので、」
「大丈夫、大丈夫。今日は見学だけの子もいるし!とりあえず見るだけこない」
「はぁ。」
まぁ兄さんはいろんな部活に引っ張りだこだしどうせ一緒に帰らなきゃ行けないしいいか。
「分かりました。見学だけ行って見ます。」
「よし!決まりだな。体育館こっちだよ、ついて来て。」
僕は言われるがままついて行った。
途中に気になるものを見つけた。
「冬季大会優勝?」
「あぁそれ見つけたんだ、そうだよ。一昨年の成績だよ。」
「去年はどうだったんですか?」
「不祥事で出場停止。三年生泣いてたよ、来年はお前らがとってくれって。」
聞いたら行けない事だったのかな。
にしても冬季大会優勝ってまぁまぁの実力だったのかな?
「さ、ついたよ。ここが体育館だよ。」
さっき入学式で来たのに部活となると雰囲気変わるんだな。
「君新入生だよね?バスケ経験は?」
「あ、まだ無いです。」
「え?無いの?ちょっと!キャプテン!」
「どうした?そんなに焦った顔して。」
「どうしたじゃ無いですよ、こんないかにも運動出来ないようなやつ連れて来てなに考えてるんすか!」
その本人目の前にいるんですけど。
まぁもともと入るつもりないしいいですけど。
「ちょっとごめんね、こいつバスケ部が好きだから悪いやつじゃないんだけどなんせ口が悪くてね。」
「はぁ、そうなんですか。」
「まぁそれで人数的にも厳しいわけだわ。」
確かにそうだ。
バスケは五人いないと出来ないはずなのに数えても四人しかいない。
「今日五人目は休みですか?」
「あぁ、うちは三年生が抜けて四人になっちゃったんだよ。だから一刻も早く新入生が必要なわけだよ。」
「それで僕?ですか。」
「そ!一目見て是非入って欲しいと思ったんだよ!」
なんでここまで買いかぶられてるんだろう。
その日はそのまま見学だけで終わったし見ててつまんなくはなかったな。
そんなこと考えてる時だった
「お待たせ!優!」
「あぁ、兄さん大丈夫だよ。」
「また本読んでたのか?」
「いや、林田さんって人に誘われてバスケ部の見学に行ってたんだよ。」
「バスケ部?優が?意外だな〜。まぁ帰ろうか。」
そう、いつも通りだ。中学校の時となにも変わってない。
そう思っていた。
その日は帰ってすぐに寝た。
意外と入学式って疲れるんだなと思った。
「おはよう!優くん。」
「あぁ、おはようございます。」
なぜか二日目でもう名前を覚えられて挨拶をされるようになった。
「今日はとりあえず自己紹介してもらうわ。順番どうでもいいから出身中学と名前言ってくれ。」
自己紹介か、苦手だな。
嵐山って苗字だから絶対最初の方だし兄さんのせいで僕の時は誰も聞いてない。
とか考えてたらどんどん順番は進んでいた。後僕を足して二人か。
最後は嫌だし言った。
「嵐山 優です。嵐山 晃とは双子の弟です。よろしくお願いします。」
すると予想通りの質問だ。
「なんで晃くんは入学のスピーチしてたのに優くんはなにもしてなかったんですか〜?」
また高校でもこんなことになるのか。
僕は正直に言った。
「僕より兄は全てにおいて上だからです。運動も勉強も全てです。」
するとクラスは大爆笑に包まれた。
やっぱりこのまま中学と変わらないのか、そう思っていた。
机に戻ると予想外の事が起きた。
「優くんだよね?よろしく。」
「俺も俺も、よろしくな!」
「君面白いね、よろしくね。」
なんで僕にこんなに集まるんだろう。
こんな事になるとは思ってなかった。
意外と高校でも充実していた。
「おはよう!優くん。」
「あ、おはようございます。」
「なんで敬語なんだよ〜。」
「タメ語タメ語〜。」
なんでこんなフレンドリーなんだろう。
三年の時の玲奈を思い出した。
玲奈とは携帯の番号交換したしメアドも持ってるから連絡はちょくちょくしている。
そんな事を考えていたら玲奈から連絡が来た。
「久しぶり!元気だった?今度の土曜日暇?久しぶりに会って話さない?」
前と同じ話し方だ。
そのメールを読んだ時は少し笑った。
懐かしい、僕も久しぶりに会いたいと思った。
「今度の土曜日ね、大丈夫暇だよ。待ち合わせはどこにしようか?」
そんな文を送った。
するとすぐに返信が来た。
「やった!じゃあ十二時に駅集合で!今度は遅れないよ〜。」
本当かな。僕は読みながら笑っていた。
「わかった。今度は二時間待つ覚悟で待っとくよ。」
「何それひどーい、信じてよ〜。」
「玲奈は前科持ちだからな〜。」
「今度こそ大丈夫よ!もう私彼氏もいるから、デート感覚じゃないし。」
あ、そうなんだ。
その文を読むと少し胸が苦しくなった。
玲奈の事は友達としか思ってなかったし彼氏が出来ても関係ないはずだった。
それなのにどこかモヤモヤして割り切れない気持ちになった。
「あ、そうなんだ。おめでとう、玲奈に彼氏ができるなんて意外だよ。」
「え〜優くんよりは意外じゃないです〜。」
「そうだね、おめでとう。お祝いするよ。」
「ありがとう!もう付き合って三ヶ月何だ〜。」
「そんなに付き合ってるだ!じゃあなおさらお祝いしないとね。」
「ううん、気にしないで。優くんは大事な友達なんだし。」
「それもそうか、そうだ……
僕はそのメールを送るのはやめた。
少なからず好意を持ってたから友達としか思われてなかったのはショックだった。
彼氏はどんな奴なんだろう。
同じ中学の奴かな。
くそ兄さん以外にモテそうな人が出でこない。
こんな時でも兄さんは僕から離れない。
「そっか、じゃあまた土曜日ね。」
「うん!じゃあね〜。」
何だろう。このモヤモヤ。
好きと言うわけじゃなかった。
好きでも恋愛感情ではないと思っていた。
それでも
それでもやっぱり嫌だ。
どこか胸がモヤモヤする。
そんな事をずっと考えていたら約束の土曜日が来た。
僕は約束通りの時間についた。
前と似た服装で行き、おしゃれもしなかった。
「お待たせー!待たせてごめんね〜。」
玲奈の声だ。中学の時と変わらない。
それでも服装はかなり変わっていた。
かなりおしゃれな服だったし化粧もバッチリしていた。
かなり大人の女性の雰囲気だった。
「ごっめーん、また遅れちゃった。」
「いいよ、まだ三十分程だし。前に比べれば全然待ってないよ。」
「それもそうよね。じゃあ行こっか。」
「そういえば今日はどこに行くの?」
「うーん、適当に映画でも行こっか!」
そう言われて一日中いろんなところに行った。
映画館、ゲームセンター、服屋、本屋、本当に一日でいろんなところに行った。
図書館で勉強していただけとは大違いだった。
とても楽しい一日ではあった。
それでもやっぱり彼氏が誰か気になっていた。
そして、
聞いてしまった。
「玲奈の彼氏ってどんな人?」
「え?どうしたの急に〜。」
「いやちょっと気になって、その人って俺の知ってる人?」
「えっとねー、うん。知ってる人だよ。」
「同じ中学?」
「うん。よく知ってる人!」
「俺のよく知ってる人?」
誰だ、俺のよく知ってる人?
中学の時からよく知ってる人?
誰だ?だめだ。考えるほど分からない。
誰だ?
誰だ?
あ、
分かったかもしれない。
けどそれは嘘であってほしい。
頼む、嘘であってくれ。
「もしかして…兄さん?」
「え?お兄さん?」
「そう、晃。」
「えーと、そう。正解。よく分かったね。」
最悪だ。
玲奈もそうだったんだ。
結局兄さんの方に行ってしまう。
結局僕は
兄さんには勝てない。
その後の事はよく覚えていない。
玲奈が何か喋ってたけど聞き取れなかった。
帰ったら兄さんがいた。
「よぉ、おかえり。遅かったな。」
「あぁ兄さん。中学の時の友達と会ってたからね。」
「そうか晩飯どうする?今日は俺が作ろうか?」
「いや僕が作るよ。座ってて。」
僕は晩御飯の調理を始めた。
何を作ったか覚えていない。
手元には包丁があった。
このまま兄さんを刺してしまえば。
いやダメだ。もっと待たないと。
絶好の機会を待とう。
感情だけで動いたらダメだ。
「今日会ってた友達から聞いたんだけど兄さん彼女できたの?」
「え?あぁそうなんだ。誰から聞いたんだ。」
「優?」
「玲奈だよ。」
「え?」
「今日玲奈と会ってたんだ。その時聞いた。」
「……。」
「ごめん、今日は寝るね。兄さん。晩御飯は適当に済まして。おやすみ。」
「優。」
ダメだダメだダメだ
こんな感情兄さんには持った事がなかった。
それでも今日自覚した。
僕は兄さんに嫉妬している。
この嫉妬はいつか必ず返す。
絶対に。
今回も読んでいただきありがとうございます。