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圭太の思い違い

「圭太君、事件のこと何かわかったの?」

水花が圭太に聞く。

京ノ助の事件から二日経った土曜日、達也と水花の二人が午後から圭太の家に遊びに来ているのだ。

「いや、全く…」

首を横に振る圭太。

「そっか」

「オレなりにヒマワリの花言葉の意味を噛み砕いて調べてみたんだけど、難しくてよくかわんね―んだよな」

そうぼやきながら、圭太は数学のノ―トの最後のページを開ける。

「なんで数学のノートなんだよ?」

達也は意味がわからない様子だ。

「手元に紙がなかったからな」

圭太の答えに苦笑する達也。

「で、意味ってのは?」

水花は圭太を急かす。

「大きいヒマワリの花言葉が、傲慢とあなただけを見つめている。後者は誰でもわかるからそのままにしておくから、前者の傲慢の意味は、横柄で人を侮ること」

そう言うと、圭太はお茶を飲む。

「小さいヒマワリの花言葉が、崇敬と憧憬。意味のほうは、崇敬がうらまうことで、憧憬は憧れなんだ」

「そんな意味があるんだな」

達也は納得するように言った。

「でも、これだけじゃ、ね」

水花は圭太の書いたノートを見ながら呟く。

「そうなんだよ。花言葉の意味がわかっても仕方ないんだって」

圭太は途方に暮れた言い方にする。

「あ―、わかんね―」

そう叫ぶと圭太のソファに寝転がる。

「まぁ、そう焦るなって…」

「焦るなって言われてもなぁ…。もし、鈴木さんの死が殺人だとしたら、犯人は二人も人を殺害してるってことになるんだよな」

「まぁな」

達也も頷き、わからない表情をする。

「鈴木さんと島川の密売の証拠は…? 警部さんに断言したんでしょ? 二人の密売の証拠を見つけるって…」

水花が心配そうに言った。

「思い当たる物証はあるんだけど、イマイチ確信がなくて…」

圭太は目を閉じて答える。

「珍しいな。圭太の自信のない声、久しぶりに聞いた」

「えっ…?」

達也の言葉に、圭太は目を開け、達也のほうを見た。

「圭太が心配ない時、沈んだ声になる」

「オレの事、よくわかってんじゃね―か」

圭太はふっと笑う。

「当たり前だって」

得意そうな笑顔を圭太に見せる達也。

そんな二人を、水花は微笑みながら見ていた。




その日の夜のニュースでは、二日前の京ノ助の殺害に関する報道がされていた。

――まだ何もわかってね―のにな…。

圭太はニュースを見つつ思う。

「はい、圭太」

風呂から上がってきた聖一は、マグカップに入れたホットミルクを手渡した。

「ありがとう。事件のほうはどうなんだ?」

聖一からマグカップを受け取りながら聞いた圭太。

「なんとも言えないな」

「ふ―ん…」

「今日、鈴木の死も殺人だと認められた」

「何?!」

「鈴木の死がおかしいと感じた主治医が、調べたところ鈴木の体内から、睡眠薬と精神安定剤が発見された」

聖一はコ―ヒ―を飲んでから言う。

「それは胃ガンと結びつくのか?」

「今、調査中だ。しかし、睡眠薬と精神安定剤は、薬物と一緒で精神や身体的依存が多いんだ。脳への作用は、抑制される。頼りすぎるのもダメだ、と主治医は話していたよ」

聖一は孝正が言っていたことを説明しながら話す。

――睡眠薬と精神安定剤か…。

「もしかして、麻薬の密売に関係しているのか?」

「確証はないが、恐らく関係しているだろう」

「わからない事が多すぎてお手上げだな」

圭太はため息をついた後に言った。

「そういえば、鈴木さんてどういう人? 何度か会ってるけどよくわかんね―」

「成績優秀で学級委員長をやってた」

「中学から高校まで六年間、一緒だっけ?」

「そうだ。中学も高校も生徒会に入ってたんだ。会長をやってたよ。柔道部も一緒で、柔道はまぁ上出来だった」

聖一は遠い目で思い出すように言った。

「親父は柔道は強いけど、勉強は全くだったんだろ?」

圭太は冗談まじりで笑いながら言う。

「放っておけ。鈴木は性格も良くて明るいし、羨ましいくらいに女子にモテてたよ」

聖一は当時の事を羨ましげに言った。

――明るい…? そうだったっけ…?

首を傾げながら思う圭太。

「親父、鈴木さんて明るかった? 少なくとも、オレが会った時はそんな感じじゃなかったけど…」

圭太は独り言の様に言う。

「そうか? 鈴木は昔から明るい性格だぞ。入院中もずっと」

「えっ? 入院中も…?」

「あぁ…」

――鈴木さんが明るい性格…? そんな…。

圭太は自分の記憶違いなのか、なんなのかわからずにいた。

「圭太の目には、鈴木はどう見えていたんだ?」

聖一は圭太の様子に異変を察知し聞いてみた。

「オレには落ち着いたさっぱりした人だなって…。穏やかだったしさ」

「そういう風に見えていたのか…」

「今回の事件とは関係ね―とは思うけどな」

圭太は自分の頭をかきながら言う。

「今のところはな」

――ますます深くなっていく事件だ。今回は今まで以上にてこずりそうだ。でも、なんでオレの目には、鈴木さんが落ち着いたさっぱりした感じで、穏やかに見えたんだろ?

「他人には鈴木さんてどう見えてたと思う?」

圭太は考え事をした後、聖一に聞いた。

「さぁな。人の見え方は色々だからな。オレの学生時代の友人や同級生は、オレが言ったとおり明るくて成績優秀な人物って答えるぞ」

聖一はきっぱりと答えた。

「そうなんかな…」

まだしっくりしない圭太。

「お、もう十一時だ。そろそろ寝る時間だ」

「あ、うん…」

圭太はホットミルクを一気に飲み干して、自分の部屋へと向かった。

しかし、孝正の事で寝付けず、結局、圭太は十二時過ぎに眠りについたのだった。






翌日の放課後、圭太と達也、水花の三人は、帰り道にある公園に寄った。

「…どう思う?」

圭太は昨夜の聖一とのやり取りの中で出た、孝正の事を二人に聞いてみた。

「一度しか会った事ないけど、オレは大人しい人だと思ったぜ」

「私もよ」

二人は圭太と似たような意見だ。

「…だよなぁ。オレも何度か会った事あるけど、とても明るい性格の人って感じじゃなかった」

圭太の脳裏には、今までの孝正の人柄が浮かんだ。

「年のせいってのもあるんじゃないの?」

水花は公園で遊ぶ小学生を見つめて言った。

「年のせい、かぁ…」

「昔は明るくても、四十代とかになると落ち着くって言うし…」

「そんなもんなかなぁ…?」

「鈴木さんの事で前に進めね―んだろ?」

「まぁな」

圭太は苦笑する。

「島川と何かにある、とか…? そのせいで、鈴木さんの性格が落ち着いて見えたって感じでなんじゃない?」

「まさか…。鈴木さんと島川は…」

そう言ったとたん、圭太の携帯はバイブした。

「お、メールか?」

達也と水花は、圭太の携帯を覗き込む。

「“鈴木と島川の関係は、五年前から始まっていたようだ”って…」

圭太は聖一からの来たメールを読んだ。

「五年前か…」

――ちょっと待てよ。オレはすごい思い違いをしてたんじゃ…? 今、水花ちゃんが言った島川との関係で、落ち着いた性格のフリをしてたんじゃないのか? オレが初めて鈴木さんと会ったのも、五年前からだし…。

圭太の脳裏には、色んな考えが巡った。

「圭太君…?」

「水花ちゃん、ビンゴかも知れね―ぜ!!」

「えっ…?」

水花はよくわからない表情を、圭太に向ける。

「今、言った事だよ。島川と何かあるって…」

「ホントに…?!」

水花は驚いている。

「水花ちゃん、やったな!」

達也は水花にピースをする。

水花は嬉しそうに頷く。

――島川が鈴木さんに指示したものか? あの落ち着いた性格は…。でも、なんで…? それにあの態度は…。

圭太の中で、少しの謎が解け始めた。

「水花ちゃんから手紙を奪い取った鈴木さんの態度、なんとなくわかったかもしれない」

「マジで?!」

「うん。さっきの水花ちゃんのヒントでな」

「教えてよ」

水花はボソッとお願いしてみたが、

「いや、ダメ」

「え―っ、なんで―?!」

「今すぐには無理だって」

――なんとなくだけど、一つだけがわかったぞ。でも、いくつかの問題が残っている。全ての問題がわからね―とな。

圭太はすっかり考え込んでしまった。


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