相談内容を教えよう
敬一に話を聞くにあたっていくつか問題があった。
まず、
「アイツがどこにいるかを知らない……」
ということだ。
何組かわからない以上むやみに教室を回るわけにはいかない。
なぜなら、慶喜は校内から悪い意味で目立っており、一部を除いてほぼ全ての人から目をつけられている。そんな慶喜が教室を手当たり次第回っているなんてことがあったら瞬く間にその情報は美優と月葉にも届いてしまう。今受けている相談は美優と月葉にバレてしまっては隠している意味がなくなってしまう。
(つうか、アイツの名前も他人から聞いたくらいだしな。アイツは言わなければいけないことを言わずに話を進めるからな……)
どうしたもんかと慶喜が考えていると、運がいいことにその相手から声をかけてきた。
「おぉ、お前! なんて言ったっけ? 確か……よしのぶだ!」
「あぁ……。まぁ……うん」
二人揃って間違っているが同様に訂正する気は全くない慶喜は諦めたようにため息をつく。慶喜の記憶が正しければ、初めて会ったときは『けいき』ときちんと言っていたはずだが、どうやら漢字を覚えていただけらしい。
「憶えてっか!? 俺だよ、俺!」
「『俺』でわかったらすげぇな。あと、前から俺がお前を知っているような呼び方すんな」
「憶えてねぇのか!?」
「憶えてる。憶えてる。騒ぐな。うるさい」
「そこまでうるさくねぇだろ?」
「うるせぇから言ってんだよ……」
頭を抱えて疲れを見せる慶喜に対して、敬一はお構いなしに朝から騒がしい声を出す。
「それでだ、それでだ! 考えてきてくれたか!?」
「何をだ……」
「何って……お前本当に忘れたのか!? 相談だよ、相談! 俺の!」
「考えるも何もお前の相談の詳細を知らないんだよ」
「言っただろ!?」
「言ってねぇよ。思い出せ」
「…………あっ! 本当だ! 悪い!」
「お詫びに静かにしてくれねぇかな」
慶喜の心からの声は敬一に届くわけもなく、敬一はニカッと笑う。その笑みに思わず慶喜は拳を握ってしまったが、その拳を上げることはなく自分を落ち着かせるように力を緩める。
(こんな奴とは相談が終わったらおさらばだ。落ち着け、俺)
他人の評価など気にする慶喜ではないが、かといって事を立てたいわけでもない。必死に自分の心に落ち着きを取り戻すように促すと、なんとか精神が敬一に勝った。
「それじゃ、改めて自己紹介するぜ。俺は葛西敬一。よろしくな。よしのぶ!」
「あ~……。俺は志賀よしのぶだ」
「おう! 知ってるぜ!」
(その言葉を聞くだけで知らねぇことが俺はわかったよ)
そんな慶喜の考えは露とも知らず、敬一は話を進める。
「俺はどこまで言ったっけ?」
さっき思い出したんじゃねぇのかよ、と思った慶喜だったが口には出さない。言ったところで無駄を通り越して面倒くさくなるだけだ。
「お前の好きな女子の好きな人の好きな人がお前、ということまでは聞いた」
「そうだった、そうだった! それでな!」
「だから声落としてくれねぇか」
「良く聞こえるだろ?」
「……そうですね」
先ほど話を逸らさないように気を付けたばかりなのに、早速逸らしてしまった慶喜は完全に諦めた。
(こいつと今後会話しようとはもう絶対思わねぇ)
「それでだ。俺からの相談内容は『俺はこれからどうすればいいか考えて欲しい』ということだ」
「……ざっくりしすぎじゃねぇか?」
「俺自身混乱してんだよぉ!」
「そうか」
(お前と話しているこっちが混乱してんだよ)
敬一が頭をグシャグシャとかき乱すのを見届けてから慶喜は咳払いをしてから、話を続けようとする。
「お前が言いたいことはつまりこういうことか? どうやってその告白を断ろうか、それともどうやって相手を諦めさせられるか、ってことか?」
「そうそう! そういうこと! もちろん、違う方法があるならそれでもいいんだけどよ!」
そう言われて慶喜は少しの間考えていたが、思い出したように携帯を取りだし、時間を確認する。
望がラブレターを書いている教室から出てから十分が経っていた。そろそろラブレターを書き終わっている時間であろう。
敬一の相談は今この場で考えつくものでもないので、慶喜は敬一を見て、
「相談はわかった。明日までには考えておく」
「明日ってそんな悠長な……」
「お前にとっては悠長でも、俺にとってはだいぶ急いでいるんだよ。それに、お前は俺に相談してきた身。それが嫌なら相談は受けない」
「まぁ……それなら仕方ねぇか……」
どこか不服そうな敬一だが、慶喜としてはさっさと話を切り上げて戻りたい。
話は終了だ、と言わんばかりに慶喜は教室へ戻ろうとしたが、そこで敬一が呼び止めた。
「それじゃ明日、俺は部室に行けばいいのか?」
「部室に行ったら相談は受けないからな」
「はぁ!? なんで!?」
「なんでもだ」
こういうときに使う言葉でこれほど便利な言葉はないだろう。
慶喜は敬一を有無を言わさず黙らせると、早足で教室へと戻っていった。
そんな慶喜の後ろ姿を見ながら敬一は、
「ま、いっか」
と、楽観的に受け止め、教室に戻っていった。




