トンデモ本「人類は鳥類だった!」付録童話(番外編) 「ニンゲンによる被害抑制に関する委員会 第二回会合」
(鳥代表)「それでは、本日も神様のご出席を頂き、ニンゲンによる被害拡大の抑制について、引き続き審議して参りたいと思います。今回も、私が議長を務めさせて頂きたいと思いますが、ご異議ございませんでしょうか。」
(「異議なし。」の声あり。)
議長「ご了承頂けましたので、再び務めさせて頂きます。では、ご質問のある方、挙手をお願いします。」
(挙手あり。)
議長「カモメ君。」
カモメ「チドリ目カモメ科のカモメでございます。私からは、先回お話しに出ましたグローバル宗教、これにつきまして確認を致したいと思うのでございます。私の認識を申し上げますので、間違って居れば、指摘を頂きたいのでございますが、民族宗教からグローバル宗教への転換は、マニ教によってもたらされた、という風に思うのでありますが、これに間違いはございませんか。」
議長「神さま。」
神様「担当の天使からお答えいたします。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「仰るとおりで間違いございません。」
議長「カモメ君。」
カモメ「有難うございます。このマニ教は、私が聞き及んでいるところでは、ニンゲン局の直轄事業として創立されたとの事でありますが、これが事実であるのか、またその政策意図、と申しますか、どう言うものを、どう言う目的でお作りになったのか、ご説明頂きたいと思います。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「まず、目的から申し上げますと、過去において既に廃止されております「マニ教設置法」にあります通り、民族固有神を越える神様をお祀りすることで、宗教の効力が及ぶ範囲を、民族を越えて拡大させて行く事でございました。当局の直轄事業であるとのご認識も、事実と相異ございません。また、如何なる教えであったかと申しますと、生命のあるものに一切の差別を設けない、ニンゲンであろうと野菜であろうと、生命という次元では全て平等である、と考える事が、本旨であったかと思います。」
議長「カモメ君。」
カモメ「法律に基づいて設置された事は存じませんでした。不勉強で申し訳ありません。さて、そのような素晴らしい教えが、どうして滅亡してしまったのか、これについて教えて頂きたい。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「マニ教設置の主旨から致しますと、ニンゲンにグローバル宗教という手法があるという事を知らしめる、これが第一の使命でございましたので、ニンゲンがこれを修得した事が確認できた時点で、役割を終えたと見なす事ができた訳でございます。また、一般的にグローバル宗教と呼ばれておりますが、行政用語としては民族超越宗教でございまして、官立の民族超越宗教であるマニ教が、民間のそれと競合する状況となりましたので、段階的に事業を縮小し、廃止に至ったという事でございます。「マニ教運用規則」その他におきましても、他の宗教との対立は避けるよう規定されておりまして、これは天使がニンゲンと対立したり、ニンゲン同士の対立を煽る事は厳に慎むべき事であるという主旨から、このように規定されておりました。従いまして、施策の進展に伴って、マニ教はニンゲンから見ると滅亡した、という事になるのでございます。」
議長「カモメ君。」
カモメ「それは残念な事でもあると思いすが、仕方がないですね。それから少し遡って、ニンゲンが民族超越宗教という手法を会得して、官立のマニ教と競合するようになった、その展開についてご説明頂けますか。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「その顕著な例としましては、マニ教の信者であったアウグスト何某がキリスト教に転向し、キリスト教に民族超越宗教という要素を取り込んだ、という事例を挙げる事ができるかと思います。マニ教の設置に前後して、キリスト教というものが広まりつつありました。キリスト教は、ご存じの様に、他民族の虐殺を積極的に行い、凶悪化しておりました民族宗教であるユダヤ教を穏和化する措置として、当局の嘱託であるキリスト臨時行政官が、ユダヤ教の改善措置を行った結果、ユダヤ教そのものの改善には至らず、他の宗教が、いわばスピンオフした、新たに派生した、というものなのでございます。従いまして、キリスト教も当初からグローバル宗教であった訳ではなく、アウグスト何某による変革を経て、グローバル化した、という経緯にある訳でございます。この宗教が台頭して参りましたので、競合を避けるため、事業範囲を移動ないし、縮小したのでございます。」
議長「カモメ君。」
カモメ「有難うございます。そうしてグローバル宗教、グローバル宗教という言葉で続けさせて頂きますが、これが発展し、現代に近づくにつれ、グローバル宗教同士の軋轢が高まって来ている。それに対する対策として、科学の発展によってニンゲン自らがその調整を図れるようにしている、とのご発言がありましたが、この科学の発展についてはどの様になさったのですか?」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「これにつきましては、当初、イスラーム教圏内において試行しておったのでございますが、科学の発展に伴って、素朴な信仰の良さが失われるとの危惧がニンゲンの間で高まり、結果としてガザーリ何某による原点回帰の運動により、この計画は頓挫いたしました。合理的な思考に慣れたイスラーム教圏のニンゲンでしたが、イスラーム教当初の信仰に戻れるほどの合理性を、イスラーム教が持っていたため、戻る事が可能であったのでございます。そこで、施行地域をキリスト教圏に移す事に致しました。キリスト教の主要会派は、ニンゲン同士の政治的な駆け引きの結果、神様と私共と当該臨時職員を同じもの、一体と見なす教義を確立いたしておりました。(議場、笑いあり。) このような神様に対して失礼極まりない、当然、行政罰を課すべき教義を掲げておりましたが、神様の寛大なご措置により、静観しておった訳でございます。このキリスト教圏におきまして、科学的思考を普及させましたところ、信仰と学問の分離が生じました。当該施行地域におきましても、素朴な信仰への回帰運動は起こりましたが、合理的な思考に慣れたニンゲンが、先程申し上げた不合理な教義の中に留まる事ができず、結果として信仰から学問を完全に分離する事ができたのでございます。」
議長「カモメ君。」
カモメ「キリスト教の不合理な教義を放置しておいて、それを利用したという事ですね。よく分からせて頂きました。ですが、信仰から分離された学問によって、無神論なるものまで生じて、道徳の荒廃がもたらされている、という点については如何お考えですか。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「宗教的な絶対的価値観から離れ、ニンゲン自らが価値基準を打ち立てていくという過程にありますので、無神論による道徳の荒廃は一過性のものであろう、と考えております。」
議長「カモメ君。」
カモメ「有難うございました。私からは、ここまでと致します。」
(挙手あり。)
議長「ハシブトガラス君。」
ハシブトガラス「スズメ目カラス科のハシブトガラスでございます。先回、ハシボソ君が質問に立たれたので、対抗心を燃やして出てきたと思われては困るのですが、(議場、笑いあり。)我々はハシボソ君と違って、ニンゲンが郊外と呼んでいる地域に主に住んでいる関係上、環境問題に敏感になっております。そこで、この環境問題について質問を致したいと思うのでありますが、ニンゲンは自分達の居住地域や、よく行くような場所、観光地と言うのでしょうか、これについては良い環境を維持しようとしておりますが、それ以外の場所にしわ寄せをする事をもって環境対策、と言っている様なのであります。あたかも、海が一つであり、空が一つである事を知らないかのような、愚かな行為が見受けられるのであります。中でも、様々な排気ガスにより、大気の組成まで変えてしまうのではないかと危惧しているのでありますが、何らかの指導をニンゲンにするべきなのではないか、とこう思う訳であります。これについて、ご見解を頂きたいと思います。」
(議長席周辺で、暫時協議がなされる。協議終わる。)
議長「地球環境局長。」
地球環境局長「地球環境局からお答えします。当局と致しましては、この点について心配は致しておりません。酸素濃度一つを取ってみても、歴史的には大幅な変動を致しており、大気の組成もどうあるべきかという絶対的な基準というものはございません。大気の組成の急激な変動によって、生物によっては進化しても適応できない、という事例が生ずる事はあるかと思われますが、それについては私共の管轄ではありませんので、私からの答弁は控えさせて頂きます。また、ニンゲンの棲息活動による変動は、いまだ軽微と考えております。従いまして、ニンゲンに対する行政指導の必要性は視野に入ってはいない、という事でございます。ただ一点申し上げるべき事は、ニンゲンは放射性物質を産出いたすようになりました。特にプルトニュウムのように、地下にも埋設していない物質を産出し、しかも大気中に放出しておりますので、この影響につきてましては注視いたしておるところでございます。」
議長「ハシブト君。」
ハシブトガラス「そうですか、分かりました。では、環境破壊と生物の関係を、進化という観点からご説明頂けますでしょうか。」
議長「進化管理局長。」
進化管理局長「今ほど、地球環境局長の説明の中にもありましたように、急激な環境の変化は、生物種によっては、絶滅をもたらします。環境の変化に進化が追いつかない、という事は、今までにも頻繁に発生しておりまして、これをどの程度許容するのか。現在のニンゲンの活動によって、どの程度の環境変化が起こり、どれだけの生物種が滅びるのか、という事は現時点では見通せてはおりませんが、私共と致しましては、今のところ許容範囲内にあると判断しております。全ての現存生物種にとって快適な環境を保証するという事を、当局から要請する事はございません。ご期待に沿えない答弁で誠に申し訳ない次第でございますが、(議場、笑いあり。)しかし歴史的に顧みますれば、酸素濃度が高すぎて生物に危険である時には、酸素を消費し、二酸化炭素を排出する生物を生じさせ、二酸化炭素がアンバランスに多い時には、二酸化炭素を消費して酸素を排出する生物を生じさせて、その都度、生物環境の整備に取り組んで参りました。その論で申し上げますと、放射性物質が常態として存在するようになれば、その放射性物質を必須栄養素とする生物を生じさせて、当該物質の無害化に取り組む、という事も視野に入れて検討を致して居るところでございます。」
議長「ハシブト君。」
ハシブトガラス「個々の生物に関しては、必ずしも快適ではないが、大きくは生物が生存可能な環境を維持して行く、というご答弁でしたので、必ずしも私が期待したお答えではありませんでしたが、大きな意味で我々は守られている、という事は知る事ができました。では最後に、同じ問題につきまして、ニンゲン局の見解を質したいと思います。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「当局におきましては、ニンゲンによる環境破壊は重要事象である、と認識いたしております。と申しますのも、ニンゲンの活動が他の生物種の存続を危うくする事を防ぐ事も、我々の任務であるからであります。あらゆるチャネルを通じまして、ニンゲンに自然保護の有益性を通知して参りました。宗教の分野におきましては、ニンゲンが啓示と呼んでおります所の行政指導において、この事は頻繁に通知しております。科学の分野におきましても、ニンゲンが自ら気付くよう、適正に対処してきたと考えて居るところでございます。」
議長「ハシブト君。」
ハシブトガラス「ただ今の、適正に対処してきた、というところですね、科学の発展を促すよう適正に対処してきた、というところが分かり難いのですが、ご説明願えますか。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「宗教という行政手法であれば、指導や通知を直接ニンゲンに対して行う事もできますが、科学の発展はニンゲン自らの力によってなされなければなりません。その為、この手法においては、間接的な示唆や偶然と思える事象によって、科学の発展を促して行く事になります。このような意味において、適正な対処を行って参った、という事でございます。」
議長「ハシブト君。」
ハシブトガラス「分かりました。私からは以上です。」
(挙手あり。)
議長「ツバメ君。」
ツバメ「スズメ目ツバメ科のツバメです。ハシブトさんの質問の関連でお聞きします。本委員会の主旨とは少し離れてしまうかもしれませんが、是非お聞きしたいと思いますので、宜しくお願いします。先程、局長が答弁して下さった進化管理局の業務と、神様のご創造との関係性について、教えて頂きたいと思います。」
議長「進化管理局長。」
進化管理局長「お答えいたします。当局の業務は、進化の企画、進化の合理性の評価、また生物の進化による影響の精査などとなっております。但しこれは、神様のご創造を妨げるものではございません。神様がどの様な生物をお創りになり、またどの様に変化させようとも、ご自由であるという事は当然の事でございます。私共が司っておりますのは、不合理、不連続な進化を厭われる神様のお心に沿って、原理原則に適った、より合理的、連続的な進化はいかなる道筋によるべきかを考究致すことでございます。また、どの様な進化が必要であり、望ましいのか、どの様な進化であれば、より可能性が広がっていくかを探求し、立案、ご提言をさせて頂いております。」
議長「ツバメ君。」
ツバメ「分かりました。私からは、これだけです。」
(挙手あり。)
議長「シジュウカラ君。」
シジュウカラ「スズメ目シジュウカラ科のシジュウカラでございます。本日最後の質問になるかと思いますが、宜しくお願い致します。私からは、ニンゲンによる言語の研究に関する事を、質問致したいと思います。お手許の資料をご覧頂きます。これは最近、ニンゲンが報道しておりますところの、私共の言語に関する研究成果でございまして、漸くニンゲンも私達の鳴き声に言語構造が有るという事を発見したとなっているのでございます。(議場、笑いあり。)お互い様に、呆れて物が言えないとはこの事だ、という感を強くする訳でございます。とは申しましても、今までの事は致し方ございません。今後、この研究が進展し、ニンゲンが我々とコミュニケーションを取れるようになるのか、ニンゲン局の関与を含めて、お尋ねしたいと思います。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「お答えいたします。この研究は当局が関わっているものではございません。ニンゲンが自主的な活動として、解明に取り組んでいる、とお考え頂きたいと思います。当局と致しましては、この研究がどの様に進展し、いかなる結果に結びつくのかを、注視している所でございます。従いまして、ニンゲンと皆様が意思疎通を行えるように我々が企画したものではございませんし、意思疎通が可能になった事を利用して何かを行うという、政策的目的というものもございません。」
議長「シジュウカラ君。」
シジュウカラ「ニンゲンにしては良い研究をしているという事ですね。(議場、笑いあり。)この研究が進展して、我々との完全な対話が実現すれば、我々がインタープリーターとなって、天使からの通達を直接ニンゲンに通知する事が出来るようになるのではありませんか。そうすれば、ニンゲン局による間接的な関与や、ごく少数の能力者を探し出し、行政指導を行うような事ではなく、飛躍的なニンゲン社会の改善が見込めると思うのですが、これについては如何お考えでしょうか。」
議長「ニンゲン課長。」
ニンゲン課長「これは私から申し上げるのは憚られる事であるのですが、ここにニンゲン行政の難しい点がございます。ニンゲンに直接関与し、細部に至るまで指示を与えると、ニンゲンは自ら考え、行動する事を怠るようになります。この神頼み、という心理状態になりますと、ニンゲン及びニンゲン社会の成長は停滞するようになります。それをバランスさせるために、主体的な信仰を振興いたしますと、暫くは成長致しますが、やがて独善的になり、場合によっては凶悪化して、再び停滞する事となります。この他律的信仰、自律的信仰を交互に施行して、無限に続いて来たというのが、ニンゲン行政の実態とも言えるものでございまして、我々こそが無間地獄に落ちている、と見られなくもありません。(議場、笑いあり。)誠に申し訳ない事でありますが、宗教政策のみでなく、実効性のある様々な政策手段を用いて、目に見える結果を実現して参ります。従いまして、先程のシジュウカラ委員のご提案につきましては、ニンゲンによる鳥類言語の研究が進展し、ニンゲンとの対話が可能になった場合であっても、直ちにそれをもって政策手段として採用する、という事にはならないのでは無いか、と現時点では考えているところでございます。」
議長「シジュウカラ君。」
シジュウカラ「そうですか、そういう御苦労が有るんですね。私からは以上とさせて頂きます。」
議長「お時間も迫って参りましたので、最後に、宜しければ神様、一言賜る事が出来ますればと存じます。」
(神様、答弁席に進まれる。)
神様「みんな、すまんのう。これからも、頼むなぁ。」
(神様、お席に戻られる。)
議長「勿体ない御言葉、誠に有り難く存じます。一同の胸に染み渡り、皆感激の極みでございます。神様、本日はご臨席を賜り、誠に有難うございました。それでは、時間となりましたので、閉会と致します。皆さん、ご苦労様でした。」 おわり