表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

全ての意味

数日が経ち、圭太は何度も現場の駅のトイレに行ったり、島川の後妻である加江などに話を聞きに行ったりした。

「事件はどう?」

「うん、まだなんとも…」

圭太は微妙な表情をする。

「オレの家にかかってきた夜中の電話の理由がわかったけどな」

「よくわかったな」

感心する達也。

「オレの推理力、バカにしてるだろ?」

「そんなことね―よ」

「あとは電話の相手。鈴木さんの葬儀の時、生花の中に入っていたヒマワリ。鈴木さんと島川が麻薬の取り引きをしていた理由。この三つがわかればな」

「三つも残ってるのか」

ため息をついてから言った達也。

「恐らく、電話をかけてきた人物が、今回の事件のキ―マンだな」

「さっすが! なんでもわかってらっしゃる」

「まぁな」

得意気な圭太。

「ここが鈴木さんの家だ」

そう言うと、圭太はチャイムを鳴らした。

すぐに志のぶは出てきた。

「どうぞ」

志のぶは優しく迎えてくれた。

今日、二人が行く事はあらかしめ志のぶに電話をしておいたのだ。そして、二人は四畳半の和室へと通された。

「すいません。お茶まで出させてしまって…」

圭太は深々と頭を下げた。

「お構い無く…」

「早速ですが、鈴木さんに何か変わった事とかってありませんでしたか?」

圭太はカバンからノ―トとボールペンを出しながら聞いた。

「何かって…?」

「入院中に様子がおかしいとか…。なんでもいいんです」

「特には…。でも、主人は何度か島川さんと電話しているみたいでした」

志のぶは真っ直ぐ圭太の目を見て言った。

「何を話していたかわかりませんか?」

「それはわからないんですが、薬がどうのこうのって言っていた覚えが…」

志のぶはうる覚えの様だ。

――薬?! きっと、麻薬のことだな。

圭太はそう直感した。

「そうですか。川崎さんとは…?」

「電話はなかったです」

「やっぱり、和菓子店での共通点みたいなのはなかったですか?」

圭太は半ば諦めかけて聞いてみた。

「全くないってわけではないんですよ。たまに職場で会ってたみたいなんです。川崎さんの働いている職場の中にも、主人の働いていた職場が得意先だったみたいで…」

「そうだったんですか」

圭太はノートに書きながら言う。

「川崎さんとはプライベートでも仲良くしていたみたいです。なんでも、うちの主人が川崎さんの中学時代の恩師に似ているだとかで…」

付け加えて言った志のぶ。

――仲良かったんだな。親子ほどの歳も離れてるし…。

「島川さんとの麻薬のことは…?」

恐る恐る、圭太は聞いてみる。

「島川さんが亡くなられた時に、麻薬のことは初めて警察の方に聞きました。まさか、主人が…って思いました。もしかしたら、薬ってのは麻薬のことではないかと思うんです」

「オレもそう思います」

「早いところ、なんとかして欲しいものです」

泣きそうな声で言う志のぶ。

圭太と達也は、志のぶの顔を見るのが辛くて仕方なかった。

「大丈夫です。オレや親父も全力を尽くすので、もう少し待ってて下さい」

志のぶを安心させるために、圭太は“全力を尽くす”という言葉を使った。

圭太の言葉に、志のぶは頷きながら、泣きそうな表情から少し安心した表情になった。

「また家に伺うかも知れませんが、気にしないで下さい」

「全然いいですよ」

志のぶは笑顔で言ってくれる。思わず、圭太と達也も笑顔になった。





午後六時過ぎ、家路に着いた圭太。

圭太と達也が帰ろうとした時、志のぶは孝正の日記帳を持って来た。「持って帰っていい」と、志のぶが言うので、圭太は少しの間、日記帳を借りることにした。

夕食を終え、自分の部屋に戻ると、早速日記帳を見ることにした。

日記帳の内容は、自分の会社のこと、麻薬の取り引きのことなど、日々のことが書かれていた。圭太は日記帳を読みながら、志のぶが言っていたことを思い出していた。

「主人は薄々ガンのことを気付いていたみたいなんです」

志のぶが玄関先で言った。

志のぶの口調からは、孝正にはガンのことは言っていなかったようだ。

「ガンのこと、話してなかったんですか?」

達也が唖然としながら聞いた。

「えぇ…」

「じゃあ、どうやって自分が胃ガンだってこと知ったんだろう?」

首をかしげる圭太。

「主人に言わなきゃって思ってたんです。それで、ガンなどの病気の人が集まる会に一緒に行こうと思って、そのような用紙を引き出しに入れてたんです」

「でも、それだけでは自分が胃ガンだとはわからないんしゃないですか?」

達也はうつむく志のぶに聞いた。

「主人は薬の成分でわかったみたいなんです」

「それでか…」

志のぶの答えを聞くと、納得した達也。

志のぶは用紙を入れておくんじゃなかった、と今もひどく後悔している様子だった。

圭太もガンと気付いていて、なぜそれを志のぶに言わなかったんだろう、という考えだった。

――鈴木さんは自分がガンだと信じたくなかったんだろうな。信じたくなかったけど、この事実を受け止めなくては、と思ったんだろうな。オレらが見舞いに行った時、志のぶさんは病室にいなかったし、自ら“胃ガン”と言ってたからな。

日記帳を読み終えた圭太は、

「疲れたな…」

と、独り言のように呟いた。

そして、ベッドに寝転ぶとウトウトとしてしまい、ついに眠りに入ってしまった圭太だった。




二日が経った。この日は週明けの月曜日だ。

この日の四限目の社会の時間は、担当の先生が休みで自習となったが、クラスの全員は配られた自習プリントをやることもなく、それぞれ友達同士で喋っている。圭太と達也もその中の一組だ。

「オイオイ、学校にまで事件の写真持ってきてるのかよ?」

達也は呆れ返っている。

「まぁな」

「事件バカ…」

小さくポツリと呟く達也。

「何か言った?」

「いや、別に…」

首を横に振る達也。

――特に目立った物ってないな。わからね―問題もあるのにな。

「あ、そういえば…」

突然、達也は何かを思い出したように言いかけた。

「どうした?」

「島川が殺された現場に、ある物が落ちてたのを、圭太に言うの忘れてた」

「ある物ってってなんだよ?」

「赤いルビーの指輪だよ」

達也はすまなそうに言った。

「バカッ! なんで早く言ってくれなかったんだよ?」

「スマン…」

「赤いルビーの指輪かぁ…。待てよ。もしかしたら、写真に写ってるかも知れね―からな」

圭太はそばに置いてあった写真を写真に手を伸ばし、隅から隅までしっかりと見つめた。

「あった! これだ! あれ? この指輪…」

「見たことあるのか?」

「うん。何処かで見たんだけど、何処で見たんだろう?」

圭太の脳裏に、事件当時のことが蘇った。

「そういえば、あの人が…」

「あの人って…?」

「ありがとう、達也!」

「そ、そりゃ…どうも」

達也はキョトンとした声を出した。

――赤いルビーの指輪は、あの人の物だ! 今回の犯人はあの人だ!

圭太は写真を見ながら、心の中で確信した。

そして、午前中の授業が終わって昼休みになると、圭太は急いでトイレへと向かった。校内では携帯が使用出来ないからだ。

圭太がかけた先は、聖一の携帯だ。

「もしもし?」

「親父? オレだ」

「どうしたんだ?」

「島川の殺人現場に赤いルビーの指輪が落ちてたんだ」

圭太は達也が教えてくれた事と写真に写っていた事を、聖一に報告した。

「そうか。こっちもわかった事があるんだ」

聖一は改まった口調になった。

「わかった事…?」

「鈴木と島川が、麻薬の取り引きの理由などがわかったんだ」

「ホントか?」

「あぁ…。例の少年が虚ろな口調で話してくれたよ」

聖一は圭太に二人がやっていた麻薬の取り引きの理由など、全てを話してくれた。

「…そうだったのか」

「どうだ? なんとかなりそうか?」

「大丈夫! 親父の話で、犯人も犯人が残した証拠もわかったからな!」

自信に満ちた口調で笑顔になる圭太。

「それならいいんだが、あまり無茶だけはするなよ」

聖一は圭太の自信に満ちた声を聞いて忠告してくれる。

「わかってるって…」

そう言うと、圭太は携帯を切り、今までの事を整理した。

孝正の見舞いの時、水花から奪い取った手紙と孝正の態度。葬儀の生花の中に交じっていたヒマワリ。圭太の家にかかってきた“殺人の悪魔”という名の脅迫電話。そして、孝正と島川の麻薬の取り引き。

圭太には全てが繋がった。

――なんで、あの人が…? あの人と鈴木さんの関係がわからない。どこでつながりがあるっていうんだ?

圭太は志のぶの家に電話をかけた。

犯人と孝正の関係を聞くためだ。

「あ、志のぶさん? 塚原です。聞きたいことがあって…」

「いいですけど…何か?」

電話越しで志のぶが首を傾げている様子がわかる。

圭太は疑問に思っていることを聞いてみた。

「よく知らないんです。あまり人間関係の話はしてくれませんでしたので…」

「そうですか。ありがとうございます」

圭太は礼を言うと、ヒマワリを思い出した。

――そうか…そうだったのか。犯人がヒマワリを選んだ理由がわかったぞ! あの人はあの理由で、二人を殺害したんだ!





放課後、圭太は達也と水花に事件の事を話した。

「マジで犯人はあの人なのかよ?」

達也は驚きの声をあげる。

水花も同様だ。

「そうだ」

「いつ話すの?」

「明日の夜にでも…」

考えながら答える圭太。

「明日の夜…? 今日にしね―のか?」

「今日でもいいんだけど、オレなりに考えがあるんだ」

「考え…?」

水花はわからない表情をする。

「うん。それは、な…」

圭太は自分の考えを二人に話した。

「それで大丈夫なのか?」

「大丈夫だ」

言い切る圭太に、達也と水花は顔を見合わせた。

「そんなに自信があるんなら、オレらも手伝わね―とな」

「そうだね」

「二人にもちゃんと活躍してもらうぜ」

圭太は明日の夜のことを考えながら言った。

「あ、いけない! 私、今日、早く帰らなきゃ行けなかったんだ! 私、行くね!」

水花は急いで立ち上がり、カバンを持って立ち去った。

「ボーッとしてるとけあるな」

達也は苦笑しながら言った。

「確かに。ま、そういうとこが水花ちゃんのいいところなんじゃね―の? それに、水花ちゃん、オレに好いてるみたいだし…」

「何言ってんだよ? 絶対そんなことね―し…」

ふくれる達也。

「もしかして、妬いてんのか?」

「そ、そんなんじゃね―って!!」

赤くなりながら、達也は大声を出す。

「そっか、そっか」

圭太はニヤッと笑いながら、一人で納得していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ